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微妙な違い表現分ける 【特集】なじょだべ仙台弁

オノマトペ  微妙な違い 表現分ける

小林 隆さん

 共通語に比べて仙台弁のオノマトペ(擬音語・擬態語)は種類が多いのが特徴といえる。

 例えば共通語で「にこにこ笑う」というのを、仙台弁では「にこらにこら笑う」と「ら」を付加する。それにより、笑っている様子をより大きく、ゆったりしたように伝えている。「水がたぷたぷ」を「たぷらたぷら」と言えば、ニュアンスも変わってくる。

 これらは「ABらABら」型で、奈良時代の万葉集には、ゆらゆら動く様子を「ゆくらゆくら」、平安時代の古今和歌集には明るく晴れる様子を「ほがらほがら」と表した例がある。古い日本語が残っている可能性がある。

 さらに仙台弁は独特なオノマトペの型を持つ。「ぐずぐず」は「ぐずらぐずら」だけでなく「ぐずらもずら」と「ABらCBら」へ。「のろのろ」は「のろらくさら」「のららくらら」へとより複雑化される。

 どちらもぐずぐずした様子や、のろのろした様子を増幅し、微妙にニュアンスを変えて伝える効果がある。

 オノマトペは様子を音で象徴的に映し出す言葉で、臨場感とリアリティーを追求する表現。仙台人は型にこだわらず、その場で音を微妙に変えてオノマトペをつくり出してきたといえる。

 仙台市出身の詩人土井晩翠夫人の八枝さん(高知県出身)は、著書「仙台の方言」(1938年)の中でオノマトペのコーナーを設けている。種類が豊富で独特な表現をとるオノマトペに、八枝さんは興味を引かれたのだろう。

<小林 隆さん>
 東北大方言研究センター教授。方言学、日本語史学。消滅しつつある方言を調査、記録する。新潟県上越市出身。

やんわり注意促す 仙台市地下鉄 マナー広告

 仙台市地下鉄車内で見かける中づりのマナー広告。「たごま-る(動)」。仙台など北日本で使われており、着ているものが1カ所に寄ってしまうことだ。

 例えば、長袖の服を重ね着するとき、2枚目の服を着ると1枚目が袖の中の方に引き込まれて「いずい」状態になるときなどに使う。転じてさまざまなものがもつれたり、滞ったりすることも示
す。

 ドア近くはラッシュ時でも乗降しやすい利点はあるが、数人がたごまると他の乗降客の邪魔になる。マナー広告は方言を用いてユニークに、やんわりと注意を促す狙いがある。

 市交通局の担当者は「出入り口でたごまるとベビーカーや高齢者らの妨げになる。スムーズな地下鉄運行に協力してほしい」と呼び掛ける。

昔話 地元言葉で動画に 若林区・六郷市民センター

 「なげる( 捨てる)」「かっちゃく(ひっかく)」などの仙台弁が登場する昔話が動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開され、地元の人たちの評判になっている。

 若林区の六郷市民センターが制作した「六郷昔物語」。2006年度に作った同題名の冊子を昨年、読み聞かせグループの協力を得て動画にした。

 地元に伝わる「スサナの森」「赤沼の白蛇」など5話。登場する仙台弁は画面の右上にテロップを付けて分かりやすく解説する。

 同市民センターの担当者は「六郷地区に興味を持つきっかけにしてほしい」と期待する。

自分たちの言葉で心の中に シェークスピアの戯曲を東北弁で上演

奥州幕末のハムレットの一場面 ©シェイクスピア・カンパニー

シェイクスピア・カンパニー理事長 下館和巳さん

 仙台弁のせりふを中心に、シェークスピア劇を演じる財団法人シェイクスピア・カンパニー。理事長で東北学院大教授の下館和巳さんは「日本で演じられる共通語のシェークスピア劇はもどかしかった」と語る。

 塩釜市出身の下館さんは学生時代、英国に留学した。そのときに見たシェークスピア劇は、英国のさまざまな地方のなまりが飛び交う方言劇だった。

 「英国は1066年から約300年間、フランス貴族に征服されていたため、その後も為政者らはフランス語を使っていた」と下館さん。「英国市民がフランスに劣等感を抱いていた時代の16~17世紀、シェークスピアは自分たちの言葉で民衆を魅了した」と解説する。

 ハムレットのTo be, or not tobe, that is the questionは一般に「生きるか死ぬか、それが問題だ」と訳されるが、「すっか、すねがだ、なじょすっぺ(どうしようか)」とした。ハムレットは選択に悩む劇。「『それが問題』だと意気込むより、自信なさげに『なじょすっぺ』の方がしっくりくる」と下館さん。

 「マクベス」で「お前を許さないぞ」「ふざけるな」と訳される言葉は「なにすや? おだずな(ふざけるな)よ、おめ」へ。

 下館さんは「方言は柔らかく、人の心の中に入ってくる。方言は身体表現にもつながる」と強調する。

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(河北ウイークリーせんだい 2022年4月14日号掲載)

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