若い女性の自殺 総合的な防止対策を急げ 社説(11/10)。
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交流サイト(SNS)に自殺願望などの投稿をした若い女性が事件に巻き込まれるなどして相次いで亡くなった。自殺者数も増加傾向にある。いずれも支援団体や相談窓口にたどり着いていれば、救えたかもしれない命だ。
国は自殺対策を強化しているが、一連の事件は支援を届ける難しさを改めて浮き彫りにした。生きづらさを抱える若者にいかに気付き、声をかけて悩みを聞き、支援に結び付けるか。社会全体が危機感を共有して取り組まなければならない。
札幌市で先月起きた女子大学生死体遺棄事件では、女子大学生の死をほのめかす投稿に、殺人容疑で再逮捕された容疑者の男が賛同を表す「いいね」ボタンを押し、接近を図ったとみられる。男は「本人から殺害を依頼された」と供述しているという。
横浜市の女子中学生の自殺を手助けしたとして自殺ほう助などの罪で起訴された男も中学生がSNSで自殺願望をほのめかしたのをきっかけにやりとりを始めたとされる。
この種の犯罪で社会に衝撃を与えたのが、神奈川県座間市で2017年に発覚した9人殺害事件。死刑囚の男は、ツイッターに自殺願望を書き込んだ当時15~26歳の被害者に「一緒に死のう」などと返信して接触した。
SNSは犯罪に巻き込まれる危険性がある一方、相談対応の有力なツールでもある。厚生労働省は座間市の事件を受け、18年から民間支援団体とSNSを使った相談事業に取り組んでいる。
だが、20年以降は新型コロナウイルス禍で若い女性の自殺者数は増加傾向にある。
22年版自殺対策白書によると、女性の自殺者数は20、21年と2年連続で増えた。中でも「10~19歳」「20~29歳」の増加が目立つ。
コロナの流行前はさまざまな事情で家に居づらくても、アルバイト先や商業施設などで過ごして家族と距離を取れたが、コロナ禍でそうした居場所を失った。若い女性は非正規雇用の割合が高く、失業や収入減で経済的困窮に追い込まれた人も少なくない。
若者とコミュニケーションを取りやすいLINE(ライン)での相談体制の強化を図るとともに、相談者が駆け込める居場所の整備が重要だ。
さらに、ハローワークでのきめ細かな相談支援や、学校や児童相談所が自殺危機に対応できる仕組みづくりなど、幅広い対策が求められる。
政府は閣議決定した新たな自殺総合対策大綱で、女性の支援を初めて重点施策に位置付けた。
「死にたい」という言葉には、苦しい問題を抱えており、解決できるならば生きたいという悲痛な思いが込められてはいまいか。コロナで可視化された生きづらさを放置せず、省庁、官民が連携して総合的な防止対策の強化を急がなければならない。
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