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<311むすび塾>要配慮者介助 課題探る/第108回中国新聞社と共催@広島・山本学区(下)

住民と学生 ミニ避難訓練 時間、体力、経路…注意点次々と

車いすで避難所まで移動しながら、介助の仕方や危険箇所を確認した=2022年11月5日、広島市安佐南区山本3丁目
祖父と孫が石塀や石垣に挟まれた狭い道路を下り、避難先の山本小に向かった=2022年11月5日、広島市安佐南区山本7丁目
長雨で発生した土石流により、住宅街に押し流された樹木と車=2021年8月、広島市安佐南区山本6丁目
紙芝居「なっちゃんのランドセル」

 東日本大震災の教訓を将来の災害への備えに生かすため、河北新報社が広島市安佐南区の山本学区で2022年11月5日に開いた防災ワークショップ「むすび塾」のミニ避難訓練は、車いす利用者役の住民と介助者役の広島経済大生2人のグループと、小学生の孫と祖父のペアがそれぞれ、自宅から指定避難場所の山本小を目指した。語り合いに参加する住民ら約30人も同行し、見守った。

 広島経済大3年の北本竣也さん(21)と都はるかさん(21)は、社会福祉協議会監事の小島嘉徳さん(76)が乗る車いすを補助し、500メートル離れた山本小に向かった。

 北本さんは車いすを押し、都さんは道路や側溝など周囲の状況を伝え誘導した。まずは自宅から続く下り坂。転倒を防ぐため、北本さんが進行方向に背を向けて後ろ向きで車いすを移動させた。

 平らな道では車いすを前向きに方向転換。両脇のふたのない側溝や、マンホールと排水溝の段差にも注意を払った。都さんは地図を持ち、進行方向や車の動きを伝えた。

 車いすの操作に力を入れ続けていた北本さんは後半、少し疲れた様子だった。約18分で到着。北本さんは「押す人が女性なら1.5倍の時間がかかるだろう」と推測。普段は車いすを使っていない小島さんは「想像より時間がかかる。悪天候の場合は車の方がいい」と語った。

 青少年健全育成連絡協議会会長の谷口正行さん(74)は孫の春日野小2年宇江田夏芽さん(8)と1キロ先の山本小に移動した。

 坂の途中にある家を出た後、石垣やブロック塀、家の間を縫うような道を下った。2人がやっと通れる幅の狭い道では、ふたのない側溝に気を付けた。道と側溝が交差する箇所で、谷口さんは「落ちた子がいるんだよ」と伝え、孫に注意を促した。

 広い通りに出ると歩道があったものの、急に狭くなる場所も。夏芽さんを先に行かせて1列で歩いた。信号のない交差点は交通量が多く、なかなか横断できなかった。

 夏芽さんは膝が悪い祖父の足元を見て、速さを調整するように歩いた。約19分で山本小に到着。谷口さんは「歩いた経路の中に以前、水があふれたところもある。どこが安全なのか考えないといけない」と語った。

土砂災害 繰り返し発生/広島・山本

 広島市安佐南区の山本地区は近年、繰り返し土砂災害に見舞われている。

 2014年8月20日未明、広島市の安佐南、安佐北両区を記録的な豪雨が襲った。広範囲で土砂崩れや土石流が発生して多くの住宅が被害を受け、市内で75人が亡くなった。山本地区でも山本小5年の平野遥大(はると)君=当時(11)=と都翔(とわ)ちゃん=同(2)=の兄弟が犠牲になった。

 21年は8月11日から前線の停滞が長引き、広島市は長雨となった。14日には山本地区の2カ所で土石流が発生。犠牲者はなかったものの、住宅や農地に土砂が流入し、大きな被害を受けた。山本地区近くの雨量計によると、1時間雨量はそれほど多くなかったが、12~25日の積算雨量は793ミリに達し、広島市内で最大だった。

 いずれの豪雨災害でも、山本小に避難所が開設され、地域住民が避難した。

<東日本大震災の語り部から>

■住民 普段から交流を/石巻市民生委員 児童委員協議会副会長 蟻坂隆さん(72)

 要配慮者の避難を支援者が補助する八幡町の防災ネットワークを2004年に、町内会や民生委員が中心となって作った。地震は突然発生するため、支援者が地域に不在で、駆け付けることができなかったケースがあった。

 その時に感じたことは支援者だけに頼るのではなく、近所の住民同士が助け合える関係をつくっておくことの重要性だった。

 私の町内ではハイキングやクリスマス会などで交流を深めてきた。歩行できるのか否かや病気の有無などの情報を事前に把握しておくことで、より迅速な避難につながる。

 避難の方法は、環境で異なるので地域で考えてほしい。避難訓練を振り返ると、山本学区は街灯が少なく、夜間の避難は適していないと感じた。また、大雨になると住民は雨風を避けるため、避難に車を利用する可能性が高い。避難所の駐車場が足りなくなると、一帯が渋滞する恐れもある。

 課題があっても、どうすれば乗り越えられるのか知恵を絞り、時には行政に提案することも必要だろう。災害は場所や人を選ばない。今回の経験が次の災害の備えにつながることを願っている。

■事前の準備 成否左右/めだかの楽校管理者 石山うみかさん(45)

 「めだかの楽校」を含む「めだかグループ」の施設は東日本大震災の前、沿岸から400メートルの場所にあった。高齢者は避難に時間がかかるため、大きな揺れがあると直ちに避難すると決めていた。

 震災発生直後も、警報を待たずに地震が収まると、すぐに車で避難を開始し、結果として利用者や職員、住民ら計87人を高台へ無事移動させることができた。事前に避難経路や場所を決めていたことが、素早い行動につながったと思う。

 震災前、避難時間の短縮を目指し、年4回ほど防災訓練を行っていた。車いす利用者を大人4人で運んだ場合、時間がどれくらいかかるのかなど検証しながら最善の方法を模索し、全員が車に乗り込む時間を10分ほど縮めた。

 普段の生活では、利用者が防災を身近に感じる工夫をしてきた。例えば、リハビリは「地震だ!」の掛け声で始め、いすからすぐに立ち上がったり、頭を守ったりする動きをしてもらう。

 災害時は事前の準備が、避難の成否を左右する。訓練はもちろん、日常の中に防災にも役立つことを取り入れ、災害への意識を根付かせ、落ち着いた行動につなげてほしい。

紙芝居 教訓次世代に/犠牲2児の母が原案/早期避難の大切さ訴え

 2014年8月20日の土砂災害の教訓を子どもたちに伝えようと、むすび塾に参加した坂本牧子さんが代表を務める子育てサークル「MaMaぽっけ」(広島市安佐南区)は、紙芝居「なっちゃんのランドセル」を作った。

 紙芝居は12枚で、ストーリーの原案は、山本地区で土砂災害の犠牲となった平野遥大君=当時(11)=、都翔ちゃん=同(2)=の母親が作った。

 小学1年の主人公なっちゃんは大雨の日、家族と避難の準備を始めた。隣に住む祖父母は「裏山が崩れたことはないけえ大丈夫じゃろう」と言って家にとどまろうとしたが、「みんなでおらんと、なんかこわいよ」と連れ出した。

 翌朝、避難所から帰ると、自宅と祖父母の家は土砂に埋まり、お気に入りランドセルも見つからなかった。悲しむなっちゃんに、祖父母は「誘ってくれんかったら、助からんかったかもしれん」と感謝した。

 坂本さんは語り部らに紙芝居を紹介し、「土砂災害から命を守るため、早期避難することの大切さを伝えたかった。全国で自然災害が相次いでいるが、家族が生きてさえいれば、みんなで泥かきができる」と活用を呼びかけた。

 紙芝居の連絡先は広島市安佐南区社会福祉協議会082(831)5011。

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