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<311むすび塾>情報伝達 住民と連携を/第97回巡回ワークショップ@みみサポみやぎ

聴覚障害者の避難支援

震災の体験談が書かれたパネルの前で松本さん(左)に手話を使って当時の思いを伝える渡辺さん
手話通訳や要約筆記を通し、東日本大震災の教訓と備えについて議論する参加者=2020年1月24日、仙台市青葉区の宮城県聴覚障害者情報センター

 河北新報社は2020年1月24日、通算97回目の巡回ワークショップ「むすび塾」を仙台市青葉区の宮城県聴覚障害者情報センター(みみサポみやぎ)で開いた。東日本大震災で被災した聴覚障害者、手話通訳・要約筆記者、聴覚・言語障害教育の専門家ら8人が参加。震災や昨年の台風19号の経験を踏まえ、聴覚障害者の備えと支援について話し合った。

「災害時の聴覚障害者指さし会話シート」はこちら

 手話通訳2人と参加者の発言を書き起こしてプロジェクターで投影する要約筆記者4人が進行をサポートした。

 震災発生直後、避難や災害の情報は音声が中心で、聴覚障害者は情報不足に陥った。名取市閖上で被災したろう者の渡辺征二さん(79)は「津波の情報を知らないまま地震後も家にとどまった。兄が知らせに来て慌てて避難した」と震災を振り返った。

 他の参加者からは「停電や携帯電話の充電切れで、災害情報が全く入らなかった」という声も上がった。

 震災の教訓も踏まえ、聴覚障害者の支援拠点となる同センターが15年1月、開設された。施設長の松本隆一さん(58)は「防災サロンの開催や災害情報の発信など、自助共助を念頭に置いた対策を進めている。障害者自ら情報を獲得すると同時に、地域に聴覚障害者を理解してもらえる活動にしたい」と説明した。

 避難訓練の課題も浮き彫りに。県手話通訳問題研究会会長の宮沢典子さん(59)は「震災以降、聴覚障害者が参加する避難訓練があったが、最近は聞かなくなった。災害時に的確に動けるよう定期的に実施して備えるべきだ」と指摘した。

 震災後、スマートフォンの普及により、テレビ電話を使った遠隔の手話通訳や文字でやりとりするアプリなど、情報入手と対話ができる手段が増えた。

 みやぎ・せんだい中途失聴難聴者協会元副理事長の村田哲彦さん(53)は「高齢者がスマホを使えるよう若者がサポートする体制を整えたい。停電や電池切れを想定し、近隣住民が情報を届けるネットワークも確保する必要がある」と説明した。

 助言者で自身も聴覚障害のある宮城教育大の松崎丈准教授(43)は、自宅の大家さんが震災後、水道復旧の見通しを紙に書いてポストに入れるなど、情報を届けてくれたエピソードを紹介。「あいさつする関係ができていた。地域の人とつながっていたおかげで助けられた」と振り返った。

 聴覚障害の対話方法は文字や手話、補聴器を通した音声など人それぞれだが、一般的に余り知られていない。松崎さんは「防災教育や避難訓練は、聴覚障害者は自分の困っていることをどう伝え、周囲の人たちはどう話を引き出せばいいのかなど地域で助け合う関係づくりをテーマにしてはどうか」と提案した。

宮城県内の犠牲者76人/緊急の「声」届かず

 東日本大震災では、宮城県内で障害者手帳を所持していた聴覚障害者約6100人のうち、76人が亡くなった。いずれも津波被災した沿岸部の自治体に居住。聴覚障害者全体に占める死亡率は1.2%で、全住民の死亡率0.5%の2倍を超えた。

 震災発生直後、視覚で情報を得られるテレビ、ファクスや、ニュースを字幕で表示する受信装置は停電で使えなかった。携帯端末も通信状態が悪化。防災無線や消防団の避難の呼び掛けは音声が中心で、犠牲者は命を守る情報を把握できなかった可能性が高い。

 津波からの避難や身を守る行動をした聴覚障害者にとって、命綱は家族や地域住民の情報だった。一方で遠慮から、周囲の人に情報を求める行動が取れなかった障害者もいた。

 避難後も情報の入手や意思の疎通に難航した。避難所で物資配給などの連絡は口頭や放送で伝えられることが多く、聴覚障害者は周囲の動きから情報を得ようと、常に注意を払う状況が続いたという。

 また、ろう者は見た目から分かりにくいほか、難聴者は発話できるため、なかなか障害があると理解されず苦悩した。

 厚生労働省は震災発生後、避難所などでの視聴覚障害者に対する情報支援に配慮するよう都道府県に通知した。

 しかし、津波被災した自治体は震災対応に追われ、障害者への目配りが不十分だったケースが多かったとみられる。

<助言者から>

■命を守る権利主張して/宮城教育大准教授 松崎丈さん(43)

 聴覚障害者に大切なのは防災教育と、複数の情報入手手段を持ち、使いこなせること。自分が聴覚障害者だと分かってもらう努力も重要だ。健常者には、聴覚障害者はさまざまなコミュニケーションが不可欠な存在だと知ってほしい。

 障害者差別解消法の施行で、自治体にバリアフリー化など合理的配慮が義務付けられた。障害者は「情報を得て命を守る権利がある」と胸を張って主張できる。

 支援者側の体制整備も急務。健康管理や当事者同士が支え合うピアサポートに加え、手話通訳者や要約筆記者を増やす必要がある。

<メモ>東日本大震災をはじめとする自然災害の被災体験を振り返り、防災の教訓や避難の課題を考えてみませんか。町内会や学校、職場など少人数の集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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