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「風車の近くに行きたくない」秋田・羽根落下事故で県内住民に不安広がる

羽根が根元近くから折れて落下した風車

 秋田市新屋町の風力発電施設で風車の羽根が落下した事故は、9日で発生から1週間となった。現場近くで見つかった男性(81)は死亡し、秋田県警は羽根が当たった可能性もあるとみて捜査している。誰もが自由に立ち入れる公園内に巨大な構造物が落下した衝撃は大きく、風車が立地するエリアの住民から不安や懸念の声が出ている。(秋田総局・庄子鉄平、織田雅子)

夕日ビュースポットで発生

 現場の新屋海浜公園は、秋田市南西部の日本海に面した場所にある。砂浜と緑地があり、海に沈む夕日と風車群を望めるビュースポットとして知られる。住民が散歩したり、釣りを楽しんだりもしている。

 事故は、そんな住民の憩いの場を襲った。約8トンある風車の羽根が、土台から約80メートル離れた公園内のあずまや付近に落下。親類によると、死亡した男性は自転車に乗って散歩していたとみられる。

 男性が落下事故に巻き込まれた可能性があるため、住民のショックは大きい。近くに住む建設業の男性(70)は風力発電に一定の理解を示しつつも「近くに住んでいる立場からすると、やはり不安。風車の近くに行きたくない」と語る。

 秋田県は、日本海から吹く強い風を生かした風力発電が盛んだ。県内の施設数は陸上307基と洋上33基。2024年末時点の導入量約80万キロワットは北海道と青森県に次いで全国3番目だ。

 今回の事故を受け、風車が立地する別の地区の住民からも心配する声が出ている。

 秋田県潟上市の出戸浜海水浴場。夏になると家族連れでにぎわう人気スポットだが、そばにいくつもの風車が立ち並ぶ。近くの建築業の男性(70)は「海水浴場にたくさんの客がいる時に落下事故があれば、大惨事になる。自治体はしっかり監視や指導を行う必要がある」と注文を付ける。

 安全確保のためには風車のそばへの立ち入りを規制する必要があるが、経済産業省の省令に必要な距離は明記されていない。このため、秋田市の沼谷純市長は8日、同省を訪れ、風車周辺に住民が容易に立ち入ることができないよう離隔距離などを明確化することを求めた。

 風車建設に慎重な姿勢を示す秋田県の市民団体「奥羽山脈に守られる会」の井阪智代表は「安全が確認できるまで、県内の風車は止めるべきだ。住民が立ち入れる場所のすぐそばに風車を立てるのは問題だ。行政は設置を規制してほしい」と指摘する。

落下した風車の羽根。公園内の道路をふさいでいる=2日午前10時30分ごろ、秋田市新屋町(秋田県警提供)

「徐々に劣化進んだ可能性」

 秋田市の新屋海浜公園で風力発電施設の風車の羽根が落ちた事故は、なぜ起きたのか。日本風力エネルギー学会の会長で足利大の永尾徹特任教授(風車工学)に聞いた。(秋田総局・織田雅子)

永尾徹氏

 ながお・とおる 九州工業大卒。富士重工業(現SUBARU)で風力発電用の風車の開発に従事後、新エネルギー財団を経て16年から足利大特任教授。24年に日本風力エネルギー学会会長。福岡県出身。77歳。

 -羽根が落下した原因は。

 「現場を見ていないので一般論になるが、何らかの要因で羽根に欠陥が生じたことが考えられる。羽根はガラスやカーボンの繊維を樹脂で固めて造る。丈夫だが、新幹線並みのスピードで回るので、あられや空中の砂が何度も当たると小さな傷が付き、水や砂が入り込むことがある。他にも、落雷により傷が付いた可能性がある。そうした欠陥が広がり、羽根が折れて落下したのではないか」

 -当日は風が強かった。

 「風車は風速60~80メートルにも耐えられる構造で、風で折れることは考えにくい。事故現場のライブ映像を見たが、直前まで風車の外見に異変は起きていないようだった」

 -風車は2010年、落雷で羽根が折れる事故があった。

 「風車は落雷を想定し、羽根に避雷針がついている。避雷針がない部分に雷が落ちると焼けて傷が付くことがあるが、目視で分かるはずだ。風車には落雷を検知するコイルも付いている。日本海側は電流の強い冬の雷の発生が多く、落雷の都度、点検することが必要だ」

 -羽根が損傷する前に、どう見極めるのか。

 「羽根に小さな傷が付くのは風車が自然の中に立つ以上、普通のことだ。重要なのは傷がいつからあり、大きくなっていないかを経過観察すること。24時間監視するセンサーならば振動数の変化など、データ上で損傷の予兆が見られることもある」

 「羽根が突然、劣化することは考えにくい。徐々に劣化が進んでいたのに、それを見抜けなかったのかもしれない。事故のあった風車単体の問題なのか、他の風車にも同じことが言えるのか、究明する必要がある」

事故風車で振動異常を検知

 秋田市新屋町の風力発電施設で風車の羽根が落下した事故で、風車のセンサーが振動異常を検知していたことが9日、風車を管理する「さくら風力」(東京)への取材で分かった。事故発生時間の解明につながる可能性がある。

 同社によると、検知時間は事故があった2日午前10時7分ごろで、その時刻あたりに羽根の落下につながる何らかの異常が発生した可能性がある。これまで同日午前10時20分ごろに羽根が落下していることを伝える119番があったことは分かっていたが、いつ落下したかは不明だった。

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