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<311むすび塾>早期避難で犠牲者ゼロ/第102回巡回ワークショップ@大郷・中粕川

台風19号豪雨 教訓は

台風19号で公民館も浸水したことを説明する中粕川区長の赤間正さん=大郷町公民館中粕川分館
台風19号の経験を振り返ったむすび塾=大郷町公民館中粕川分館
中粕川地区で決壊した吉田川の堤防。地区では住宅被害が相次いだ=2019年10月13日午後0時55分ごろ、宮城県大郷町

 河北新報社は2021年10月5日、通算102回目の巡回ワークショップ「むすび塾」を宮城県大郷町の町公民館中粕川分館で開いた。2019年10月の台風19号豪雨で吉田川の堤防が決壊し、中粕川地区は甚大な浸水被害を受けたが、大半の住民が早期避難したため、犠牲者はいなかった。地域防災に取り組んできた住民が、当時の体験と行動を踏まえて教訓を確認し、今後の備えについて話し合った。

 自主防災組織の役員と消防団員ら7人のほか、助言者として東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(39)が参加した。

 地域では1986年の8・5豪雨など過去の水害が語り継がれ、危機意識が高かった。住民は2006年に自主防災組織をつくり、防災マップ作成や安否確認訓練を続けてきた。

 台風19号では町が午後2時10分の早い段階で、避難準備・高齢者等避難開始(現在は高齢者等避難)を発令。自主防と消防団は避難誘導や見回りに着手した。高齢者が早めに動きだし、近隣住民に避難先を伝える姿も見られたという。

 「全戸に避難の呼び掛けと安否確認を行い、住民の多くは避難所や親戚宅に移動した。避難指示に合わせて(行政区の)三役と消防団も避難所に向かった」と中粕川区長の赤間正さん(70)は振り返った。

 独自の避難ルールがある家庭も。前中粕川婦人防火クラブ会長の鈴木真澄さん(63)は、夫の安則さん(63)が町消防団長で災害時はいないため、自身で家族を早期に避難させている。「自主防の活動を免除してもらい、午後3時台に高齢の親と大崎市の娘の家に避難した」と説明した。

 佐藤准教授は犠牲者ゼロの要因を「皆さんが避難準備が出された明るい時間帯に活動を始めたことが大きなポイントだ。助ける側も避難の基準を決めていたので、無事に逃げることができた」と説明した。

 反省点もあった。13日朝の浸水後、消防団が避難せず取り残された高齢者に気付き、おぶって救助した事例が報告された。鈴木安則さんは「避難しなかった人の中にはペットや持病、食物アレルギーなどの事情で避難所に行きにくい人もいた」と話し、避難所の充実を課題に挙げた。

 避難から一夜明け、自己判断で避難所から自宅に帰った住民もいた。その後、堤防が決壊。佐藤准教授は避難解除前に戻さない工夫として「20年7月豪雨では、雨がやんでも川の水位が高かったため、とどまるよう避難所に表示した自治体があった」と紹介した。

 町消防団12部部長の熊谷宏弥さん(44)は「経験を次世代に語り継ぐべきだ」と伝承の必要性を強調。佐藤准教授は「災害の経験を若い世代に受け継ぐには、学校を巻き込まないと難しい。町や教育委員会に働き掛けたい」と述べた。

堤防決壊 100棟が全半壊

 2019年の台風19号は10月12日午後7時前に伊豆半島に上陸後、13日未明に宮城県に最接近した。大郷町内は12日夕から雨脚が強まり、町は午後6時40分に避難勧告、午後9時58分に避難指示を発令した。

 町に近い大衡観測所では12日午後11時20分から1時間で51.5ミリの非常に激しい雨を観測。13日午前3時50分までの24時間降水量は309.5ミリで、1976年の統計開始以降最大となった。

 町を横断する吉田川の水位は13日午前2時、氾濫危険水位8.2メートルを上回る9.02メートルを観測。午前4時には9.92メートルに達した。中粕川地区の堤防では午前6時半に越水、7時50分に決壊を確認した。

 中粕川地区には当時105世帯が暮らしていたが、濁流により住宅被害は全壊40棟、大規模半壊55棟、半壊5棟に上った。町全体の全半壊148棟のうち、3分の2を同地区が占めた。

 ほとんどの住民は12日に避難所や町外の親戚宅などに避難し、無事だった。堤防決壊後、自宅に残った15人は、消防と消防団に救助された。

 町は行政区ごとに自主防災組織の設立や、窓を閉めていても情報が伝わる戸別防災無線の全戸整備を進めていた。台風19号の教訓の継承と防災意識の向上を図るため、10月13日を大郷町民防災の日と定めた。

<助言者から>

■「災害との共生」意識を/東北大災害科学国際研究所准教授 佐藤翔輔さん(39)

 皆さんは心のどこかで堤防が切れると思っていた。暴れ川と共に生きているという意識を持つといろんな行動に影響してくる。私は「災害共生文化」と言っているが、狭い国土でいろんな自然現象が起きる日本で災害は避けられない。災害と隣り合わせで暮らしている意識を、他の地域にも持ってもらいたい。

 中粕川地区を犠牲者ゼロと表現しがちだが、話を聞いて避難所から戻った人や消防団に救助された人もいて、手放しで喜べないことを再確認した。犠牲者をゼロにするには「早期の自主避難100%」を目指さなければいけないと気付かされた。守る側の命を守るためにも目標として明示化すべきだろう。

<メモ>東日本大震災をはじめとする自然災害の被災体験を振り返り、防災の教訓や課題を考えてみませんか。町内会や学校、職場など少人数の集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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