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<311むすび塾>日常のつながり備えに/第108回中国新聞社と共催@広島・山本学区(上)

傾斜、細道 豪雨時どうする

体力、健康づくりは避難にも役立つということで「百歳体操」に取り組む参加者=2022年11月5日、広島市安佐南区の山本集会所
要配慮者の避難のサポートなど地域の備えについてアイデアを出し合う参加者=2022年11月5日、広島市安佐南区の山本集会所

東日本大震災の教訓を将来の災害への備えに生かすため、河北新報社は2022年11月5日、108回目の防災ワークショップ「むすび塾」を広島市安佐南区の山本学区で開いた。初めて中国新聞社と共催。要配慮者の支援を想定したミニ避難訓練を実施した後、土砂災害を念頭に語り合い、備えの課題と解決のヒントを探った。地方紙連携の共催むすび塾は2014年に開始し、17回目。

 防災ワークショップ「むすび塾」の語り合いは山本集会所で行い、山本学区の住民、広島経済大の学生、東日本大震災の語り部、助言者の12人が参加した。

 山本学区は広島市中心部から5キロ北に位置する。住宅の後背地には武田山(標高410メートル)があり、傾斜地に並ぶ家屋の間を細い道が縫うように通っている。2014年8月、21年8月に豪雨による土砂災害が発生した。

 参加者が見守ったミニ避難訓練の振り返りで「道が狭く路面も悪い坂を車いすで下りるのは時間がかかる。車避難を検討する必要がある」「夜は暗く、ふたのない側溝に落ちる危険もある」といった意見が出た。

 自主防災会連合会会長の岡野康紀さん(63)は「地震でブロック塀が倒れたら通れない。広い道優先で避難した方がいいと分かった」と語った。子育てサークル「MaMaぽっけ」代表の坂本牧子さん(61)は「ベビーカーの避難も側溝や歩道の段差が危ない」と述べた。

 避難について山本学区社会福祉協議会福祉委員の田中啓子さん(74)は「避難は勇気と決断が要る。いざとなるとためらう」と不安を口にした。他の住民からも「避難開始のタイミングが分からない」「避難所に行きにくい」との声が上がった。

 語り部として参加した石巻市民生委員児童委員協議会副会長の蟻坂隆さん(72)は「避難所で不自由な思いをする障害者や足腰の弱い高齢者が行きたがらない。今も悩んでいる」と言う。訪問活動の中で、一緒に避難しようと声がけしていることなどを説明した。

 語り部を務めた石巻市の小規模多機能型居宅介護「めだかの楽校」管理者の石山うみかさん(45)は高齢者の避難につながる工夫として、施設で日頃から行っている立ち上がる練習と足腰体操を紹介。「日常の習慣になっている。自分で立てると後の行動がスムーズになる」と語った。

 安佐南区にある広島経済大は「災害を知り未来へつなごうプロジェクト」で、学生が被災地支援や地域の防災活動に取り組む。訓練で車いすの人を介助した3年北本竣也さん(21)は「地域の人の役に立ちたいけれど、住民との接点がない」と打ち明けた。

 助言者として参加した減災・復興支援機構専務理事の宮下加奈さん(53)は「若者が地域に関わることが防災の大きな推進力になる」と述べ、「足湯イベントなどを通じて住民と交流し、地域の声を防災や地域の活性化につなげてほしい」と提案した。

 助言者で学生プロジェクトを指導する同大准教授の後藤心平さん(48)は「学生が地域と連携し、若者や子育て世代など多様な世代を巻き込んでいけるようにしたい」と力を込めた。

 活発な質疑応答に加え、参加者は広島ご当地の「百歳体操」や、めだかグループの足腰体操を体験したほか、唱歌「ふるさと」を一緒に歌い、親交を深めた。

 社会福祉協議会会長の小堀昭男さん(71)は「宮城の語り部と広島の住民が自然災害という共通のテーマで気持ちを通わせ、防災の知恵を出し合った。体操のような何げない取り組みが防災に役立つと分かったので、活動をさらに進めたい」と決意を語った。

<助言者から>

■自ら体験し行動を検証/減災・復興支援機構専務理事 宮下加奈さん(53)

 天気の良い日中の避難訓練だったが、雨が降ればリスクが増える。街灯が少ないことも気になった。道路わきに庭用のソーラーライトを設置してはどうか。

 土砂災害の危険性が低い場合、避難先は近くの公民館や集会所でもいい。福祉施設などと相談して、受け入れてもらう方法も。民間同士で話をした方がうまくいく場合もある。

 要配慮者の避難を考える際、健常者が車いすに乗ったり、アイマスクや耳栓をしたりして、自ら体験し、互いに行動を検証してみると、課題がたくさん見つかるはずだ。

 工夫して、避難を楽しむ文化を根付かせてほしい。雨が降りそうだったら、弁当と着替えを持って、一晩過ごす。集まるのが楽しければ、交流も生まれる。大事なのは、避難をためらわず、早めに行動すること。避難所はゴールではなく、再建のスタート地点だ。

■地域と学生が協力 大切/広島経済大准教授 後藤心平さん(48)

 避難訓練は、いろんなケースを想定して小規模で実施し、そのたびに反省会で情報を積み重ね行くことが大切だろう。

 大学も避難所に指定されている。学生が運営計画を作った。災害FMのほかに、校内の大型スクリーンで映画上映や、広い教室でレクリエーションをするなど、教員も巻き込んだ楽しい避難所として機能させようと取り組んでいる。

 今回参加した「災害を知り未来へつなごうプロジェクト」の学生たちは防災活動を通して、地域に貢献したいと真剣に考えている。防災に限らず、日ごろからいろんな活動で地域と学生が連携することが大事だ。若い子育て世代も巻き込むような仕掛けも考えたい。

 山本学区は近隣に二つの大学がある。昨今は近所付き合いが希薄になっているが、住民と若者が対話を重ね、安心安全で住みやすい街を実現してほしい。

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