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絵本「教室はまちがうところだ」 性を巡る表現、読み手の思いと作り手の思い

 「この絵本には、性の多様性に対する理解を欠いている表現があるように思います」。長野県上伊那地域の主婦(49)がこんな投稿を信濃毎日新聞「声のチカラ」(コエチカ)取材班に寄せた。絵本は2004年の発売以来、売れ続けているロングセラー「教室はまちがうところだ」(子どもの未来社)。静岡県で教師をしていた蒔田晋治さん(1925~2008年)が書いた詩に、画家の長谷川知子さん(76)=東京都町田市=が温かみのある絵を添えた作品だ。気になって絵本を手に取ってみた。(信濃毎日新聞・牧野容光)

 うつむきうつむき/そうっと上げた手 はじめて上げた手/先生がさした

 詩の舞台は学校の教室のようだ。手を挙げて、自分の考えを話そうとする子どもたち。でも緊張のあまり、うまく言葉が出てこない。

 どきりと胸が大きく鳴って/どっきどっきと体が燃えて/立ったとたんに忘れてしまった

 投稿を寄せた女性が絵本を読んだのは一昨年3月。小学校入学を控えた次女(8)に「学校生活を思い切り楽しんでほしい」と勇気づけるためだったという。

 詩はこう続く。

 体がすうっと涼しくなって/ああ言やあよかった こう言やあよかった/あとでいいこと浮かんでくるのに/それでいいのだいくどもいくども/おんなじことをくりかえすうちに/それからだんだんどきりがやんで/言いたいことが言えてくるのだ

 蒔田さんは1967(昭和42)年、静岡市の中学校で教師をしていた時に、この詩を書いた。長女、寺尾みはるさん(66)=静岡市=によると、生徒を励ますため模造紙に書いて教室に張り出したという。

 まちがったって誰かがよ/なおしてくれるし教えてくれる/困ったときには先生が/ない知恵しぼって教えるで/そんな教室作ろうやあ

 詩は、静岡市内で69年に開かれた作文教育研究の全国大会で注目を集めた。同僚の教師らが会場に「歓迎の言葉」として張りだしたところ、新聞やテレビで紹介されて評判になった。

 子どもたちと教師が一緒に、何でも言い合える教室を作ろう―。詩には、そんなメッセージが込められている。出版社の依頼を受け、長谷川さんが場面に応じた絵を15枚描き、2004年に絵本として出版された。

絵本「教室はまちがうところだ」の表紙

 投稿を寄せた女性が気にするのは10~11ページの表現だ。

 神様でさえまちがう世の中/ましてこれから人間になろうとしているぼくらがまちがったって/なにがおかしいあたりまえじゃないか

 詩の一節とともに、頭上に天使の輪がある神様が、ピンク色と水色のハートを手に、赤ん坊にどちらの色のハートを手渡すかで戸惑っている様子が描かれている。

 「心の性と体の性が一致しないトランスジェンダーを『まちがう』存在であると表現しているように思え、ひっかかるのですが...」と、女性は言う。

 長谷川さんを訪ね、真意を尋ねた。

 「描いている時は何も考えないでひたすら描いている。だから、描いた意図を問われても、私が描きたかったからとしか言いようがない」。長谷川さんはこう言った。出版社から依頼され、半年ほどかけてアクリル絵の具やパステルで絵を仕上げたという。

 女性の指摘について「人によって読み方や受け取り方は千差万別。投稿した人がそう読まれたのなら、そうなのでしょう」と話した。

 今回、女性が取材班に投稿を寄せたのは、昨年11月30日付の信濃毎日新聞朝刊「建設標」で絵本が取り上げられたからだ。長野県安曇野市の学校支援教員による投稿で、この絵本が講話に使われた―とあった。

 女性は「絵に悪意は全く感じられない」と理解を示しつつ、今でも教員たちが使う絵本だからこそ「無意識のうちに、性的少数者に対する無理解が刷り込まれないか心配だ」と話している。

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