震災10年の岐路・石巻市長選(中) 人口減と経済 労働力不足、募る危機感
東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻市。復旧・復興にまい進してきた10年が過ぎ、人口減少や新型コロナウイルス禍への適応などまちづくりは岐路に立つ。任期満了に伴う市長選(18日告示、25日投開票)の争点に浮上する課題と展望を探った。(保科暁史)
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時速20キロ未満の電動車両に住民が乗り合わせ、スーパーや銀行に出掛ける。東日本大震災の被災者が移転した石巻市のぞみ野地区で3月19日、新たな移動手段「グリーンスローモビリティー」の運用が始まった。
事業は昨年7月、県内で初めて内閣府の認定を受けた「自治体SDGsモデル事業」の一環。半島部にも展開して高齢者らの孤立防止を図り、コミュニティーを持続可能にする狙いがある。運用開始のセレモニーで亀山紘市長は「誰一人取り残されないまちの第一歩にしたい」と力を込めた。
全国的な人口減少の流れが震災の被災地で加速する。市総合計画審議会が3月に答申した第2次総合計画(2021~30年度)案で、30年の目標人口は12万5400に設定された。施策の効果による転入者増加や出生率向上を見込んだ数字だが、震災前の10年と比べて約3万5500(約22%)少ない。
<雄勝3割以下に>
被害の大きかった半島部は人口流出が深刻で、雄勝地区は既に震災前の3割以下に減った。市はグリーンスローモビリティーを高台に移った住居と路線バスの停留所をつなぐ手段に想定するが、住民には「そもそも路線バスを維持できるのか」という懸念が先立つ。
人口減は地域経済の縮小にも直結する。
基幹産業の水産加工業を含む製造業。震災後、再建しても販路を取り戻せないままの企業が多い。市場の縮小も見据えて全国や海外に活路を探るが、労働力不足への危機感は強い。
<求職者落ち込む>
石巻公共職業安定所管内の1月の有効求人倍率(原数値)は1.86倍で、東北の安定所別では3カ月連続で最も高かった。求職者数の落ち込みが目立ち、安定所の担当者は「労働市場の動きが鈍く、人手不足は慢性化している」とみる。
地元に就職する若者の少なさも大きな課題だ。毎春卒業する高校生の約4割、石巻専修大生はほとんどが圏域を離れる。
地元経済団体の幹部は「人口も自治体間で奪い合う時代になる。UIJターンを含め、若い人が住みたくなるような独自性のある政策が必要だ」と指摘する。