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<311むすび塾>巡り 語り 備える/第100回(下)

住宅などに津波の浸水痕が残る宮城県東松島市大曲貝田地区で実施した第1回むすび塾。住民が教訓を共有し、地域に必要な備えを話し合った=2012年5月6日
宮崎日日新聞と共催した第37回むすび塾。保育士が避難訓練で幼児を乗せた乳母車を押しながら高台を目指した=2014年10月28日、宮崎市の木花公園

 河北新報社は東日本大震災の教訓を今後の備えに生かすため、巡回ワークショップ「むすび塾」を2012年5月に始めた。宮城県内を中心に月1回のペースで続け、21年2月で100回を数えた。住民と防災の専門家らが、被害と犠牲をできる限り抑える方法と、一人一人が取るべき行動を話し合う。震災発生から10年が過ぎ、むすび塾の必要性は一段と高まっている。

 これまでの参加者は住民延べ1052人、専門家延べ94人、震災の語り部73人。沿岸部での津波対策のほか、内陸部では地震、風水害などへの備えを提案してきた。

 むすび塾に取り組むきっかけは、震災発生から半年後の11年夏に実施したアンケート。宮城県沿岸部の被災者に、河北新報の防災報道について聞いたところ「(震災で)役に立たなかった」が72%を占めた。

 河北新報は宮城県沖地震を想定し、震災前から防災報道に力を入れてきたが、備えの行動に結び付かず、震災での甚大な被害を防げなかった。加えて、震災による実際の被害の様相は、リアス海岸と平野部、漁村と都市でそれぞれ異なり、必要な対策も違っていた。

 こうした反省に立ち、地域に応じた備えの情報を直接届けるため、住民を対象にワークショップを開くことを決めた。記事には防災対策を分かりやすく、目立つように伝えるため、イラストを添えた。

 13年1月からは年数回、むすび塾全国編も開催。南海トラフ巨大地震が心配されている地域などで震災の教訓を伝え、将来の備えを促した。被災地の参考となる全国各地の先進的な防災対策も紹介した。

 14年6月からは全国編を発展させ、地方紙、放送局とむすび塾を共催。地元の報道機関を通し、震災の教訓やワークショップの成果を広く発信した。

 同年からは年1回、日本損害保険協会(東京)と連携し、安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を取り入れた児童向けのワークショップを実施。児童と地域を歩き、危険な場所や避難できる建物などを確認し、防災マップにまとめた。

 むすび塾開催後、具体的な行動を起こした地域や職場もある。日中に家に居るお年寄りだけで避難訓練を実施した町内会、通信が途絶した際の連絡手段を配備した病院、遠方の宿泊施設と災害時支援協定を結んだホテルなどだ。

 被災地では震災発生後、住民同士で当時を振り返る機会がほとんどなかった。むすび塾はコミュニティーやコミュニケーションの大切さを再確認する最初の機会になった。

 震災から年月がたつにつれ、震災の当事者にとっては、被災直後の不安や課題を思い出し、共有する場になった。震災当時幼かった中高生は、参加前に親らに震災の話を聞いており、家庭内で震災を伝承する機会にもなっている。

 今野俊宏取締役編集局長は「震災10年を経て風化を防ぐ『伝承』と次の災害に備える『防災・減災』の重要性はますます高まる。むすび塾を学校などで続けることで、震災を知らない世代への教訓の伝承にもつなげたい」と話す。

過去の議論 研究者分析/若い世代育成 主な課題

巡回ワークショップ「むすび塾」は、自然災害と防災をテーマに多様な参加者が意見を交わしてきた。2019年6月に福井県で開催したむすび塾に参加した福井工大の竹田周平教授と卒業生の原山千聡さん(23)、真鍋崇人さん(23)が、過去100回の議論の傾向や課題、成果を分析した。

 むすび塾の開催地は地図の通り。国内のうち宮城県内が72回、県外は25回、海外はインドネシア、チリの2回。他にオンライン形式が1回だった。

 対象は町内会、自治会をはじめとする地域住民が36回で最も多く、地域住民と要支援者12回、企業・観光施設11回、児童(保護者を含む)と、生徒・学生がそれぞれ9回と続いた。テーマに想定した自然災害は地震・津波が74回、地震(夜間を含む)が11回、河川氾濫・台風が10回など。

 開催形式は、語り合いが83回、避難訓練と語り合いが17回。語り合いの議論のタイプ別は、地域や企業などが防災について課題を議論する「課題探求型」62回、災害の教訓を後世に伝える「防災マップ作成型」8回、「伝承型」7回、児童に防災について教える「災害教育型」4回、その他2回だった。

 課題として「震災伝承の必要性」「住民への避難経路やルートの周知」「住民同士の交流活性化」などが、複数の地域で上がった。災害伝承活動や防災活動を担う若い世代の育成も、各地で望まれていた。

 竹田教授は「むすび塾のように100回にわたり、継続的に住民と助言者が地域防災の課題と対策を話し合ってきた防災の取り組みは前例がないだろう。次の10年、また100年後においても、震災の記憶を継承し、次に発生する大震災に役立つ資料となってほしい」と期待した。

<メモ>河北新報社は新型コロナウイルスの感染防止に取り組みながら、東日本大震災10年が過ぎた今後も、むすび塾を随時開催します。震災をはじめ自然災害の被災体験を振り返り、教訓や備えを考えてみませんか。町内会や学校、職場など少人数の集まりが対象です。開催は無料。随時、受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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