１頭(とう)のクマが死(し)にました。「クロちゃん」という名前(なまえ)です。佐藤(さとう)八重(やえ)治(じ)さん（８０歳(さい)）が、３２年(ねん)も大切(たいせつ)に育(そだ)てたクマでした。

　佐藤(さとう)さんがクロちゃんと出会(であ)ったのは、１９９１年(ねん)４月(がつ)のことです。まだ雪(ゆき)が残(のこ)っている山形県(やまがたけん)鶴岡市(つるおかし)の山(やま)で見(み)つけました。重(おも)さ２・５キロの子(こ)どものクマでした。人形(にんぎょう)のようにかわいい形(かたち)をしていました。親(おや)が逃(に)げたため、１頭(とう)だけになっていました。

　それで、佐藤(さとう)さんは連(つ)れて帰(かえ)りました。そして、山形県(やまがたけん)の許可(きょか)をもらって、育(そだ)てることにしました。

　クロちゃんの好(す)きな食(た)べ物(もの)は「そうめん」でした。違(ちが)う物(もの)を食(た)べさせたこともありました。でも、いろいろ研究(けんきゅう)して「そうめん」にしました。クロちゃんはいっぱい食(た)べました。５、６人(にん)が食(た)べる量(りょう)を一度(いちど)に食(た)べました。

　こうして、クロちゃんはどんどん大(おお)きくなって、重(おも)さは１３０キロになりました。クマはだいたい８０キロくらいなので、クロちゃんは太(ふと)っていました。

　新聞(しんぶん)やテレビもクロちゃんのことを紹介(しょうかい)しました。それで、遠(とお)くからもたくさんの人(ひと)が見(み)に来(き)ました。かわいいクロちゃんは人気(にんき)があって、ファンクラブもできました。

　クロちゃんはとても元気(げんき)でした。そのため、佐藤(さとう)さんの腕(うで)をかんで大(おお)きいけがをさせてしまったこともありました。でも、本当(ほんとう)は優(やさ)しいクマでした。しかし、年(とし)を取(と)ってからは、だんだん体(からだ)が自由(じゆう)に動(うご)かなくなりました。そして、２０２３年(ねん)７月(がつ)初(はじ)めにクロちゃんは死(し)んでしまいました。人間(にんげん)だったら１００歳(さい)くらいでした。

　佐藤(さとう)さんは「クロちゃんが幸(しあわ)せだったと信(しん)じたい」と話(はな)しています。自分(じぶん)が持(も)っている山(やま)にクロちゃんの墓(はか)を造(つく)りました。クロちゃんが死(し)んだことを今(いま)でも悲(かな)しく思(おも)っています。