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<311むすび塾>津波対策 県境越え共有/第92回巡回ワークショップ@山形・遊佐

警戒区域・吹浦で課題探る

語り合い後、避難経路を確認する参加者たち
災害への備えや避難について語り合った=2019年8月25日午前10時10分ごろ、山形県遊佐町

 河北新報社は2019年8月25日、通算92回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」を山形県遊佐町の吹浦(ふくら)地区で開いた。山形県での開催は初めて。県は今年3月、同町を東北初の津波災害警戒区域に指定しており、津波に備えた地域づくりをどう進めていくか課題となっている。語り合いには、宮城県内で防災活動に積極的に取り組む自治会関係者2人も加わり、防災分野での仙山連携の可能性を探った。

 語り合いは地域住民ら11人が参加して、吹浦まちづくりセンター(吹浦防災センター)を会場に開かれた。鉄骨2階の同センターは2016年にオープンし、普段は地域住民のコミュニティー活動の拠点として使われている。災害発生時には避難所にもなり、避難スペースや防災倉庫、炊き出し施設なども備える。

 6月18日夜に発生した新潟・山形地震を振り返った吹浦地区区長会長の高橋克典さん(78)は「停電は起きなかったが、もし停電で暗闇になり、ラジオやテレビが使えず、道路の信号が消えていたらどうなっていたか。渋滞の車列を津波が襲ったら、などと考えてしまった」と打ち明けた。

 ともに地域の防災活動を担う吹浦地区まちづくり協議会生活安全部員の金子和恵さん(61)と畠中英子さん(70)は「避難所が自分の家より低い場所にある。逃げづらい」「避難所に行くよりも避難住民を受け入れる用意を考えたい」などと口々に教訓を挙げた。

 高齢者や身体が不自由な人の避難を不安視する声も。同協議会生活安全部長の後藤淳子さん(59)は「足の不自由な方が、避難場所の数段の階段を上れなかった。高齢者や車いす利用者など、地域にどんな住民が暮らしているか、顔なじみになっておく必要があると痛感した」と述べた。

 助言者として宮城県から参加した七ケ浜町笹山行政区副区長の鈴木享さん(66)は「まずは命が最優先だ。地域から犠牲者を出さないためにも自主的に防災マップを作製しては」と提案。震災前、鈴木さんが住んでいた花渕浜地区で作製した防災マップを披露した。

 助言者の仙台市宮城野区の福住町内会副会長柴山準一さん(80)は「地域のコミュニケーションを活発にすると同時に、遠隔地の自治会と相互支援協定を結んでおくと心強い」とアドバイスした。

 震災発生直後、協定に基づき尾花沢市や新潟県小地谷市の町内会から支援を受けたエピソードを紹介し、「ぜひ吹浦地区とも協定を」と提案。高橋会長は「ぜひ前向きに検討したい」と応じた。

津波被害想定/約10分で10m超 死者最大5250人も

 山形県が2016年に公表した日本海の大規模地震に伴う津波の浸水・被害想定によると、沿岸部には地震発生後10分前後で10メートル以上の最大波が到達すると予測されている。

 最大津波高に達する最短時間は震源により異なるが、鶴岡市は五十川8分、温泉街の湯野浜12分、酒田市は飛島(勝浦)5分、酒田港11分、遊佐町は吹浦18分など。

 被害は避難が難しい「冬深夜」、海水浴客が多い「夏正午」、出火が多い「冬午後6時」でシミュレーション。死者が最も深刻なのは冬の深夜で、5250人に達すると算出した。

 そのうち津波による死者は5060人で全体の96.4%を占める。ただし住民が地震発生後速やかに避難した場合、死者は8割減の960人に抑えられ、住民の防災意識の向上が人的被害軽減のカギになる。

 日本海に面した3市町のうち、遊佐町は今年3月、県から津波防災地域づくり法に基づく「津波災害警戒区域」に東北で初めて指定され、津波避難体制の強化に取り組んでいる。

 警戒区域では、建物などに津波がぶつかって上昇する分を加味した「基準水位」が10メートル四方ごとに示され、避難すべき場所の高さが明確になる。町内で最も基準水位が高いのは、吹浦地区の一部で12.3メートル。町は8月に吹浦地区で初めて総合防災訓練を実施。策定中の吹浦保育園の避難計画を近く完成させ、避難訓練も行う。

<助言者から>

■遠隔地と協定結び 備え/仙台市宮城野区福住町内会副会長 柴山準一さん(80)

 福住町内会は震災前、高齢者の世帯を対象に家具の転倒防止対策をしていた。震災の揺れは激しかったが、家具の下敷きになってけがをした高齢者はいない。迅速に屋外に出て避難につなげる意味でも、家具の転倒防止は重要だろう。

 地域は海岸から5キロほど内陸部にあるが、津波が川を遡上(そじょう)し、倒壊した家屋が押し流されてきた。津波は海岸付近だけでなく、川の上流にさかのぼってくることを想定して、対策を立ててほしい。

 福住町内会は震災前から、尾花沢市鶴子地区などの町内会と災害時相互協力協定を結び、互いの地域の防災訓練や防災活動に参加するなど交流をしてきた。

 震災発生から4日後、町内会で備蓄していた食料が尽き欠けたころ、鶴子の人たちが温かいおにぎりとみそ汁、水などを車に積んで駆けつけてくれた。感激し、勇気づけられた。

■手作り防災地図役立つ/宮城県七ケ浜町笹山行政区副区長 鈴木享さん(66)

 震災発生当時、暮らしていた七ケ浜町花渕浜は、住民自らが地形を調べて、津波ハザードマップを作っていた。震災前に想定されていた津波高3メートルを回避できるいっとき避難場所12カ所を独自に設定し、地域にマップを配った。

 マップを使った避難訓練も行った。必要に応じて避難路や避難場所を見直し、マップを更新。そんな活動を続けるうちに、地域の防災意識が高まったと思う。

 震災発生直後、避難場所の一つに私を含め住民47人が集まった。ラジオで5メートル以上の津波が来ると知り、高台の墓地に2次避難した後、その避難場所は津波に襲われた。地域をよく知っていたことが、適切な避難行動につながった。

 避難所の開設や運営はもちろん大事だが、それができるのは助かってこそ。みなさんには、高台などに避難して身を守ることを最優先に考えてほしい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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