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トンガ沖・海底火山噴火 石巻地方沿岸部に避難指示

日和山で寒さに耐えながら海を眺める避難者=16日午前1時5分ごろ、石巻市日和が丘
避難場所の石巻市総合体育館の駐車場には住民の車両が次々と訪れた=16日午前0時40分ごろ
避難所の入り口に体温計と消毒液を備え、市民の避難に備える東松島市職員=16日午前1時5分ごろ、市矢本東小講堂
クレーンで引き上げられる転覆した漁船=17日午前10時30分ごろ、東松島市宮戸の潜ケ浦東護岸

 南太平洋・トンガ沖の海底火山で15日に大規模噴火が発生し、気象庁は16日午前0時15分、石巻地方を含む太平洋側全域を中心に津波注意報を発表した。石巻市鮎川で70センチ(16日午前2時11分)など各地で津波を観測。石巻地方2市1町は沿岸部に避難指示を出し、住民が高台に避難した。漁船の転覆や交通機関の運休など影響が広がった。

 鹿児島県奄美群島・トカラ列島や岩手県には津波警報が出た。石巻地方では石巻港でも50センチ(16日午前7時2分)を観測した。

 石巻市は石巻、河北、北上、雄勝、牡鹿各地区の災害危険区域に避難指示を発令。当初は対象を5万3595人としていたが、その後、3800人に訂正した。市総合体育館など7カ所を避難場所として開場し、2カ所に最大11人が避難した。

 東松島市は沿岸部の370世帯933人に避難指示を出し、避難所17カ所を開設。4カ所に最大12人が身を寄せた。女川町は沿岸部に避難指示を出したが、避難所は設置しなかった。

 第2管区海上保安本部(塩釜市)によると、16日午前11時ごろ東松島市宮戸松ケ島の潜ケ浦地区で、係留していた漁船2隻が転覆と流出しているのが見つかった。1隻は係留場所で転覆し、もう1隻は南に約300メートル流された位置で発見された。けが人や油漏れはなかった。

 転覆した「JF東松島丸」(3.8トン)を所有する東松島漁業生産組合の役員、熊谷義宏さん(50)は「修理は不可欠で、他の船で代用するしかない。想定外の出来事でまさかとしか言い様がない」と語った。

 注意報が解除されたのは発表から約14時間後の16日午後2時で、交通機関などへの影響は長期化した。JR仙石東北ラインの全線と仙石線、石巻線の一部区間が始発から運休。仙石線、仙石東北ラインは午後3時ごろまで運休が続いた。

 宮城交通、ミヤコーバス石巻営業所の路線バス、高速バスも朝から運行を見合わせた。石巻市の網地島ラインや女川町のシーパル女川汽船などの離島航路でも欠航が相次いだ。

 沿岸部の公共施設は多くが休館した。石巻市では石巻南浜津波復興祈念公園内の「みやぎ東日本大震災津波伝承館」、石ノ森萬画館などが終日休館。東松島市は奥松島縄文村歴史資料館や矢本海浜緑地パークゴルフ場などの利用を中止した。女川町では町まちなか交流館が休館。JR女川駅前商業エリアでは一部店舗が臨時休業した。

<「心配なし」一転「注意報」、自治体も難しい対応>

 遠く離れた南太平洋で発生した海底火山の噴火が、日本列島に津波をもたらした。前例のないケースに石巻地方の自治体も難しい対応を迫られた。

 気象庁は噴火から約6時間後の15日午後7時3分、「被害の心配はない」と発表したが、16日未明に一転、津波警報・注意報に切り替えた。

 石巻市は注意報発表を受けて災害危険区域に避難指示を出した。対象人数は本来、区域内の就業者らを推計した3800人だったが、防災メールなどでは津波警報時の対象エリアの推計数を誤って記載した。市危機対策課の三浦義彦課長は「遠地津波で情報も錯綜(さくそう)していた。指示対象を広げるか検討していて、その人数を入力してしまった」と説明した。

 地震もなく深夜に突然発表された注意報に、気付くのが遅れた職員もいたという。三浦課長は「想定外は起こり得る。今回のことも検証し、すぐに避難できる備えが重要だ」と語った。

 東松島市でも深夜で気付かなかった職員がいたという。市防災課の奥田和朗課長は「びっくりしたというのが本音だが、地震も突然発生する。いつ何があっても対応できる準備が大事だと再認識した」と話した。

<未明のサイレンに緊張>

 16日未明に日本列島の広範囲に発表された津波警報と注意報で、東日本大震災で被災した石巻地方にも緊張が走った。前触れとなる地震がなく、未明に突然鳴り響いたサイレンが恐怖心をあおり、慌てて高台に逃げる住民の姿があった。

 石巻市日和が丘2丁目の日和山公園には、震災を思い出して高台を目指した人々が集まった。車や徒歩の避難者がまばらに訪れ、車の中から外の様子をうかがったり、寒さに耐えながら海の方向を眺めたりした。

 友人2人と車で避難した東松島市小野の会社員女性(21)は「サイレンの音に驚いて逃げてきた。震災を思い出してすぐに家族に連絡した」と語った。

 1人で避難した同市大街道北の40代会社員男性は「海底火山の噴火は知っていたので焦らなかったが、念のためという気持ちで様子を見に来た。サイレンの音にはかなり驚いた」と話した。

 避難場所として開場された市総合体育館には避難者の車両約10台が集まり、車の中で状況を見守った。娘と避難した同市大街道南の会社員女性(53)は「最初はサイレンの意味が分からなかった。よく聞いたら津波注意報だったので慌てて出てきた」と語った。

 新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、各避難所はマスクや消毒液の用意など感染対策を整えて避難者を待った。一方で、深夜の厳しい寒さもあり、施設内には入らず駐車場に止めた車の中で過ごす住民の姿が目立った。

<長面浦のカキ養殖棚、数メートル移動>

 16日午後に津波注意報が解除されたことを受け、石巻地方の漁業関係者は被害状況を確認するなど対応に追われている。石巻地方では17日までに大きな被害は確認されていない。

 県漁協によると石巻市長面浦で、カキの養殖棚が数メートル移動し、棚同士が重なったなどの報告はあったが、他の浜でも目立った被害はないという。しかし、現状の被害状況は目視で確認できるものが中心のため、カキの落下など、海中の状況を含めた全容の把握には時間がかかる見通し。

 カキ養殖を営む県漁協石巻総合支所の木村千之運営委員長(70)=同市小渕浜=は「津波が来ると知って不安だったが、いかだのロープが緩む程度ですんだ。カキのシーズンも残っているので、被害がないのはよかった」と安堵(あんど)する。2月下旬ごろから収穫期を迎えるワカメ漁師は今後の状況を注意深く見守る。

 石巻市北上町十三浜大指の遠藤俊彦さん(47)は「十三浜は外海で波に強い場所。今回のような津波であれば耐えることができる」と話す。それでも「ワカメが成長する時期や収穫の最盛期に重なると少なからず影響は出てしまうので、早く落ち着くことを祈るばかりだ」と語った。

 東松島市は17日、県漁協の宮戸、宮戸西部、鳴瀬、矢本の4支所に被害状況を照会した。潜ケ浦地区での漁船転覆以外は、目立った被害は報告されていない。種ガキやワカメ養殖などで現場確認できていない部分があり、確認を急ぐ。

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