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<311むすび塾>地域と関わり積極的に/第89回ワークショップ@仙台・長町

障害者の避難 中学生と考える

東日本大震災を振り返り、今後の備えについて話し合ったワークショップ=2019年5月22日、仙台市太白区長町1丁目
東日本大震災で被害を受けたCILたすけっとの事務所=2011年3月31日、仙台市太白区

 河北新報社は2019年5月22日、通算89回目の減災・防災ワークショップ「むすび塾」を仙台市太白区長町で開いた。障害者の自立を支援する市民団体「CILたすけっと」メンバーと、同団体の事務所などで職場体験をした地元の長町中の2年生3人らが参加し、車いすを使っている障害者の避難や若い世代の役割について語り合った。

 東日本大震災では、障害者の避難所や避難方法、必要な物資についてさまざまな問題が浮上した。

 大崎市の実家にいた高橋やすえさん=太白区=は「ガソリン不足でヘルパーさんが来られなくなり、不安だった。自転車で駆け付けてくれて、ありがたかった」と振り返る。

 電動車いすを利用する横山拓哉さん(26)=太白区=は「停電中で充電できず、自力で動けなかった。一人だけでは備えができない」と話す。

 障害者が地域の避難訓練に参加できる機会は多くない。事務局長の杉山裕信さん(53)=太白区=は「地元の避難訓練に参加の意思を伝えたら、障害者は自宅待機と言われた。それでも参加した」というエピソードを紹介。長期入院中の別の参加者からは「病院で避難訓練に参加するのは職員だけ」との指摘もあった。

 有事に備え、近所付き合いや地域との連携を心掛けるメンバーもいる。佐藤順子さん(56)=青葉区=は「近所の人に自分のことを知ってもらっている」、遠藤直美さん=若林区=は「民生委員とすぐに連絡が取れるようにしている」という。

 たすけっとでは震災後の一時期、事務所が障害者の避難所になった。介助スタッフの豊川健さん(43)は「スタッフも家族がいて、すぐに駆け付けられないこともある。被災後に慣れた場所で過ごせれば、少しは気持ちも和らぐのではないか」と思いやる。

 中学生は話し合いに先立ち、メンバーとともに仙台市の公共施設を訪れ、バリアフリー度を点検。大山拓さん(13)は「わずかな段差でも困る人がいることを知った」と語った。

 震災では避難所となった小中学校で、子どもたちが物資の配布や案内役を務めるなど活躍した。「学校をよく知る子どもたちの手助けがあれば障害者も安心できる」と期待する声も出た。

 岩崎優麻さん(13)は「お年寄りの家を訪れ、困り事を聞くプロジェクトに参加した」、則本雄大さん(13)は「マンションの資源ごみの回収に参加し、住民と顔を合わせるようにしている」と地域に溶け込む試みも紹介。「どんなことができるか考えたい」「助けるのは中学生しかいない」と決意を新たにした。

 助言者を務めた早稲田大人間科学部の古山周太郎准教授(44)は「日常生活で中学生と車いす利用者との接点は少ない。防災訓練や避難訓練に参加したり、町内会や学校とワークショップを開いたりすると相互理解が進むだろう」と提案した。

 障害者施設側には、電動車いすのバッテリーを充電できる太陽光などの自家発電設備や、車いすで避難する際の荷物や負担を少なくするため、あらかじめ避難先の備蓄倉庫に着替えや持ち出し袋を置くことを勧めた。

「CILたすけっと」/介助者確保策進める

 仙台市の障害者自立支援団体「CILたすけっと」(永井康博代表)は障害者と介助者らが1995年に設立した。市内を中心に会員約40人で構成し、介助者の派遣や障害者支援の啓発活動を行う。

 同団体によると、東日本大震災発生時、太白区長町の事務所は入り口のガラスが割れ、照明が落下するなどの被害が出た。会員に人的被害はなかったが、地域の避難所に行っても入れないなど多くの困難を抱えた。介助ヘルパーの中には被災やガソリン不足で活動できなくなる人もいて、通常業務再開まで約2カ月かかったという。

 阪神大震災を機に被災障害者のために設立された「ゆめ風基金」(大阪市)の協力で2011年3月末に宮城県内14団体で「被災地障がい者センターみやぎ」を開設。発生半年で避難所など41カ所に紙おむつや食料などの支援物資を配布。約400人に介助、送迎などの支援を行った。

 被災経験を教訓に同団体は会員一人一人の個別避難計画を作成。介助の代替要員確保策などを盛り込む事業継続計画の策定も進める。杉山裕信事務局長(53)は「防災意識を高め、備えをさらに進めたい」と話す。

長町中の防災活動/平時から住民と連携

 今回のむすび塾には「CILたすけっと」で職場体験中だった仙台市長町中(生徒879人)の2年生3人も参加した。同中は東日本大震災後、地域と一体となった防災活動に力を入れており、むすび塾の語り合いでは学校の取り組みや日常生活での災害への備えなどの事例を紹介した。

 同中は毎年、1年生全員が地域の総合防災訓練に参加し、簡易トイレの組み立てや炊き出しなど避難所運営を体験する。2年生になると救急救命訓練法の講習を受け自動体外式除細動器(AED)の使い方も学ぶ。

 さらに、長町地区の民生委員と一緒に、1年生が地域の高齢者宅を訪問し話を聞く「我がまち絆プロジェクト」も展開。市民向けの防災減災講座や清掃ボランティアにも積極的に参加し、平時からの地域住民との連携強化に努めている。

 担当教諭は「地域住民と普段からどれだけ顔の見える関係性を築いておくかが大切だろう。災害に備え、今後もできる限り地域との連携を進めたい」と話す。

<助言者から>

■訓練参加 話し合う場を/早大人間科学部健康福祉科学科准教授 古山周太郎さん(44)

 語り合いで震災時に電動車いすの充電ができず困ったとの話が出た。車いすは障害者の生活に欠かせない。病院には医療機器用の非常電源がある。車いすへの供給の優先順位を上げてもらうなど、災害時の電源確保の仕組みが必要だ。

 障害者が防災訓練に参加するのは大事なことだ。でも、実際は車いすの人や目の不自由な人にとって、なかなか参加しにくい現実がある。障害者側も「呼ばれたから参加しよう」ではなく日ごろから自治会や町内会と関係づくりをし、できること、できないことを話し合って参加できるようになればいい。

 中学生から、学校が避難所になったら障害者をサポートしたいとの意見があった。中学生は地域に詳しく、被災時に大きな力になる。中学生と障害者が防災、災害を一緒に考える場をつくり、生徒を軸に地域防災が進むことを期待したい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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