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<311むすび塾>乳幼児向けの備え必要/第103回巡回ワークショップ@名取高(岩沼)

学校に避難所 課題探る

学校で災害が起きた場合の対応について発表する生徒
校内の見取り図を使い、避難所のレイアウトを考えたワークショップ
乳幼児の受け入れに必要な避難所の準備について調査する生徒(左)=2021年9月、岩沼市西保育所

 河北新報社は2021年10月16日、通算103回目の巡回ワークショップ「むすび塾」を岩沼市の名取高で開いた。同校は市の指定避難所になっており、災害時は住民らと共に地域の保育所の子どもたちが身を寄せる。高校生にできることは何か、家庭クラブと生徒会のメンバーが保育所の乳幼児の受け入れを中心に備えの現状と課題を語り合った。

 家庭クラブの部員4人、生徒会役員2人の生徒6人と、助言者として東北大災害科学国際研究所プロジェクト講師の保田真理さん(65)、岩沼市西保育所主任保育士の吉田真由美さん(49)が参加した。

 家庭クラブのメンバーは今年6月、西保育所の幼児が避難経路の確認で同校を訪れた際、学校が市の避難所に指定されていることを知った。この出来事をきっかけに、本年度は乳幼児への対応をはじめとする避難所開設時の課題と解決策を調査研究している。

 生徒たちは、東日本大震災と2019年の台風19号豪雨被害の被災体験を共有。「震災時は車中に1週間避難した。備蓄がなく食料確保が大変だった」「台風で自宅1階が雨で浸水したが、避難せず2階にとどまらざるを得なかった」などと報告し合った。

 家庭クラブはこれまで保育所の聞き取りや学校の備蓄品の調査を行い、避難所の部屋割りや子ども向けの備えを検討してきた。2年大内万由子さん(17)は「幼児用の便座が必要。おむつ交換の場所も用意したい」と語った。

 生徒たちは震災発生当時、幼稚園や保育所に通っていた。家庭クラブの2年菅井春香さん(16)は、震災時に身を寄せた避難所での体験を振り返り「じっとしていなければならず落ち着かなかった。昔話が好きなので(もしもの時は)避難した子どもたちに話してあげたい」と述べた。

 災害時は不安で余裕のない大人の心情を子どもは敏感に感じ取る。吉田さんは保育士の立場から「小さい子はかがんで目の高さを合わせ、笑顔で優しく語り掛けると心を開く」と接し方のヒントを伝えた。

 避難所のレイアウトを考える演習も行った。生徒は校舎と体育館の図面を広げて「授乳室に備品の幕が使える」「高齢者は車いす用トイレの近くがいい」と、アイデアを出しながら部屋割りや動線を書き込んだ。

 生徒会役員の2年吉野武流さん(17)は「話し合いで明確になった避難所運営の課題を生徒会の今後の活動に生かしたい」と述べた。保田さんは「自分たちで判断できないこともいっぱいあると思う。前もって消防署や保健所の専門家と話し合ってはどうか」と提案した。

家庭クラブの活動/保育所聞き取り備蓄品など提案

 名取高の家庭クラブは現在、1~3年の女子生徒13人が所属している。以前から保育所や児童センターで子どもたちと遊んだり、福祉施設でお年寄りと交流したりしている。

 本年度は学校の防災対策をテーマに研究に取り組んだ。学校の災害備蓄品の内容や貯水槽の容量などを調べたほか、9月には西保育所を訪問して聞き取り調査した。

 調査によって、自分たちが遊んだり、話したりすることで、子どもたちの不安をなくせることが分かった。大人用トイレは幼児が使えないことや、おむつ交換の場が少ないといった課題も見つかった。幼児用便座やおむつ交換部屋の用意を学校に提案する方針だ。

 避難所開設時の活動として、自分の健康状態や被災者の心情とプライバシーに配慮しながら、手伝えることや困っていることがないか、声掛けすることを決めた。

 名取高は電車通学が多く、電車が止まった場合に帰宅困難者となる生徒が44.5%に上ると判明。クラブは、生徒一人一人がウエットティッシュや非常食などを入れた防災ポーチを用意するよう呼び掛けている。

 メンバーは10月28日、同校であった宮城県高校家庭クラブ連盟研究発表大会に参加。研究成果を「もし学校で災害が起こったら 学校が避難所になった時を想定して」と題して発表し、最優秀賞を受賞した。県代表として12月の東北ブロック大会に参加する。

<助言者から>

■優しい声掛けで安心感/岩沼市西保育所主任保育士 吉田真由美さん(49)

 大きな声は子どもがびっくりするので、優しい声掛けをお願いしたい。小さい子はかがんで視線を合わせ、表情も笑顔で話し掛けると心を開くと思う。

 遊び場所があれば、特別な物や道具はいらない。手遊びや歌、身近な物でできる遊びで子どもは十分喜ぶ。赤ちゃんは大きくて清潔なブルーシートがあると、そこではいはいができる。

 授乳コーナーのように、母親のプライバシーが守れる空間もあるとありがたい。皆さんが子どもたちのことを真剣に考え、備えに取り組んでくれていて、とてもうれしかった。

■着替え ロッカーに常備/東北大災害科学国際研究所プロジェクト講師 保田真理さん(65)

 災害で交通機関が止まった場合に備え、1泊か2泊、学校で過ごしても大丈夫なように、着替えをロッカーに常備してほしい。

 お年寄りはスリッパだと転びやすい。避難所開設を想定して、非常持ち出し袋に上履きを入れるよう、事前に呼び掛けてはどうか。床に座るのは足腰に負担がかかるので、椅子があるとお年寄りは助かる。

 寄り添いたくても、心の傷が深い被災者ほど対話に時間がかかる。一人では大変なので、グループでの対応が大事になる。日々の様子を記した日記があると、引き継いだ時に役立つ。

<メモ>東日本大震災をはじめとする自然災害の被災体験を振り返り、防災の教訓や課題を考えてみませんか。町内会や学校、職場など少人数の集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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