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<311むすび塾>津波避難 素早く高く/第107回ワークショップ@宮城・女川

危険箇所 子どもの視点で

講師とともに防災マップを作り上げていく児童ら=2022年9月12日、宮城県女川町の女川向学館
児童らが地域を探検し、海抜や危険箇所について調べた=2022年9月12日、宮城県女川町
ぼうさい探検隊では、河北新報オンラインニュース「東北の津波浸水想定マップ」で女川小周辺の浸水深を調べ、津波の先端を確認した

 河北新報社は2022年9月12日、107回目の防災ワークショップ「むすび塾」を宮城県女川町で開いた。女川小の4、5年生16人が、東日本大震災で甚大な津波被害を受け、復興が進む街中心部を歩きながら、子どもの視点で危険箇所や備えの課題などをチェックし、防災マップにまとめた。

 日本損害保険協会(東京)の安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を活用し、町教委と子どもの学習を支援する放課後施設「女川向学館」が協力した。

 石巻地区消防本部の野田和好さん(53)が、女川町を襲った津波について講話をした。震災時、勤務先の女川消防署屋上で津波にのまれたが、九死に一生を得た。「津波から身を守るには、より遠く高く避難することが大事だ。街を歩きながら、避難場所やルートを見てほしい」と述べた。

 児童は3班に分かれ、学校周辺を探検しながら、シーパルピア女川にある向学館を目指した。スマートフォンのアプリで海抜を調べたほか、河北新報オンラインニュースの「津波浸水想定マップ」で県の新しい浸水想定エリアを確認した。

 1班はスーパー「おんまえや」や町地域医療センターを回った。鉄柱の上の電気設備には「地震の揺れで倒れないかな」との声が漏れた。歩道脇にふたのない側溝を見つけ、互いに注意を呼びかけた。電柱の高い位置に取り付けられた避難所の案内板に対し、「子どもには見えにくい」と指摘する場面もあった。

 2班は高台の白山神社に登った後、港に向かった。浸水想定では学校近くの町役場や住宅地の途中まで水に漬かる表示になっていて、「ここまで津波が来るなんて」と驚いた様子だった。集会所の外壁に自動体外式除細動器(AED)があることも確認した。

 3班は女川スタジアムから災害公営住宅「町営大原住宅」のある高台を歩き、危険箇所として宅地の擁壁などを地図に記入した。町総合体育館で公衆電話、大原住宅前で災害時に飲み物を提供する自動販売機を見つけ、「災害時に役に立つね」と言い合った。

 防災マップは向学館で作った。探検で見つけた自販機、ブロック塀、公衆電話、避難場所などを記入。シート状のチョコレートを重ねて調査地点の海抜を示し、浸水想定エリアも書き込んだ。完成後、各班の隊長が探検の成果を発表した。

大震災で犠牲者827人、住宅2924棟全壊

 東日本大震災で宮城県女川町は最大14.8メートルの津波に襲われ、犠牲者は827人に上り、住宅2924棟が全壊した。

 当時、女川消防署に勤務していた野田和好さん(53)は揺れが収まると、住民に避難を呼びかけ、消防署の車を高台の女川一中に移動した。

 庁舎に戻った後、津波が建物に流れ込んできた。屋上に逃れ、さらにアンテナ塔によじ登ると、町はほとんど水没していた。漁船が塔にぶつかり、衝撃で濁流に投げ出された。漂流物につかまって、何とか家の屋根にはい上がった。

 しばらくして引き波が始まった。押し波よりも流れが速く、沖に運ばれそうになった。宮城県原子力防災対策センターから飛び出た鉄骨に、擦れ違いざまに飛びついた。建物の屋上には十数人が避難していた。

 近くの女川一中にいる住民に助けを求めようと、避難者は大声を出し、代わる代わるホイッスルを吹いた。気づいた人がいて、同僚が持ってきたはしごやロープを使って高台に登った。

<講評>

■日本損害保険協会東北支部事務局長 生駒新一さん(55)/逃げ切れる範囲 確認を
 今日のポイントは、海抜を調べたこと。どの場所が何メートルぐらいで、津波が来たら、どの辺りまで水に漬かるのか、確認できた。再び大きな津波が発生したときには、どこまで逃げる必要があるのか、ぼうさい探検隊を思い出して、ぜひ逃げ切ってほしい。

■石巻地区消防本部消防司令長 野田和好さん(53)/防災マップ 学級通信に
 みんなで作った防災マップを学級通信などにして、他の子どもたちにも分かるようにしたらどうか。家庭でも地形の特徴や、避難場所、危険な箇所を確認できる。今後も通学途中などに調査を続け、気付いたことをマップに加えれば、もっと安全な街になる。

■女川町教育委員会教育指導員 坂本忠厚さん(61)/学んだことを伝えよう
 女川町は、過去に何度も津波被害に遭ってきた。皆さんには自分の命を守るとともに、将来の子どもたちや、これから女川で暮らす人たちにとって、住みやすい町になるように、防災の勉強を続けてほしい。まずは今日、学んだことを家族や友達に伝えよう

日本損害保険協会の「ぼうさい探検隊」

「ぼうさい探検隊」は日本損害保険協会(東京)の安全教育プログラムで、児童たちが地域を歩き、防災、防犯、交通安全に関する危険箇所や役に立つ施設を調べ、マップを作成する。

 河北新報社は2014年から協会と連携し、探検隊のノウハウを活用したむすび塾を開催している。

 損保協会は毎年、ぼうさい探検隊マップの全国コンクールを行っている。21年度は、全国371団体、児童5697人が参加し、971作品の応募があった。

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