<東北の本棚>新米医師の葛藤と成長

逃げるな新人外科医泣くな研修医2 中山祐次郎 著

 福島県広野町の高野病院長、郡山市の総合南東北病院外科医長などを歴任した著者の書き下ろしシリーズ第2弾。研修医生活を終えたばかりの外科医雨野隆治(27)を主人公に据え、新米医師の葛藤と成長、患者とその家族らの人間模様をリアリティーたっぷりに描いた。

 さまざまな診療科を数カ月ごとに研修して回る2年間の初期研修を終えた雨野は、東京都内の病院で、初めて2人のがん患者の主治医となる。目の前の仕事や院内の人間関係に振り回されながら、2人の治療に当たる毎日。手術前に患者へ「治る」「大丈夫」と口走ったり、治療中にミスを犯して患者に迷惑を掛けたりする。

 雨野は失敗のたび、情けなさから泣く。まだ業界に染まっていないからでもあるが、そんな雨野の姿を通し、医師になるとはどういうことなのか、人命を扱う職業の心構えについて考えさせられる。「手術前に安全ですとか言うのは、医者が楽になりたいから。外科医は、時に人を殺す。その自覚がないなら外科医をやっちゃいけない」「トラブルが起きた時、その対応をするところまでが医者の仕事。人を切ったり刺したりするってのは、そういうこと」。雨野を諭す上司の言葉は読み手にも響く。

 鹿児島市に住む雨野の父が腹痛を訴え、市立病院で治療を受ける日々も同時並行で描かれる。雨野は心配しつつも、業務に追われて見舞いや病状確認を失念し続け、衝撃的な展開に極度の自己嫌悪に陥る。

 現役医師ならではの描写力が全編を支える。急な大量出血で腹腔(ふくくう)鏡から開腹に切り替える場面など、手術シーンはいずれも臨場感に富む。「タイムアウト」「ヒールドロップサイン」など、耳なじみのない専門用語が頻出するものの、その都度、平易な説明文が入るので難解さは感じない。

 幻冬舎03(5411)6222=781円。

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