震災前の港町の姿、保存・活用 国立アーカイブに映画「お菓子放浪記」収蔵
東日本大震災前、石巻地方をメインロケ地に撮影された映画「エクレール お菓子放浪記」が、国立映画アーカイブ(東京都)に正式に寄贈されることが決まった。今後、保存しながら上映会などに活用してもらう。映画は震災があった2011年に完成。震災から10年の節目に新たな役割を得て希望の物語を伝えていく。
「お菓子放浪記」は10年10月から1カ月間、石巻市を中心に県内各地で撮影され、11年2月に完成、3月10日に東京で完成披露試写会が行われた。ところが翌11日、震災が発生。一時、全ての上映会が中止に追い込まれた。初公開は5月、東京だった。その後、被災地支援の願いを込めた上映会運動の輪が広がり、「復興のシンボル」として全国47都道府県、約850カ所で上映、約45万人が観賞した。
全国上映が一段落した中で製作委員会は作品の今後の扱いを検討。北上川河口のヨシ原や中瀬の岡田劇場など、震災で失われてしまった情景が映画の中に映し出されていることから保存と管理を東京国立近代美術館フィルムセンター(国立映画アーカイブの前身)に委ねることにした。先日、正式に収蔵が決まった。
国立映画アーカイブは、独立行政法人「国立美術館」6館のうちの1館。日本で唯一の国立映画専門機関で、映画の保存・研究・公開を通して映画文化の振興を図る。「お菓子放浪記」は今後、館内での上映や館外利用者への貸し出しなどに活用される。フィルム撮影だったためデジタル化も進められる予定だ。
製作委員会代表だったシネマとうほく(仙台市)の鳥居明夫社長(72)は「震災から10年の節目の時に寄贈となることも、この映画の不思議な運命だったのかもしれない。フィルムは劣化しやすいので、国の施設は保管場所として最適。作品は半永久的に残り、希望を描いた物語として伝えられていくと思う」と話す。
■映画「エクレール お菓子放浪記」
原作は西村滋さんの「お菓子放浪記」。孤児の少年が貧困や、親しい人を戦争で亡くした絶望を乗り越え、不思議な力を持った食べ物・お菓子に希望の象徴を見いだし、前向きに生きていく物語。
監督は近藤明男。少年役に吉井一肇。ほかにいしだあゆみ、林隆三、高橋恵子、遠藤憲一、春風亭昇太、尾藤イサオ、山田吾一らが共演。上映時間105分。