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<311むすび塾>新旧住民 連携深めよう/第95回巡回ワークショップ@亘理・下茨田

移住者多い地域の防災

調整池の前で台風19号を振り返る地域住民=2019年12月1日、宮城県亘理町江下
地域の連携強化と備えについて語り合ったむすび塾=2019年12月1日、宮城県亘理町の下茨田南集会所

 河北新報社は2019年12月1日、通算95回目の防災・減災巡回ワークショップ「むすび塾」を宮城県亘理町下茨田(しもばらだ)で開いた。東日本大震災後に町沿岸部から移り住んだ津波被災者を含む下茨田南・中両町内会の役員ら9人が参加。過去にむすび塾を開催した同町旭台町内会、美里町駅東自治会の役員3人も助言者として加わり、新旧の住民の連携を深め、備えを進める方法を考えた。

 語り合いを前に参加者は地域の調整池を視察した。台風19号の豪雨で池があふれ、道路が冠水したことを地元住民が説明した。

 下茨田南集会所で開いた語り合いで、下茨田中町内会監査の南部稔さん(67)は震災時を振り返り「沿岸の自宅で妻と娘が津波に遭い、2階に逃げて命拾いした。ラジオで情報収集をせず家にとどまったのはまずかった」と教訓を語った。

 他の参加者から「避難先の学校から家に戻った人が津波で亡くなった」「地震後に家を片付けていたら隣人が『周りはもう誰もいないよ』と声を掛けてくれたのが避難のきっかけになった」などの報告があった。

 震災後に実践している備えとして、参加者からは「家族で避難場所を決めている」「ガソリンは毎週末満タンにする」「水や食料、乾電池を多めに備蓄している」などの声が上がった。

 台風19号の際、災害公営住宅に住む荒浜地区の住民グループ「はまなす会」代表の大友義子さん(78)は「外に出るのは大雨で危険だった。いざというときは4階に上がるなど建物にとどまろうと皆で話し合った」と言う。

 南・中両町内会と同様に震災後、津波被災地からの転入者が多い美里町駅東自治会は2015年に自主防災組織を設立した。本部長の佐藤文明さん(71)は「若い世代を巻き込んでまずやってみて、うまくいかなければ方法を変えるといったように試行錯誤している」と明かす。

 旭台町内会は1977年に入居開始したかつての新興住宅地。自衛防災隊や独自のマニュアルを設けるなど、積極的な防災活動で知られる。笹原茂夫会長(75)は「住民同士の連携強化が、地域の防災力強化につながる。まず祭りやイベントなど、大人も子どもも集まる機会をつくってはどうか」と助言した。

 下茨田中町内会と協力して地域活動に取り組む南町内会長の佐藤徳美さん(54)は「あいさつしたり、隣近所と情報を共有するなど、顔の見えるコミュニティーづくりを進めていきたい」と決意を述べた。

 河北新報社は2014年4月に旭台町内会、15年8月に美里町駅東自治会でむすび塾を開いた。

市街地の4割 津波浸水/台風19号 住宅32棟浸水

 宮城県亘理町は2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波により、市街地面積の4割が浸水被害を受けた。津波高は荒浜地区で7.7メートルに達した。269人が犠牲になったほか、住宅3539棟が全半壊し、特産のイチゴ農家も壊滅的な被害を受けた。

 今年10月の台風19号で町は大雨特別警報の発表を受けて、12日午後11時10分に災害が既に発生していることを意味する「警戒レベル5」を出した。13日午前3時55分に逢隈、荒浜地域などの8100世帯2万2000人に避難指示(緊急)を発令した。

 一方で12日午後4時以降、小学校など6施設に避難所を開設し、最大で842人が避難した。町内10カ所で道路が冠水、住宅32棟で浸水被害があった。

 下茨田南、下茨田中の両町内会は計約720世帯が暮らし、以前は一つの町内会だった。震災後、沿岸部の被災者が入居する災害公営住宅や自力再建の住宅が建って人口が増えたため、二つに分割された。

 両町内会は沿岸から4キロ離れているが、震災では津波が到達。台風19号では住宅の浸水被害はなかったものの、大雨で調整池があふれ、道路が冠水した。

 両町内会は日頃から、連携して地域行事に取り組んでいる。新旧住民の交流促進を図ろうと、秋祭りや日帰り温泉ツアーを実施。今年5月には合同防災研修会を開き、役員たちが地図上に危険箇所を書き込む災害想像力ゲーム(DIG)を体験した。

<助言者から>

■自衛防災組織 女性も力/亘理町旭台町内会長 笹原茂夫さん(75)

 旭台町内会は約350世帯で、2001年に自衛防災隊を設置し、年6回防災訓練などをしている。

 隊の正会員は35人だが高齢化が進み、新たに災害時だけ関わる準隊員制度を設けた。15人中8人が女性で、子どもの世話や生理用品の配布などをしてもらう。断水時の消火やトイレの水の確保に使えるように可搬ポンプを常備している。防災備品購入には行政などの助成金を活用するといい。

■普段から家族で話して/美里町駅東自治会長 秋庭博さん(68)

 JR小牛田駅東口の新興住宅地で、震災前は50世帯だったが、震災後に世帯数が急増して、現在は630世帯に達した。

 先日の大雨では、警戒レベル3から4になったら多くの住民が避難場所に避難した。高齢者や障害者は早めに避難した方がいい。ただ、夜間や雨の中は危険。津波は心配がない地域なので、状況に応じて家にとどまるか、避難所に行くか、普段から家族で話し合ってほしい。

■新しい地域 訓練重ねる/美里町駅東自主防災組織本部長 佐藤文明さん(71)

 津波で宮城県女川町の自宅を失い、美里町に移転してきた。周囲は女川や東松島などから移ってきた被災者で、特に若い人が多い。2015年のむすび塾で旭台行政区の取り組みを聞き、安否確認をまねした。無事を知らせるたすきを家の外に掲げる方法で、訓練には3軒に2軒が参加している。

 9月に初めて開いた避難訓練には300人が集まった。できたばかりの地域で一つ一つ積み上げている。

<メモ>東日本大震災をはじめとする自然災害の被災体験を振り返り、防災の教訓や避難の課題を考えてみませんか。町内会や学校、職場など少人数の集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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