社説(9/11):池袋暴走に実刑判決/高齢事故 多角的な対策を

 東京・池袋で2019年4月、高齢者が運転する乗用車が暴走し、母親と3歳の長女が死亡した事故で、東京地裁は当時87歳の被告に禁錮5年の実刑判決を言い渡した。

 妻子を失った遺族が悲しみに耐えて声を上げ続けたこともあり、事故は高齢ドライバーの安全対策について、社会的な関心が高まるきっかけになった。

 65歳以上の高齢者は、今後20年間で総人口の3分の1以上を占めるようになる。痛ましい事故を繰り返さないために多角的な対策を急ぎたい。

 自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた被告は「アクセルを踏んでいないのに加速した」として、車の電気系統やブレーキの不具合によって暴走したと、無罪を主張した。

 しかし、判決は事故後の車両解析の結果などから「事故原因はブレーキとアクセルの踏み間違い」と断じた上で、「間違いに気づかないまま自車を加速させ続けた過失は重大」と認定した。

 75歳以上の高齢ドライバーが最も過失の重い「第1当事者」となる死亡事故は後を絶たない。昨年は333件発生しており、原因別ではアクセルやブレーキなどの操作ミスが最も多い96件を占めた。

 事故防止には、加齢による運転技能の衰えを的確に把握し、早めに対処することが不可欠だ。

 池袋の事故の遺族は19年11月、高齢者には医師の診断を必須とする特別な免許制度の新設を求め、赤羽一嘉国土交通相に要望書を提出。これを受け、昨年6月には道交法が改正され、新たな免許制度が設けられることになった。

 一つは、運転免許更新時の技能検査(実車試験)の義務化だ。速度超過や信号無視、逆走といった特定の違反歴のある75歳以上の運転者を対象に実施し、合格できなければ免許は失効となる。

 もう一つは、安全運転サポート車(サポカー)だけを運転できる限定免許の創設。衝突軽減ブレーキや、ペダルの踏み間違いによる急加速を抑える装置などを備えた車が想定され、警察庁が年内にも制度の詳細を公表する。

 いずれも来年6月までに施行される予定だ。効果を検証しつつ、高齢者にもより負担感の少ない、使い勝手の良い制度にしていきたい。

 一方、技能の衰えを感じた高齢者がためらうことなく運転をやめられるよう、自由度の高い移動手段が確保されることも重要だ。

 運転免許の自主返納は、池袋の事故があった19年には過去最多の60万件を超えたが、昨年は約55万2000件と減少に転じた。

 人口減少などに伴い、公共交通機関の路線、ダイヤが縮小され、買い物や通院もままならなくなっている地域が多いことが一因だろう。交通の便に恵まれない地域への支援の充実も忘れてはなるまい。

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