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若さと才能響く【特集】仙台国際音楽コンクール

2022年第8回コンクールのピアノ部門ファイナル(写真提供:仙台国際音楽コンクール事務局)

 若手音楽家の登竜門として多くの才能を送り出してきた「仙台国際音楽コンクール(SIMC)」が5月、いよいよ開幕する。魅力、見どころを紹介する。コンクールに関わりを持つ4人にとっておきのエピソードも聞いた。さあ、音楽を楽しもう。

※仙台国際音楽コンクール
第9回5月24日(土)~6月29日(日)
日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)

■仙台国際音楽コンクール いよいよ開幕へ

〇最多638人応募、コンチェルトで競う

 バイオリンとピアノの若い才能と、その演奏を審査する著名な音楽家たちが、国内外から仙台に集まる。3年に1度の「仙台国際音楽コンクール」が5月24日(土)から6月29日(日)まで青葉区の日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)で開かれる。

 9回目となる今回は、43の国と地域から過去最多となる638人が応募。5月24日に始まる予選に、予備審査を通過した出場者が続々登場する。

 課題曲の中心に「コンチェルト(協奏曲)」が据えられているのはSIMCの特徴の1つ。予選は「バイオリン部門」が独奏とアンサンブル、「ピアノ部門」が独奏で、両部門ともセミファイナル以降、仙台フィルハーモニー管弦楽団と共演する。若い音楽家がオーケストラと共に演奏できる機会は少なく、出場自体が成長の大きなチャンスとなっている。

 予選からファイナルまで公開審査のため、チケットを購入すれば真剣勝負と成長の瞬間に誰もが居合わせることができる。予選チケットは1日一般1000円、25歳以下500円。

第8回コンクールのバイオリン部門で優勝した中野りなさんの演奏

〈西本 幸弘さん〉『推せる』出場者、お気に入りの1曲を見つけて

 仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターとして、舞台からSIMCを見てきた。「耳も目も五感を使って自由にいろいろな楽しみ方ができる。予選から足を運び、応援したい『推し』を見つけて『推し活』するのも楽しみ方の1つです」と笑う。セミファイナルには投票で選ばれる「聴衆賞」もあり「楽都仙台の1人として『このコンクールを一緒に作った』という実感を持っていただけたら」と呼びかける。

 心がけているのは、コンテスタント(出場者)たちが求めるものを自由に演奏できるよう、それぞれが大切にしているポイントを限られたリハーサル時間で瞬時に読み取ってバックアップすることだとか。「普段のコンサートの『発信力』とは違い『受信力』がより求められる」とも。バイオリン部門については、「あらゆる有名なバイオリンコンチェルトが演奏されるので、きっと自分の好みに合う1曲を発見できます」と教えてくれた。

第8回コンクールで優勝したルゥオ・ジャチンさんとともにあいさつする西本さん(左端)

〈奥山 明美さん〉笑顔で対応、明るいコンクールに 出場者の成長感じたい

 3回目となる今回も過去2回と同様に、受け付けや座席案内などの会場運営サポート部門を担当。今回はサブリーダーとして全体のまとめ役も担う。

 会場案内やチケット確認など、来場する市民と直接触れ合う機会は多い。最も大切にしていることは「笑顔で接すること」だという。国外からの来場者に接することも少なくないが「言葉はよく分からなくても、笑顔で対応したら相手もほっとして笑顔になってくれます」と振り返る。

 ボランティア参加以前にもコンクールに来場し演奏を楽しんでいた。「予選、セミファイナル、ファイナルと進むにつれ、出場者の成長を実感できる」とSIMCの魅力を口にする。今年2月にあった前回優勝者の記念演奏会にもボランティアとして携わり、ステージを見ることはできなかったものの演奏は耳にできた。「3年前より自信の付いた演奏だと感じた」と喜ぶ。

 今回個人的に注目しているのは、ピアノ部門の歴代最年少の11歳の出場者。「どのように成長していくのか楽しみ」と期待を寄せる。

第7回コンクールで来場者対応にあたる奥山さん

【仙台の魅力伝える写真募集】
仙台国際音楽コンクール事務局は、仙台の魅力を写した写真を募集している。応募作はコンクール期間中、会場内に展示される。応募は、2L判以下の作品を1人2点まで以下宛先へ郵送。5月21日㈬必着。詳細はWEBサイト(QR)で。
●宛先/〒981-0904 仙台市青葉区旭ケ丘3-27-5 仙台国際音楽コンクール事務局
●問/℡022-727-1872

WEBページ

〈土田 みつさん〉多くの学びを得てさまざまな出演者に出会いたい

 SIMC審査委員に直接手ほどきを受ける「マスタークラス」のピアノ部門を受講する。講師となる審査委員たちは世界的な演奏家ぞろい。「将来、留学するつもりなので、外国の指導者の方たちから今のうちにたくさん学びたい」と張り切る。

 小学生だった前回SIMCでも、選抜された若手音楽家と仙台フィルメンバーがアンサンブルを披露する「はばたけコンチェルトVol.2」に参加。「演奏の最後の音を合わせられずに苦労したけれど、本番では成功できて良かった」と振り返る。

 SIMCには若手音楽家としての関わりがあり、音楽ファンとしての思い入れがある。予選から可能な限り観覧に行く予定だ。「さまざまな出演者のステージを見ているうちに、好みの人と出会える。その人がどんな活動をしているのか気になり、ネットで調べてしまう」と笑う。近いうちに演奏する側として、コンクールに関わることも目標だ。

「はばたけコンチェルトVol.2」でピアノを演奏する土田さん

〈グリーブス 裕香さん〉会場に足を運んで聴き拍手を送るのが最高

 第4回から市民ボランティアとしてSIMCを支え、第5回からはホームステイ受け入れを担当。ホストファミリーとして出場者の応援を兼ねて、毎回予選から会場に足を運ぶ。

 「バイオリン部門予選の魅力は課題曲の『聞き比べ』。同じ作品でも奏でる音、作り出す空気が演奏者によりさまざまなので大いに楽しめます」と話す。またピアノ部門予選は、出場者がプログラムを決めるため、未知の曲の「発見」という楽しみがあるともいう。YouTubeでの配信もあり人気を集めているが「生で聴いて拍手を送る。その楽しみ方が私にとってのベストです」と言葉に力を込める。

 出場者は皆ステージで「スイッチが入って」圧倒的な存在感を見せつけるが、「普段は私たちと同じように普通の生活を送っている。ギャップや練習の様子を間近で見られるのもホストファミリーならではです」と話す。国内外の出場者との交流は帰国後も続き、ステップアップを知るのも楽しみになっているそうだ。

第5回コンクールで、ホームステイを担当した仁田原祐さん(ピアノ部門出場)とくつろぐグリーブスさん(右)

■16年SIMC4位➡21年ショパンコンクール優勝 ブルース・リウさんに聞く、SIMCとは

 SIMCを経て飛躍した音楽家として、近年最も話題となったのは2016年第6回で4位のブルース・リウさんだ。21年にショパン国際ピアノコンクールで優勝、世界中のファンを魅了している。ブルース・リウさんにSIMCの思い出を聞いた。

〇協奏曲に挑戦、自らの課題知る

パリ出身カナダ育ちの中国系カナダ人ピアニスト。27歳。情感豊かな表現で高く評価される、世代を代表する演奏家。3月には仙台での初公演で仙台のファンに応えた。

 ―SIMCの魅力とは何でしょうか?
 ファイナルまで進めば協奏曲を3曲もオーケストラと演奏できること、です。19歳だった私にとって初めての経験でした。各楽器とバランスを保ちながら自分を表現することは大きな挑戦でした。

 ―出場の5年後にショパンコンクールで優勝。仙台の経験はどんな意味が?
 オーケストラと共演し、自分のさまざまな課題を実感することができました。仙台フィルの皆さんは(当時の自分のような)経験に乏しい音楽家に慣れていて「サポートするから自由にやってみて」とフォローしてくれました。自分をどう表現するのか、音の大きさや響かせ方、演奏の見通し方―さまざまなことを練習を通じ、学んだ日々でした。

 ―演奏以外で記憶に残っていることは?
 さまざまな運営スタッフやボランティアの方に日々声をかけてもらい、励ましてもらった記憶があります。若い音楽家は、声をかけてもらい、励ましてもらうことが大きな力になります。個人的には、同行してくれた父と会場の守衛さんが仲良くなったことが愉快な思い出です(笑)。街のアーケードで食事をしたこと、そして大きな仏像も印象に残っています。

 ―読者にメッセージを。

 演奏者が聴衆の皆さんに伝える感情を受け取り、演奏後に残す余韻も楽しんで、覚えてもらえたらうれしいです。奏者が指の動きを間違えた!なんてことは気にせずにね(笑)。出場者を温かく応援してください。

第6回コンクールで演奏後に指揮者と握手を交わすブルース・リウさん(中央)

(河北ウイークリーせんだい2025年5月1日号掲載)

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