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<311むすび塾>イラストで易しく誘導/第105回巡回ワークショップ@松島高

観光客の津波避難

観光客に避難を促すアイデアを発表する観光科の生徒=2022年7月15日、宮城県松島町の松島高
松島高の生徒のアイデアを基に作成した避難を促すイラストの試作品
避難誘導訓練で2次避難場所を目指し、坂を上る松島高観光科の生徒たち=2022年度5月30日、宮城県松島町松島

 河北新報社は2022年7月15日、通算105回目の巡回ワークショップ「むすび塾」を宮城県松島町の松島高で開いた。観光ボランティアガイド研修の一環で、津波を想定した避難誘導訓練に取り組む観光科の1~3年生9人と、助言者として松島観光協会の志賀寧(やすし)会長(69)が参加。活動の成果と課題、観光客に避難を促すアイデアを語り合った。

 生徒は東日本大震災の自分や家族の体験を振り返り、「停電と断水が続き、何度も水くみに並んだ」「家族と連絡がつかなかった」などと報告。東松島市で津波に遭った1年奈良坂千夏さん(16)は「足元に来た水たまり程度の津波が怖くて動けず、消防団の父の先輩が担いで避難させてくれた」と語った。

 志賀さんは震災後、塩釜地区消防本部消防長として災害対応に当たった。生徒たちに「皆さんが覚えている震災の経験は必ず将来の防災に役立つ。忘れずに語り継ぎ、次の災害に生かしてほしい」と呼びかけた。

 避難誘導訓練は、生徒がガイド役と観光客役に分かれて実施する。2年の斎藤優空(ゆら)さん(16)は「ガイド、観光客と異なる視点で行動してみて気付くことは多い。誘導をする際は、災害時の季節や天候、観光客の体調といったことに配慮する必要がある」と報告した。

 3年深田璃利加(りりか)さん(17)は「高台に向かう道は狭かったり、坂が多かったりする。車いすや体の不自由な人をどう素早く避難させるか、考えないといけない」と課題を挙げた。

 同校は県が5月に発表した津波浸水想定を受けて、災害時初動マニュアルを改定した。監修した志賀さんは「訓練は繰り返すことが大事だ。臨機応変に動けるよう内容を発展させてほしい」と助言した。

 生徒は学年ごとに3人一組で避難を促すイラスト案と活用法を取りまとめ、プレゼンテーションをした。イラストには五大堂や宮城県の観光PRキャラクター「むすび丸」などを配し、松島の魅力や親しみやすさを演出した。

 2年生は地震と津波、避難方向のピクトグラムを図案に入れた。佐藤美沙希(みさき)さん(16)は「地震や津波を知らない外国人に危険を伝えることを考えた。通信が使えない時のため、チラシを店の入り口に置いたり、土産品用の袋に入れたりして目に付くようにしたい」と説明した。

 1年生は活用法をひと工夫。佐々木あすかさん(15)は「高台避難の経路が分かるイラストを、レシートや宿泊施設のカードキーに印刷してはどうか」と提案した。

 志賀さんは「高校生のアイデアは注目されることが多く、報道で一気に広まる。実習先や防災に取り組む企業にアピールして、普及させてほしい」と高校生の発信力に期待した。

ガイド・観光客役で訓練/新たな浸水想定に対応

 松島高観光科は、地域の観光資源である日本三景松島の地の利を生かし、観光関連産業に関わる人材育成を目的に2014年4月に開設された。募集定員は80人。観光、旅行、地域の歴史を学ぶ授業のほか、販売、ホテルの実習、田植え・稲刈り体験、祭りの運営にも取り組む。

 観光ボランティアガイドの実習では、県外の小中高生や団体客のガイドを引き受けている。20年度からは、観光名所を巡っているさなかに津波が発生したと想定し、避難誘導訓練も始めた。

 今年は5月30日に3年生、6月25日に1、2年生が、県の新たな津波浸水想定に基づく訓練に臨んだ。ガイド役が観光客役を先導し、瑞巌寺近くの松島防災センターに避難。避難者の人数や健康状態を確かめた後、さらに高台にある三十刈避難所への2次避難を行った。

<助言者から>

■日用品に防災情報印刷 有効/松島観光協会会長 志賀寧さん(69)

 生徒向けの災害時初動マニュアルは災害が起きた後、判断に迷ったときに見て、行動の参考にしてほしいと思って監修した。まず災害対応の基本を身に付けて自分の命を守った上で、助ける側に回ってもらいたい。

 避難誘導のイラストは世界共通のピクトグラムを入れると、文字を使わなくても行動や避難の方向が伝えられる。塩釜地区消防本部時代に火の用心を広めるため、防火の注意点をトイレットペーパーに印刷したことがある。防災情報を伝える手段として、普段、何度も目に触れるものに印刷するのは有効だ。

<メモ>東日本大震災をはじめとする自然災害の被災体験を振り返り、防災の教訓や課題を考えてみませんか。町内会や学校、職場など少人数の集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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