デスク日誌(3/11):即身仏

 真言宗の古刹(こさつ)、鶴岡市大網の湯殿山注連寺は、即身仏「鉄門海上人」が安置されていることで有名だ。

 作家の森敦(1912~89年)は、51年夏から翌春まで注連寺で過ごし、この時の体験を元に芥川賞受賞作「月山」を書いた。ところが、作品に鉄門海上人は出てこない。

 代わりに、行き倒れの亡きがらを煙でいぶし、即身仏らしく形を整えて人寄せにしたという、雪に埋もれた山村のうわさ話が挿入されている。

 「森さんは鉄門海上人を見ていないんです」。寺族の方が言う。当時、注連寺には住職がおらず、即身仏は寺から持ち出されて、関西方面で見せ物になっていたらしい。森が去った3カ月後、寺に戻ってきた。

 「月山」を読んで、注連寺の即身仏は偽物だと思い込む人が少なからずいた。森は、鉄門海の尊崇すべきことを後に知り、講演などで庄内を訪れるたび後悔の言葉を口にしたという。

 それでも「月山」は名作であり続ける。翻って、新聞はどうか。間違いは許されないのだ。今日も目薬を差しつつ原稿を見詰める。整理部に来て、4回目の冬が終わろうとしている。
(整理部次長 野村哲郎)

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