デスク日誌(1/21):悔恨の念

 黒人で初めて米アカデミー主演男優賞を受賞した俳優シドニー・ポワチエさんの訃報を聞いて、映画監督の故若松孝二さん(宮城県涌谷町出身)のことが脳裏に浮かんだ。

 ポワチエさんの代表作の一つに「手錠のまゝの脱獄」(1958年)がある。手錠につながれた白人と黒人が逃走する話だ。

 手錠という制約を課せられた2人が時に反目し、時に協力する設定は、後の映画やテレビドラマで数多く使われた。高倉健さん主演の映画「網走番外地」(65年)はその代表だろう。

 若松さんも64年に同じ設定の映画を企画。だが、福島県内のロケで、手錠でつながれた俳優2人が川を渡る場面で流され、死亡した。前夜に飲酒するなど気の緩みがあったという。

 責任の重さと罪の意識から精神的に追い詰められた若松さんは映画界から離れようとした。救ったのは、遺族の「いい映画を撮ってくれることが供養になる」という言葉だった。

 「あれから、事故があった日は酒を飲まない」。生前、長時間話を伺った際の、普段は豪放な若松さんが浮かべた悔恨の念に満ちた表情が忘れられない。(論説委員長 宮川宏)

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