社説(3/7):東日本大震災10年/危機回避の鍵は分散にあり

 かつて東日本大震災の被害に関し「まだ東北で良かった」と発言し、引責辞任した復興相がいた。弁解の余地などない失言ではあるが、発言の後段はこう続く。「もっと首都圏に近かったりすると莫大(ばくだい)な、甚大な被害があったと思っている」

 人口密集地帯が大地震に見舞われた場合に増大する危険性を指摘した。事は人命。東北と首都圏の単純な比較は非難に値するが、危機管理意識としては見逃せない視点を提供している。

 首都直下地震や南海トラフ巨大地震の襲来が確実視されている。新型コロナウイルスの新規感染者数は、可住地人口密度にほぼ比例することが知られている。

 大災害やウイルスのパンデミック(世界的大流行)に、一極集中が致命的な弱点を抱えていることが明白なのに、わが国の国土政策は旧態依然のままだ。地方分権とセットで国土構造を分散型に転換しなければならない。

 首都機能移転論議が熱を帯びていた1990年代、「財界のご意見番」といわれた故諸井虔さんは「防災第一」を理由に小規模な首都機能移転を提唱。最高裁判所の移転先候補地として、仙台市を例示した。阪神大震災(95年)があり新都建設の機運が盛り上がったが、景気低迷などもあり移転論は急速にしぼんだ。

 関東から近畿に至る大都市圏には国内GDPの7割を超える生産機能が集中している。とりわけ首都東京には国会、中央省庁、本社、大学などが軒先を並べ、有事の際に中枢機能が失われる危険性は何度も指摘されてきた。

 にもかかわらず、中央省庁の地方移転は文化庁の京都移転にとどまっている。90年代の首都移転論議では政官業の癒着を物理的に断ち切ることもサブテーマの一つだったが、総務省の高級官僚が霞が関周辺で利害関係者の放送関連会社から夜な夜な高額接待を受けていた不祥事が明るみに出た。一極集中は密談の培地でもある。

 一方で、パソナグループが東京の本社から経営企画や人事、財務などの機能を兵庫県淡路島に段階的に移すなど、事業継続計画(BCP)の観点から本社機能の分散を目指す動きが加速している。リモートワークの普及や働き方改革の必要性から、民間ベースでの「地方創生」は避けて通れない経営課題になっている。

 新型コロナウイルスのワクチン接種を巡っても、国の迷走を尻目に東京・練馬区や三重県桑名市などが独自の「モデル」を提示し地方自治体の力量を示している。

 新型ウイルスの感染拡大からわれわれが学んだのは過密のリスクだったはずだ。社会的距離の確保を国土政策に落とし込めば、出てくる解は「分散」「分権」になる。大地震と疫病の教訓から学び、行動を起こすための時間はさほど残されていない。

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