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<311むすび塾>急勾配 狭い路地に苦慮/第90回福井新聞社と共催@福井・三国(上)

歴史ある港町 津波想定し避難訓練

津波を想定して高台へと避難する参加者=2019年6月29日午前9時55分ごろ、福井県坂井市三国町
狭い住宅地を抜けて避難場所の高台へと向かう参加者=2019年6月29日午前9時10分ごろ、福井県坂井市三国町

 河北新報社は2019年6月29日、福井県坂井市の三国町地区で90回目となる防災・減災ワークショップ「むすび塾」を開いた。福井新聞社(福井市)との共催。ワークショップと併せて住民を交えた模擬避難訓練も実施し、日本海と九頭竜川河口に面した港町の津波の危険性を改めて確認、今後への備えについて話し合った。

 三国町地区はかつて北前船の寄港地として栄えた観光名所で、年間100万人超の観光客が訪れる名勝・東尋坊もある。県の想定では、若狭湾沖で福井地震(1948年6月28日)と同規模(マグニチュード7級)の地震が起きた場合、最大8.68メートルの津波が押し寄せるとされる。

 模擬避難訓練は、三国町地区内の2カ所で実施し、町内会関係者や家族連れ、高齢者ら約30人が参加した。地元の福井工大生は、車いす利用者と支援者などの役割を決めて臨んだ。

 1カ所目は海水浴場の三国サンセットビーチから約500メートル離れた一時避難場所の春日遊園地(海抜23.1メートル)まで、急勾配な住宅密集地の路地を移動した。急に道幅が狭くなる場所もあり、参加者が道を間違えたり車いすが段差につまずいたりする場面もあった。

 全員7~8分で避難を完了し、目標の10分以内に到達できた。参加者からは「普段は車での移動が多いので、歩いて上るとこんなにきついと思わなかった」「高齢者が坂を上って避難するとなると、どうやって手伝えばいいのか」といった戸惑いの声が相次いだ。

 5歳と3歳の娘を連れて避難した伊藤かおりさん(31)は「子どもの足に合わせると、急ぐのは難しい。今日は自分で歩いてくれたが、もし抱っこをせがまれたら坂道を抱っこして上るのはきつい」と話した。

 2カ所目は九頭竜川河口岸壁から、800メートルほどある指定避難場所の三国南小(海抜21.0メートル)を目指した。周囲は、北前船で繁盛した豪商の屋敷など当時の生活様式を伝えるレトロなたたずまいが残り、町歩きを楽しむ観光客の姿もあった。

 交通量の多い県道を車を気にしながら横断し、家々の間を移動。途中で雨に見舞われ、参加者は傘を差し息を切らしながら坂道を進んだ。全員が避難を終えるのに12分ほどかかった。

 東日本大震災の被災体験者として参加した石巻市の東北福祉大3年志野ほのかさん(20)は「避難訓練中、海の様子が全然見えなくて怖かった。土地勘が無いので1人で歩いたら、どちらに逃げたらいいか分からない」と振り返った。

九頭竜川河口部の港町/観光客の避難課題

 むすび塾が開催された三国町地区は、有史以来、氾濫を繰り返してきた九頭竜川の河口部に位置し、北前船の寄港地として繁栄した三国港がある港町だ。三国港は、野蒜(東松島市)、三角(みすみ)(熊本県宇城市)と並び、明治政府が手掛けた港湾整備事業「日本三大築港」の一つにも数えられる。

 三国町は2006年に近隣の丸岡、春江、坂井3町と合併し、人口約9万の坂井市となった。歴史ある港町として発展した三国町地区(人口約2万)は、旧商家や住宅が密集した趣深い街並みを現在も残している。

 越前ガニやアマエビの水揚げ地として知られるほか、全国的にも有名な名勝・東尋坊は年間を通じ多くの観光客でにぎわう。一方で地区沿岸部への津波第1波到達時間は地震発生から最短で7~14分とされ、住民や観光客がいかに早く避難行動を開始し、高台へ移動できるかが重要となる。

<専門家から>

■官民学連携 減災の近道/東大工学部准教授 広井悠さん(40)

 東日本大震災で津波火災の現地調査をした。火の付いたがれきの漂流や油の流出、電気系統の出火などが原因とみられる。避難ビルに入り内部空間を燃やすなどの延焼リスクが難点だ。

 ただ、震災では津波火災より津波そのもので亡くなった人の方が圧倒的に多かった。津波火災を恐れる余り、高所に逃げる垂直避難を考えず、遠くを目指す水平避難を最優先するのは、リスクマネジメントとして正しくないかもしれない。

 判断は難しいが、避難ビルの開口部を海側に設けない、山際や避難ビルの周辺にがれきが漂着するのを防ぐ林や柵を造るなどハード面でもやりようがある。

 命と地域を守るには、無理をしないで継続することが大切。イベントに若い人が参加するだけで地域の防災力は向上する。住民、行政、専門家が集まる場を作り、つなぐことが遠回りのようで防災減災の近道だ。

■避難ルート 複数設定を/福井工大工学部教授 竹田周平さん(48)

 訓練は避難先が遠く、参加者はゆっくり逃げていた。だが、津波はすぐ到達する。初めは早足で逃げ、坂道で呼吸を整えて上ることを意識してほしい。

 道中は海抜表示板が目立ったが、避難先を知らせる標識は見当たらなかった。幅が狭く、木造住宅やブロック塀が倒れたら通れなくなる道もある。避難ルートをあらかじめ複数設けておくことも必要だろう。

 災害の教訓は時がたてば忘れてしまう。「自分だけは大丈夫」と考えたり、災害が発生するとパニックを起こして動けなくなったりする人も少なくない。

 避難訓練に参加すると「この路地が危ない」といった発見があり、心構えができる。毎年同じシナリオではなく、次の行動を参加者自身に考えてもらう訓練に工夫すると、なお効果的だ。参加者は体験を家族や周囲の人に伝え、地域の防災力を高めてほしい。

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