「復興再考」第8部 なりわい インタビュー/宮城学院女子大・石原慎士教授

 いしはら・しんじ 弘前大大学院博士後期課程修了。八戸大准教授、石巻専修大教授などを経て2018年4月から現職。専門はマーケティング論。名古屋市出身。

 東日本大震災後の「なりわい」の再生には、多くの課題があった。10年を経て、これからの地域に何が必要か。宮城県石巻市を中心に被災地企業の現状を研究してきた宮城学院女子大の石原慎士教授(50)=マーケティング論=に聞いた。

 -被災企業の震災後10年の動きをどう見るか。

 「津波で生産基盤を失い、グループ化補助金で設備を復旧したものの、販路を失った。補助金の自己負担分(復旧経費の4分の1)は5年間の返済猶予があったが、売り上げが伸びなければ返済できない。販路確保のため、今までと異なるビジネスを展開する必要に迫られた」

 「石巻の企業に対し、設備復旧までの間、自社製品を県外で生産することを提案した。経営者は自社生産が原則という考えが強く、ノウハウ流出を懸念していたが、2社が賛同した。代替生産で客をつなげば、販路を維持できる。災害に備えたBCP(業務継続計画)としても重要だ」

 -グループ化補助金をどう評価するか。

 「各社は事業再開に不安を抱いており、生産を回復するために補助金は有用だった。ただ当初はハードの復旧、しかも震災以前の水準までが条件だった。新規事業に取り組みたいと思っても適用されなかった」

 「原状復旧の場合、設備は1980~90年代の規模となる。震災時の経営環境では過剰な投資だ。一方で身の丈に合った復旧ができた企業はそれほど苦しんでいない。補助金を使って整備した設備も融通や譲渡ができる制度があればいいかもしれない」

 -補助金が、本来淘汰(とうた)されるはずの企業を「延命」させたとの見方がある。

 「私の考えは違う。その地で企業が何代も事業を営み、産業に貢献してきたのは事実。企業が集積して産業が成り立ち、それぞれ役割を担ってきた。企業が減れば産業は縮小する」

 -今後、被災企業に何が必要か。

 「震災直後は公助に期待する企業が多かったが、行政が全てに対応することは難しい。産業復興の本質は、民間を主体に、行政がバックアップ、経済団体や大学がコーディネートするといったそれぞれの役割を自覚することだ」

 「石巻のある水産加工業者は、従来の安売りを脱却して大手との差別化を図った。販売先は増えていないが、付加価値が増えて狙い通りに減収増益となった」

 「業種の壁を取り払い、地域資源を生かした住民主導の『内発的発展』の意識が必要だ。異業種が連携することで、地域の個性が出る。個性を付加価値として、営業力や商品提案力を強化していく必要がある」

文化生かし商品開発 石巻フードツーリズム研

 石原教授が挙げる異業種連携の一例が、石巻市の企業や大学などが2016年に設立した「石巻フードツーリズム研究会」だ。傘下の石巻おでん部会は、地元の練り物文化を生かして付加価値を高めた商品を開発し、共同で提案する。

 部会には水産加工会社や食品メーカー、飲食店など100社近くが参加。石巻が発祥とされる「ぼたん焼ちくわ」や、金華サバの中落ち付き中骨を使った揚げかまぼこ、サバだしなど、原料は全て国産だ。

 17年から月1回、カクト鈴木商店で2時間限定の直売会を開催。10社が集まり具材などを販売する。部会長で山徳平塚水産の平塚隆一郎社長(61)は「震災を機にチームでやる空気ができた」と話す。20年11月には、宮城学院女子大と連携して開発したレトルトを発売。売れ行きは上々だ。

 石原教授は「地元客も直売会を歓迎している。同業者が本音を言い合える有機的な関係が築けた」と手応えを語る。

月1回、2時間限定で開かれる「石巻おでん」の直売会=1月16日、石巻市のカクト鈴木商店
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