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<311むすび塾>同世代の知恵共有/第104回巡回ワークショップ@311メディアネット

全国の10~30代 意見交換

宮城県東松島市大曲小の前で、震災当時の様子を話す雁部さん=2022年2月11日
話し合いを終えて、誓いの言葉を記した紙を掲げる参加者たち

 河北新報社など全国の地方紙、放送局でつくる「311メディアネット」は2022年2月11日、全国13カ所をオンラインで結び第104回防災ワークショップ「むすび塾」を実施した。東松島市から大学生が中継で東日本大震災の語り部を務めたほか、各地で災害伝承や防災に取り組む10~30代の若者が災害の教訓を共有した。

 東松島市大曲小5年で被災した東北学院大3年の雁部那由多(がんべ・なゆた)さん(22)が語り部を務めた。現地から地震発生後の避難行動をたどりながら、約5メートルの津波に襲われた大曲小での体験や震災伝承の課題を語った。

 質疑応答でお年寄りに避難行動を促す方法を問われた雁部さんは「震災で逃げた理由に『気に掛けてもらったから』という回答があった。訓練などで、あなたにも助かってほしいと伝えることが大事だ」と答えた。

 話し合いの前半は、各地の参加者がそれぞれの地域の自然災害と教訓を報告した。北見工業大(北海道)4年の林崎翔汰さん(22)は、2018年の北海道地震で全域停電(ブラックアウト)が起きたことを踏まえ、「冬に停電が起きて暖房設備が停止した時の対策を考える必要がある」と話した。

 1944年に発生し、1223人が亡くなった昭和東南海地震を調べたのは名古屋大2年の坂上野々香さん(20)。将来の南海トラフ地震を念頭に「被害を減らすために過去の地震や津波を知ることが大切だ」と語った。

 福井県永平寺町の看護師前川莉沙(りさ)さん(29)は小学6年で、2004年の福井豪雨を体験した。「家族は床上浸水してようやく避難した。早めの行動が必要だった」と振り返った。

 宮崎市熊野では1662年に津波で200人が亡くなった外所(とんところ)地震の供養碑が、50年おきに建立されている。宮崎大2年の盛満優雅(ゆうま)さん(20)は「外所地震を広く伝える必要があるが、現状は認知度が高いとはいえない」と明かした。

 助言者を務めた東北大災害科学国際研究所の今村文彦所長は、災害情報を入手する際の注意点として「善意で間違った情報が会員制交流サイト(SNS)で伝わる場合もある。公共の情報にアクセスし、確認してほしい」と求めた。

 後半は日頃の備えや防災活動の知恵を出し合った。子どもが防災に親しむアイデアについて、神奈川県金沢総合高1年で防災士の橋本玄(はるか)さん(16)は「自分なら遊びながら学びたい。防災講習で防災運動会、防災キャンプなどに取り組んでいる」と話した。

 静岡県焼津市のIT企業サンロフトの小林大介さん(30)は「仮想空間のメタバースに自分の街や学校を作ることで、避難や消火といった活動もできる」とIT技術の活用を呼び掛けた。

 災害時の判断を養うカードゲーム「クロスロード」を紹介したのは関西学院大(兵庫県)1年の長谷川侑翔(ゆうと)さん(19)。「頭を使うと印象に残るし、防災に向き合うきっかけにもなる」と述べた。

 若い世代に防災をPRする工夫として、龍谷大(京都府)3年の川端麻友さん(21)は「食事宅配サービスのように目立つリュックで学生に防災グッズや非常食を届け、その様子を動画配信したら面白いのではないか」と提案した。

 高知国際高1年の畑山莉晏(りあん)さん(16)は、家族と被災時の集合場所を決めているほか、10円玉を持ち歩いている。「携帯電話の電池が切れても公衆電話を利用できる。行く先々で公衆電話の場所を確認している」

 「防災授業で小さな子どものいる家庭に、新聞紙の用意を勧めている」と話すのは、関西大(大阪府)2年の牧野葵さん(20)。「体に巻くと保温効果があるほか、簡易トイレに入れると防臭効果もある」と説明した。

 最後に今村所長は「皆さんが呼び掛けだけでなく、実際に活動していることを頼もしく思った。活動を外国人にも広げ、話し合いで学び、気付いたことを実践してほしい」と激励した。

<被災地からの報告>

■痛み抱え語る 誰かのために/東松島で被災 東北学院大3年 雁部那由多さん(22)

 学校の体育館で大きな揺れに遭い、迎えに来た家族といったん帰宅した。自宅は物が壊れてめちゃくちゃだった。父の消防無線で津波が来ると知り、家族でもう一度学校に避難した。

 校舎3階にいたが、靴を履き替えようと昇降口に下りると、校庭の奥に津波が見えた。避難してくる大人たちを入れるため扉を開けて待っていると、鉄砲水のような津波に襲われた。

 壁につかまって流れに耐えた。大人は次々に膝丈の水の壁にのまれ、先頭の男性は自分に手を伸ばしてきたが流された。

 目の前で流された人を「見殺しにした」と苦しんだ。3年後のシンポジウムで初めて語り、語ることで救われた。最初は自分のためだったが、いつしか「誰かの命を救う情報になるのなら」と思うようになった。

 震災後、たくさんの支援物資をもらい、ボランティアも来た。その状況で被災者であることを求められている感覚があった。

 地区は過去にも津波が来たが、20年前に造成された住宅地に伝承はなく自分も知らなかった。伝承は必要だ。でも、語ることは痛みや苦しみを呼び起こす。危機感と矛盾を抱えながら語り部活動をしている。(河北新報・渡辺ゆき)

<助言者から>

■多様な想定で訓練を/東北大災害研・今村文彦所長

 東松島市の大曲地区を襲った津波は海だけでなく、大きく蛇行した定川を遡上(そじょう)し、川からも来た。河川津波はどこでも発生する可能性がある。

 都市では、河川や建物の間など意外な場所から突然大きな破壊力を持つ津波が来る。避難訓練を一つの想定だけにすると、判断を誤る可能性がある。

 避難の重要な役割に率先避難がある。生の声で緊迫した状況を伝えるのは有効だ。それができる人を育成するのも大事だ。

 地震、津波、水害とさまざまな災害が報告されたが、北海道地震のブラックアウトは日本で初の被害。停電は二次災害につながる可能性が高く、インフラの維持が被害軽減の鍵になる。

 自助、共助、公助は備えの基本だが、防災に産業の力も重要だ。皆さんの活動もビジネスになるかもしれない。社会が必要とする防災に対価が支払われると、取り組みはさらに広がる。

<参加者が報告した各地の自然災害>

北海道地震
2018年9月6日に胆振地方中東部を震源に発生。マグニチュード(M)6.7で、震度7を観測。死者42人。全国初の全域停電が起きた。

東日本大震災
2011年3月11日に三陸沖を震源に発生。M9.0で震度7を観測。大津波が発生し、死者・行方不明者1万8423人。

2019年台風15号
9月9日未明に千葉県に上陸。千葉市で最大瞬間風速57.5メートルを観測。鉄塔や電柱が倒壊し、約64万戸が停電。神奈川県内でも土砂崩れなどの被害が出た。

2019年台風19号
10月12日に静岡県の伊豆半島に上陸後、関東、東北を縦断。記録的な豪雨で各地で河川が氾濫。土砂災害も発生し、死者113人、行方不明3人。

昭和東南海地震
1944年12月7日に南海トラフのうち紀伊半島東部の熊野灘を震源に発生。M7.9で最大震度6。最大9メートルの津波も発生。死者は1223人。

大阪北部地震
2018年6月18日に大阪府北部を震源に発生。M6.1で高槻市や茨木市で震度6弱を観測。ブロック塀の倒壊などで6人が死亡した。

阪神淡路大震災
1995年1月17日、兵庫県淡路島北部を震源に発生。M7.3で震度7を観測。死者6434人。家屋の倒壊、家具の転倒による犠牲が目立った。

福井豪雨
2004年7月18日に福井県で記録的な豪雨となった。土石流や堤防の決壊で被害が拡大。死者・行方不明者5人。全壊・半壊200戸。

2018年7月豪雨(西日本豪雨)
降り始めからの総雨量は高知県馬路村魚梁瀬で全国トップの1845ミリを観測。大規模な河川氾濫や土砂災害で全国で222人が亡くなった。

外所地震
1662年10月30日未明に日向灘で発生。M7.6で推定震度6強。津波が宮崎県から鹿児島県にかけて襲来。3800戸が倒壊し、約200人が死亡した。

<311メディアネット>河北新報社が展開する防災の巡回ワークショップ「むすび塾」を共催した全国の地方紙、放送局が参加するネットワーク。防災機運を盛り上げるため、東日本大震災の発生日前後に共通タイトルの特集や連載、番組を組む。2022年が5回目。

 参加社 北海道新聞、河北新報、東京新聞、神奈川新聞、静岡新聞、中日新聞、京都新聞、毎日放送、神戸新聞、福井新聞、高知新聞、宮崎日日新聞

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