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<311むすび塾>「備え大切」歩いて実感/第93回ワークショップ/@仙台・根白石

学区内の防災マップ作り

住民や学生ボランティアとともに防災マップを作り上げていく児童=2019年9月19日、仙台市泉区の根白石小
関東・東北豪雨で5本の橋脚に大量の流木が滞留した馬橋=2015年9月12日(仙台市泉区道路課提供)

 河北新報社は2019年9月19日、93回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を仙台市泉区の根白石小(森直校長、児童107人)で開催した。2年生20人が土砂崩れや水害などの危険がある箇所を点検し、住民の話に耳を傾けた。学校に戻ると、見聞きした要点や安全上の注意点を大型の防災マップにまとめ、日ごろからの備えの大切さを学んだ。

 日本損害保険協会(東京)の安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を活用して実施。東北福祉大の学生ボランティアや泉かむりの里観光協会が協力した。

 根白石地区は泉区北西部にあり、泉ケ岳や七北田川に育まれた豊かな自然が広がるエリア。児童は(1)土砂災害(2)大雨水害(3)動物被害(4)交通安全-の4テーマに沿って5人ずつの4班で学校を出発した。道すがら、大地震が起きたら倒壊の可能性がある古いブロック塀や空き家をチェック。断水時でも使える手押しポンプの井戸や公衆電話など、被災時に役に立つ設備も見つけて地図に記入した。

 土砂災害は、根白石地区町内会長庄司一史さん(81)が担当し、避難所となっている根白石中武道館に向かった。途中にある宇佐八幡神社で、庄司さんは「社務所は一時的に避難する『いっとき避難場所』になる。落下すると危ないから、地震の時は石灯籠に近づかないで」と助言した。

 豪雨災害の講師は商店経営高橋長也さん(72)が務めた。高橋さんは2015年の関東・東北豪雨の際、七北田川が越流した馬橋で、「あふれた水は膝の高さまで達した。災害時にどうするか家族で話し合っておこう」と訴えた。

 動物被害では、クマやイノシシの生態や農作物被害について、農業熊谷幸夫さん(63)が説明。七北田川上流の茂みを指し「イノシシがいっぱい出る。茂みに隠れて移動するから、茂みを減らすと出没が減る」と語った。

 地域には観光名所が多い上、近年は自転車ブームを追い風に、乗用車や自転車の通行量が増えた。交通事故を担当した町内会役員官沢秀夫さん(63)は「地区内には狭く見通しの悪い道路がある。自分の目で危険な箇所を確認しておくことが大切だ」と呼び掛けた。

 学校に戻った児童は、班ごとにマップ作りに挑戦した。住民や学生ボランティアらと共に各テーマの要点を付箋にまとめたり、危険箇所をカラーペンで色分けしたりして、計4枚の防災マップを仕上げた。

 感想発表では「大雨で馬橋の水があふれたことを初めて知った」「災害が起きたら、家族や先生、大人と行動する」といった声が上がった。

2015年の豪雨→「馬橋」から浸水拡大

 根白石小学校区は旧根白石村の中心部にあり、840世帯2033人(2018年4月現在)が暮らす。旧根白石村は1955年に旧七北田村と合併し旧泉村となり、57年に町制移行、71年に市制移行を経て88年に仙台市と合併、89年に仙台市泉区となった。

 地区内を流れる七北田川は本流に、複数の支流が流れ込んでおり、複雑な地形と相まって豪雨の際、水害を引き起こしてきた。

 2015年9月の関東・東北豪雨では、地区中心部にある「馬橋」(幅4.45メートル、長さ36メートル、橋脚5本)に流木や土砂が滞留、一帯に浸水被害を出した。橋自体も損壊し、接続道などの陥没も起きたため、仮橋による復旧までの約10カ月間、通行が不可能になった。

 馬橋復旧をめぐり、地区住民らは16年6月、「根白石まちづくり協議会」を設立。協議会では専門家も交えた議論の末、現在地より約150メートル下流に新馬橋を建設、現馬橋は橋脚数を減らし歩道橋とする案を仙台市に提言した。市は整備に向けた準備を進めている。

<講師から>

■早めの避難行動を/根白石地区町内会長 庄司一史さん(81)

 【土砂災害】 高台にある根白石中武道館は指定避難所だが、手前の坂道は大雨が降ると雨水が川のように道路を流れ落ちる場合がある。そうなってから移動するのは危険を伴う。大雨になる前に早めの避難行動を心掛けてほしい。

■家族と話し合って/商店経営 高橋長也さん(72)

 【大雨水害】 2015年9月の関東・東北豪雨の時、馬橋から水があふれ、周囲は膝の高さまで浸水した。大雨が降ったときにどう行動するか、家族と話し合おう。地元には田畑がある。七北田川の水が生活に欠かせないことも知ってほしい。

■近づかないが鉄則/農業 熊谷幸夫さん(63)

 【動物被害】 今年もイノシシやクマの農作物被害が出た。出遭っても刺激しない、近づかないが鉄則。クマは嗅覚が鋭い。食べ物があれば置いて逃げて。どちらも茂みに隠れることがあり、夜に活発化する。これからますます里に下りてくる。用心を。

■自分の身は自分で/根白石地区町内会役員 官沢秀夫さん(63)

 【交通安全】 学校周辺は昔からの町並みが残り、道幅が狭く、見通しも悪い。子どもたちは通学路を実際に歩き、どんな場所が危険で、なぜカラー塗装の道路があるのか気付いた。自分の身は自分で守るという意識を持つきっかけにしてほしい。

日本損害保険協会の「ぼうさい探検隊」

 「ぼうさい探検隊」は、損害保険会社の事業者団体「日本損害保険協会」(東京)が2004年に始めた安全教育プログラム。子どもたちが、地域にある防災や防犯などに関する施設や設備などを見て回り、身の回りの安全・安心を考えながらマップにまとめる。

 年1回、マップの全国コンクールを実施して優秀作品を表彰する。探検隊の活動マニュアルも用意し、マップ作製に必要な文具キットを無償で提供している。昨年度のコンクールでは、全国566団体1万7983人の児童が参加し、計2865作品が寄せられた。

 河北新報社は協会の協力を得て、探検隊のノウハウを取り入れたむすび塾を開いている。連絡先は同協会「ぼうさい探検隊マップコンクール」事務局03(6822)9355。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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