その時女川は避難計画を考える
福島第1原発事故との比較から
東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の避難計画は、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の事故を「教訓」に作られた。5キロ圏外の住民は、福島クラスの事故が起きても放射線量次第で「逃げない」、「ゆっくり逃げる」が基本だ。気象や地理条件をそろえて当時にタイムスリップすると、女川避難計画の本質が浮かび上がる
福島第1原発事故の経過
女川の避難計画に当てはめると
14:46
東日本大震災発生
PAZ圏(原発5km以内、牡鹿半島先端)の要配慮者ら避難・屋内退避準備
女川町、石巻市の原発から5km圏、牡鹿半島先端の要配慮者ら避難・屋内避難準備
14:49
福島県沿岸に大津波警報
写真:東京電力
15:37
福島第1原発に最大津波襲来
写真:東京電力
15:42
全交流電源喪失
施設緊急事態
女川町、石巻市の原発から5km圏、牡鹿半島先端の要配慮者ら避難避難開始
女川町、石巻市の原発から5km圏、牡鹿半島先端の福祉施設の入所者らは施設内で屋内避難
16:36
非常用冷却装置注水不能
全面緊急事態
女川町、石巻市の原発から5km圏、牡鹿半島先端の住民の避難開始
UPZ圏(原発5~30km)の女川町、石巻市、東松島、登米、涌谷、美里、南三陸の7市町の住民は屋内退避
18:03
大熊町(立地町)の防災無線が
「(原発に最も近い)夫沢1区、2区、3区、小入野地区の住民のみなさんは大熊中学校へ移動願います」と広報
18:10ごろ
1号機の炉心露出始まる
写真:国際廃炉研究開発機構
18:50ごろ
1号機の炉心損傷(メルトダウン)が始まる
写真:共同通信社
19:03
菅直人首相が原子力緊急事態宣言
20:50
福島県が2km圏に避難指示
21:02
大熊町(立地町)の防災無線
「1~3号機は緊急自動停止しました。現在のところ放射性物質による外部への影響はありません」
21:23
政府が3km圏に避難指示
3月12日
写真:共同通信社
3:00ごろ
枝野幸男官房長官
「格納容器の圧力高まっている」
3:41
大熊町(立地町)防災無線
「念のため、避難所の窓を全部閉めて下さい」
早朝
UPZ圏の浪江町(原発の北5km~北西30km超)の津波被災地で救助、捜索を再開
5:44
政府が10km圏に避難指示
UPZ圏は屋内退避が続く
UPZ圏の女川、石巻、東松島、登米、涌谷、美里、南三陸7市町の住民は屋内避難
6:00ごろ
UPZ圏の浪江町(原発の北5km~北西30km超)が津波被災地域の救助活動を断念
6:09
大熊町(立地町)の防災無線「全住民にお知らせいたします。避難指示が出されましたので、全住民がバスでの移動になります」
6:30
大熊町(立地町)が避難開始
6:35
UPZ圏の浪江町(原発の北5km~北西30km超)の防災無線「総理大臣の指示により10km以内に避難指示が出ました。町内から西の方に離れてください」
写真:内閣広報室
7:11
菅直人首相が福島第1原発視察
7:30
双葉町(立地町)が全町避難を決定
8:00
双葉町(立地町)の防災無線「今、全地域に避難命令が発令されましたので、各自マイカーで福島方面に避難して下さい。避難場所は川俣小」
写真:福島県富岡町
8:00
UPZ圏の富岡町(原発の南、南西10~20km圏)が西隣りのUPZ圏の川内村(原発の南西30km)に避難開始
8:40
UPZ圏圏の浪江町(原発の北5km~北西30km超)がバス3台のピストン輸送で北西28.5kmの津島へ避難開始
8:47
大熊町(立地町)の防災無線「国からの指示により放射性物質を含む空気を一部外部に放出します…落ち着いた対処をお願いします」
10:00ごろ
西北西4.1kmのモニタリングポストで毎時32.5マイクロシーベルト
西北西方向で毎時20マイクロシーベルトの基準を超えた地域の住民は1週間以内に避難
女川町浦宿、石巻市沢田、中里、蛇田方面で1日後も基準より下がらないと判断された地域は避難
12:47
大熊町(立地町)の防災無線
「道路が渋滞いたしますので、個人の車では避難なさらないようご協力ください」
14:00ごろ
原子力安全・保安院の会見「炉心溶融(メルトダウン)の可能性」
写真:東京電力
14:30
放射性物質を含む蒸気を外部に放出するベントを実施
写真:東京電力
15:36
1号機水素爆発
写真:東京電力
15:40
TVが県内で爆発の映像を速報する
〜16:00
北西5.6kmのモニタリングポストで毎時1591マイクロシーベルト
北西方向で毎時500マイクロシーベルトの基準を超えた地域の住民は数時間以内に避難
女川町女川、石巻市相野谷、桃生町方面で基準を越えた地域は避難
16:30
大熊町(立地町)が原発から西38.4kmの田村市総合体育館に災害対策本部を設置する
写真:東京電力
16:49
TVが爆発を全国放送
〜17:00
北北西8.6kmのモニタリングポストで毎時107マイクロシーベルト
北北西方向で毎時20マイクロシーベルトの基準を超えた地域の住民を1週間以内に避難
女川町石浜、御前浜、石巻市中倉、橋浦、登米市追分沢方面で1日後も基準より下がらないと判断された地域は避難
写真:共同通信社
17:47
枝野幸男官房長官
「何らかの爆発的な事象」
18:00
UPZ圏の浪江町(原発の北5km~北西30km超)が北西28.5kmの津島支所に災害対策本部設置
18:25
政府が20km圏に避難指示
毎時20マイクロシーベルトを超えないUPZ圏は屋内避難継続
写真:東京電力
19:04
海水注入開始
〜20:00
北8.2kmのモニタリングポストで毎時49.2マイクロシーベルト
北方向で毎時20マイクロシーベルトの基準を越えた地域の住民は1週間以内に避難
北方面は放射線量が1日後に基準以下になるため、女川町尾浦町、石巻市雄勝町明神、南三陸町戸倉方面は屋内避難継続
3月13日
写真:国際廃炉研究開発機構
10:40
3号機の炉心損傷(メルトダウン)が始まる
〜20:00
北8.2kmのモニタリングポストで毎時5.4マイクロシーベルト
北方向で1日後の放射線量が毎時20マイクロシーベルトを下回る
北方向の女川町尾浦町、石巻市雄勝町明神、南三陸町戸倉方面は毎時20マイクロシーベルトより線量が下がり、屋内避難継続
双葉町(立地町)独自の判断で39歳以下の町民845人にヨウ素剤投与を始める
3月14日
写真:東京電力
11:01
3号機水素爆発
写真:国際廃炉研究開発機構
19:20ごろ
2号機の炉心損傷(メルトダウン)が始まる
3月15日
写真:東京電力
6:10ごろ
2号機の圧力抑制室付近から異音。放射性物質大量放出
写真:東京電力
6:14
4号機が水素爆発
7:00ごろ
第1原発の作業員650人が約12km南の第2原発に一時退避
北、西方面のUPZ圏住民は屋内避難が続く
時間不明
UPZ圏の富岡町(原発の南、南西10~20km圏)の災害対策本部で、東電関係者を知る町民が「早く逃げなきゃ駄目だ」と職員と押し問答
〜11:00
西南西4.9kmのモニタリングポストで毎時26.2マイクロシーベルト
西方面で毎時20マイクロシーベルトの基準を超えた地域の住民は1週間以内に避難
石巻市桃浦、渡波、東松島市大曲方面で1日後も基準より下がらないと判断された地域は避難
11:00
政府が20~30km圏屋内退避指示
UPZ圏の北、西方面は屋内避難が続く
石巻市桃浦、渡波、東松島市大曲、南三陸町戸倉方面は屋内避難
13:00
UPZ圏の富岡町(原発の南、南西10~20km圏。UPZ)が避難した川内村(原発の南西30km圏)が防災無線で「自分で動ける村民は自主避難を」と広報
〜18:00
UPZ圏外の北西62kmの福島市のモニタリングポストで毎時20.26マイクロシーベルト
北西方向のUPZ圏外で毎時20マイクロシーベルトの基準を超えた地域の住民は1週間以内に避難
?
北西60km方面の栗原市、大崎市で1日後も基準を下回らなければ避難
福島市の多くの地域で断水が続き、給水場所に行列
23:30
UPZ圏外の北西62kmの福島市のモニタリングポストで最大値の毎時23.9マイクロシーベルト
北西60km圏の栗原市、大崎市方面の住民。避難の有無について行政の判断待ち
3月16日
米国政府が福島市、郡山市、白河市、宮城県内の一部を含む80km圏の米国人に避難勧告
80km圏は宮城県ほぼ全域、岩手、福島両県の一部に相当
5:45
4号機原子炉建屋で火災
写真:東京電力
8:34
3号機から白煙噴出
写真:共同通信社
15:00
ともにUPZ圏の富岡町(原発の南、南西10~20km圏)、川内村(原発の南西30km圏)が原発から西60kmの郡山市の県産業交流館に2次避難開始
17:00
UPZ圏外の北西62kmの福島市で毎時15.5マイクロシーベルト
UPZ圏外で1日後の線量が毎時20マイクロシーベルトを下回る
?
北西60km方面の栗原市、大崎市方面は行政の判断待ち
19:30
UPZ圏外の北西62kmの福島市で毎時20.7マイクロシーベルト
1日後の放射線量が基準の20マイクロシーベルトを上回る
?
北西60km圏の栗原市、大崎市方面は避難と屋内避難の境界線上。行政の判断待ち
3月17日
写真:共同通信社
9:48
自衛隊ヘリが3号機に散水
写真:東京電力
19:00
警察、自衛隊の放水車で放水
3月18日
政府が事故の国際評価尺度を0~7段階うち3番目に深刻なレベル5と発表。後に最悪のレベル7に修正
写真:福島県南相馬市
UPZ圏の南相馬市(原発の北20km圏~30km超)で支援物資が入らず、線量に関係なく県外へ集団避難開始
3月19日
写真:共同通信社
10:00
双葉町(立地町)が2度目の避難で埼玉県の「さいたまスーパーアリーナ」に向け出発
3月20日
17:17
コンクリートポンプ車で4号機に放水開始
3月25日
政府が20~30km圏に自主避難要請
3月26日
YouTubeより
南相馬市(原発の北20km圏~30km超)桜井勝延市長(当時)が動画を投稿。「国の屋内退避措置のためコンビニもスーパーも閉まっている。物資輸送もボランティアも自己責任で入らざるをえず、市民は兵糧攻めにあっているような状態」
4月22日
20~30km圏屋内退避解除
半径20km圏外の高線量地域を計画的避難区域に設定。原発から北西50km圏の飯舘村全域と川俣町の一部、北西30~40km圏の葛尾村、浪江町、南相馬市の一部が対象
東京電力福島第1原発事故では、福島県内外に大量の放射性物質がまき散らされた。県民の避難者は発生から1年2カ月後に最大の16万4865人に及び、今も2万6808人(2023年8月時点)が避難を続ける。避難中に亡くなった関連死は2337人(23年3月末時点)。廃炉作業は、少なくとも30~40年続く。原発事故の避難計画は、自宅に長期間戻れない可能性も前提になっていることを忘れてはならない。
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