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<311むすび塾>人もペットも命守ろう/第91回巡回ワークショップ@仙台・宮城野区

獣医師、飼い主ら語り合い

飼い犬4匹も参加し、ペット同行避難について活発に意見を交わした=2019年8月4日、仙台市宮城野区の宮城県獣医師会館
語り合い中、飼い主に寄り添い待機する小型犬
避難所運営体験キットの説明を聞く参加者ら
おりに入った愛犬に「待て」の指示をする参加者
2018年6月に宮城県利府町で初めて実施されたペット同行避難訓練

 河北新報社は2019年8月4日、宮城県獣医師会と協力し、通算91回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」を仙台市宮城野区の県獣医師会館で開いた。獣医師や獣医師会認定ボランティア、ペットの飼い主ら10人と犬4匹が参加。ペット同行の避難をテーマに、必要な備えや地域との関係づくりについて語り合った。

 東日本大震災の振り返りでは、利府町で動物病院を営み、ペット同行避難の取り組みを進める獣医師中川正裕さん(62)が「県内でペット約1万匹が犠牲になったと推定されている。家に置いてきたペットを連れに戻り津波で亡くなった人もいた」と指摘した。

 他の参加者からは「ペットがいるため、避難所に行くのを遠慮したり、車内で生活したりしていたケースもあった」「慢性病の薬や治療用フードの種類を飼い主が把握していなくて困った」などの意見が出た。

 備えとしてはペットフードやトイレ用品の確保、ペット用のおりに入れる訓練の実施が挙がった。県獣医師会動物救護アドバイザーの板谷智子さん(46)=山形市=は「物資の準備にとどまらず、災害時に起き得ることを想定して、ペットの訓練をしておかなければならない」と強調した。

 県獣医師会では2018年から利府町、19年からは塩釜市と連携し、ペット同行避難を取り込んだ防災訓練を実施している。

 シーズーを飼う高橋咲子さん(44)=塩釜市=は「犬が思いがけない反応をすることが分かっただけでも参加した意味があった」と振り返り、「ペットを同行する防災訓練はまだ十分に知れ渡っていない。次回は近所の飼い主にも声を掛けたい」と話した。

 グレートピレニーズの飼い主で、これまで訓練に3回参加した菅原義男さん(65)=仙台市泉区=は「地域住民にもペット同行の避難を知ってもらう機会になる。参加する度に新たな発見や学びがあるので、もっと回数を増やすべきだ」と述べた。

 東京都獣医師会事務局長で、同行避難の啓発に取り組むNPO法人「アナイス」代表の平井潤子さん(59)=東京都=は「まず自分の命を守った上で、ペットも守るのが飼い主の責任だ。同行避難が地域に受け入れられるためには、飼い主が避難所運営に協力する意思を示すことが重要になる」とアドバイスした。

環境省「同行避難」の原則明示/マイクロチップ装着も促す

 東日本大震災の教訓から環境省は2013年に初めて、大規模災害発生時のペット救護策を示すガイドラインを作成し、飼い主がペットと一緒に避難する「同行避難」の原則を打ち出した。熊本地震の反省を踏まえ、18年に改訂した。

 ガイドラインは飼い主の心構えとして(1)ペットとの同行避難は飼い主の安全確保が前提(2)食料、常用薬などペット飼育用品を備蓄する(3)排せつやペット用のおりに入るといったしつけのほか、予防接種もしておく-などを挙げている。

 大震災では、鳴き声やアレルギーなどを理由に避難所にペットが入れないケースがあった。一方でペットが自宅に取り残されたり、飼い主とはぐれたペットが放ろうするなど、同行避難しない場合の弊害が浮き彫りになった。

 熊本地震でも、避難所でのトラブルが多発し、車中泊やテント泊などが目立った。このため改訂版はペットの安全を守る責任は飼い主にあることや、同行避難が避難所での同居を意味しないことを強調。飼い主に迷い犬対策としてマイクロチップの装着、自治体には飼育スペースの確保といった受け入れ対策を促す。

 宮城県内では仙台市が05年からペット同行避難の訓練を実施。震災後は利府町が18年、塩釜市が19年から県獣医師会と連携し、総合防災訓練に同行避難を導入した。会場にペット避難エリアを設け、おりに入れたり、飼い主と離れた場所につなぎ留めるなど、避難時の行動を確認している。

 利府町生活安全課の担当者は「飼い主は訓練に参加するなど、日ごろから災害に備えてほしい。町としては訓練を続け、ペット同行避難の理解が深まるよう住民に周知したい」と話す。

<助言者から>

■飼い主の責任自覚必要/東京都獣医師会事務局長NPO法人アナイス代表 平井潤子さん(59)

 ガイドラインはペットの健康を守る責任は飼い主にあると明記した。責任を果たすには、飼い主が事前に安全確保策を講じ、災害発生時には自分とペットの命を守る行動を取るべきだろう。

 東日本大震災、熊本地震ではペットが原因で逃げ遅れたり、避難所に行けなかったりした人もいた。飼い主の防災力が高いと、自分や家族、ペットの命を守るだけでなく避難所運営や地域の復興の力にもなる。

 同行避難の普及を目指し、飼い主自身が避難所を開設するためのスターターキットを作った。「ペット避難の受付を作る」など、必要事項を書いたカードと掲示物を衣装ケースに入れて避難所に保管しておけば、カード通りこなすことで誰でも開設と運営ができる。

 ペット用のおりに嫌がらずに入れるようにしたり、ペット飼育用品を使いながら補充して備蓄するなど、普段の備えが被災時のハードルを低くする。防災訓練に参加して、地域に受け入れてもらえるよう行動することも大切だ。できることを積み重ね、まず飼い主の防災力を上げてほしい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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