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仙台市の企業表彰応募チェックシート「さいたまのリスト盗用」 作成者が苦情 表現一部は完全に一致

「盗用」と苦情が寄せられた仙台市作成のチェックシート。さいたま市のチェックリストと表現が一致、酷似する項目が多数ある
企業大賞のリニューアルを郡和子市長が発表した2019年度の表彰式=1月下旬、仙台市青葉区の仙台国際センター

 「仙台市が私の執筆した『作品』を窃用(せつよう)した。非常に大きな精神的苦痛を受けた」。地域発展や市民生活向上に貢献した市内の中小企業を表彰する「仙台『四方よし』企業大賞」を運営する市に対する苦情が「読者とともに 特別報道室」に寄せられた。事情を探ると、他自治体の政策を安易にまねする意識の低さが見えてきた。

 盗用を指摘されたのは地元企業が大賞に応募する際に記載する「セルフチェックシート」で、2018年度まで使用されていた。

 さいたま市のCSRチャレンジ企業認証制度で使われる「CSRチェックリスト」と一部表現が一致や酷似している。苦情を申し立てたのは、同市のリストを作成した経営コンサルタントの男性(40)だった。

 「就業規則などの行動規範を定め、従業員が常に参照可能な状態にしている」 「事業の持続可能性に関わる重要なリスクを把握している」

 仙台市のチェックシートに記載された項目は句読点以外、完全に一致する。一部の文言を言い換えたり、要約、省略したりしただけの項目も散見された。

 市経済企画課は男性の指摘を踏まえ、19年度の大賞募集からセルフチェックシートの活用を取りやめた。

 担当者は「さいたま市のリストを参考にしたが、同市にも、男性にも事前の承諾をもらっていなかった」と釈明した。

 さいたま市は「自治体間で先進的な政策をまねすることはよくある」として特に問題視していないが、男性の怒りは収まらない。

 さいたま市は銀行系の公益財団法人に認証制度事業の事務局業務を委託し、男性は財団法人からチェックリスト作成など一部業務を受注した。男性と財団法人はチェックリストが著作物であり、その「著作者人格権」=?=は男性に帰属するとの認識を強調する。

 男性は「著作者人格権により、作者は意に反した改変を受けない権利を保障される。仙台市は私が執筆したリストを安易に圧縮改変し、意思にそぐわない形で劣化させた」と訴える。

 市は男性に不快な思いをさせた点を謝罪するが「著作者人格権が男性にあるかどうかは明確でない」と主張し、男性が求める補償協議には応じない。男性は「取り付く島もない対応が続けば、刑事告訴も検討する」と憤慨する。

 専門家は一連のトラブルは仙台市の怠慢や惰性が招いたと指摘する。

 東北大大学院情報科学研究科の河村和徳准教授(政治学)は、先進自治体の政策を模倣することに一定の理解を示しつつ、安易な取り組みにくぎを刺した。

 「政策を学ぶならば、市はリストの発案者にも話を聞き、自らの血肉とすべきだった。本質を理解しなければ『仏を作って魂入れず』という状況に陥る」と警鐘を鳴らす。(小木曽崇)

<仙台「四方よし」企業大賞>「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」に加え、「働き手よし」を実践する中小企業を表彰するため、仙台市が2016年度に創設した制度。地元中小企業に独創性ある社会的課題の解決、魅力的な職場環境づくりなどの優れた取り組みを促すことが狙い。

<著作者人格権>著作権法で定められた権利。著作者だけが保有し、譲渡や相続はできない。著作物の内容を他人に勝手に改変されない「同一性保持権」、著作物を公表するかしないか決められる「公表権」、著作物に氏名を表示するかしないか決められる「氏名表示権」がある。

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