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<311むすび塾>話すことから始めよう/第87回ワークショップ@東松島・矢本二中

中学生が初参加、教訓伝承考える

中学生が初めて参加して震災伝承について語り合った=2019年3月11日、東松島市の矢本二中
むすび塾に先立って開催されたワークショップで車座になり討論する参加者=2019年3月11日、東松島市の矢本二中
むすび塾に先立って開催されたワークショップで決意表明する東北大生=2019年3月11日、東松島市の矢本二中

 河北新報社は2019年3月11日、通算87回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を東松島市の矢本二中で開いた。同中の生徒4人が中学生として初めて参加し、東日本大震災の語り部活動をしている高校生と短大生、阪神・淡路大震災の被災地で災害学習に取り組む兵庫県舞子高環境防災科の生徒とともに教訓伝承について意見を交わした。若い世代が語り継ぐことの意義を確認し、伝承の担い手として決意を新たにした。

 参加者は語り合いに先立ち、住民や学生ら約120人とともに震災伝承をテーマに同中体育館で開かれたワークショップにも臨んだ。

 中学生たちはワークショップを振り返り「小学生が震災時に避難所運営を手伝ったと聞き、自分たちにもできると感じた」「いろいろな世代の人と話し、新しい観点で震災を考えられた」と意見を述べた。

 東日本大震災で学区の沿岸部が津波被害を受け、校舎1階などが浸水した同中は、防災教育に積極的に取り組んでいる。3年阿部航大さん(14)は「震災体験のない他県出身の学生と話してみて、自分たちなりの防災意識の強さと学習の成果を実感し、励みになった」と感想を語った。

 震災時は就学前だったため当時の記憶は曖昧な部分もあるという。3年石川樹(たつき)さん(14)は「怖かったことは覚えている。忘れたいとも思うけれど、忘れたら語り継げない。震災についてもっと知らないといけない」と力を込めた。

 2年後藤日菜子さん(13)は将来を見据え、「震災後に生まれた子に伝えたい。次に起きた時に困らないよう、備えに役立つことを教えたい」と下の世代に思いを寄せた。

 想定される南海トラフ地震や首都直下地震を挙げ「他地域の人に伝え、犠牲者が出ないよう事前に備えてもらいたい」との発言もあった。

 一方で、中学生が語り部に取り組むことに「語り部を務めるには経験も知識も足りない。自分には難しい」「自分にできるか不安」と戸惑う声も。これに対し、語り部として活動する先輩が経験を交えて助言した。

 小学5年の時に津波で自宅を失い、親友が犠牲になったことを語ってきた同市出身の聖和学園短大2年相沢朱音(あかね)さん(19)は「被災経験の有無や知識量より、震災について話したり聞いたりすることが大事だ。自分は活動で出会った人に聞いた話も交えて伝えている」と説明。「震災を語り合える場があればいい」と訴えた。

 気仙沼市の自宅を津波で失った経験を語り継ぐ気仙沼高3年佐藤菜摘さん(17)は「語り部でなくても、まず震災について話すことに意義がある。友達と話してみてはどうか」と提案した。

 舞子高で防災を学び、4月から広島大に進学した志方宥紀さん(18)は「10代の人が語る震災の話は胸に響く。語り合う場を関西にもつくってほしい」と要望。「語り合いの内容を冊子やSNS(会員制交流サイト)で発信すれば遠方の人にも伝えられる」と述べた。

 先輩たちの話を受け、同中3年畠山爽(さやか)さん(14)は「震災を語り継ぎたい思いがあれば自分たちにもできると分かった。まず仲の良い友達に話すなど、小さなことから始めたい」と心境の変化を打ち明けた。

 元石巻西高校長で、3月まで東北大教育・学生支援部特任教授を務めた斎藤幸男さん(64)は「被災経験の有無によらず集う機会があるといい。震災について話したり聞いたりする中で自分なりの活動を進めてほしい」と10代の活動に期待を寄せた。

 矢本二中で防災教育を担当する鈴木国也安全主幹教諭(51)=4月1日付で宮城県大郷中教頭=は「防災は小さなことを継続することが大事。子どもが主体的に関われるような取り組みが必要だ」と強調した。

防災集会&ワークショップ/普段の心構え 重要さ確認

 矢本二中では11日、むすび塾に先立ち、同校の防災集会と東日本大震災の伝承を考えるワークショップも開かれた。生徒たちが日ごろの防災活動を紹介したほか、語り部や復興支援に取り組む当事者らと震災を語り合い、伝承活動の強化を誓った。

 防災集会では同中の1、2年生約240人が参加し、代表生徒が防災の取り組みを発表。地域住民と協力しながら学区内の危険箇所マップを作製する活動のほか、実施日時を生徒に明かさずに突然行う「ショート避難訓練」などを報告した。

 実践例を通して、地域と一体となって防災意識を高めるとともに、判断力や行動力を養う意義を全校で確認し合った。

 ワークショップは「311みやぎ鎮魂の日 震災を語り継ぐ」と題し、同中コミュニティ・スクール学校運営協議会が主催した。

 同中生徒12人のほか、震災語り部や東松島市の震災ツアーガイド「TTT」、教員を志す東北大生14人、阪神・淡路大震災の伝承に取り組む兵庫県舞子高校生ら県内外から約120人が参加した。

 8班に分かれ、避難訓練の在り方やボランティア活動、被災地のまちづくりなどをテーマに震災発生当時を振り返り、今後の災害への備えを話し合った。

 ワークショップ後、東北大生たちは壇上に並び、「教員になって地域住民の方々と一緒に避難所運営を考えていきたい」「災害時は日ごろの取り組みの成果が問われる。教師として日々防災を学ぶ気持ちが大事だと伝えたい」と決意表明した。

矢本二中/1m超の津波襲う 670人避難

 東日本大震災で東松島市は震度6強の揺れを記録した。10メートルを超える津波が野蒜地区など沿岸部を襲い、関連死を含め1109人(1月1日現在)が亡くなった。全半壊した家屋は1万1077棟に上り、市内全世帯の73%を占めた。

 市東部にある矢本二中は海岸から約3キロ離れていたが、近くを流れる定(じょう)川の堤防が決壊するなどし地震発生から約1時間後に1メートルを超える津波が押し寄せた。

 学校には生徒や教職員、住民合わせ670人が避難。津波により校舎1階、講堂、武道場が壊滅状態となり、校舎2階などへの避難を余儀なくされた。孤立状態が続いたが発生3日目に自衛隊の救助が入った。

 発生から1週間たっても水が引かない状態が続いたものの、10日目以降、学校再開に向けた準備を進めて3月30日には卒業式などを実施。4月半ばにかけて、学校業務を順次再開した。

 震災を教訓に、同中では防災教育に力を入れており、震災の月命日となる毎月11日を中心に、災害への対応を学ぶ各種防災プログラムに取り組んでいる。

<専門家から>

■中学生の力 大人顔負け/元石巻西高校長 斎藤幸男さん(64)

 震災発生当時に務めていた石巻西高で避難所運営を経験した立場からいえば、子ども、特に中学生の存在は運営にとって大事だ。避難所内で役割を担ってもらい、自分たちが役に立つ存在だと分かると、率先して水も運ぶし、トイレ掃除もしてくれるし、大人顔負けの力を発揮してくれる。

 震災を語り継いでいく上で、中学生の立場でいきなり震災の語り部になるというのは少し荷が重いだろう。まずは周囲の人たちと話してみるところから始めるだけでもいいのではないか。焦る必要はまるでない。

 災害と向き合うことは命の教育だ。むすび塾に先立って開いたワークショップでも、震災の語り部たちから次代を担う中学生たちへ命の大切さや被災した思いなどが引き継がれた。さらに中学生らから次の世代へとつながっていけば、震災は風化せずに語り継がれていくだろう。

主体的な行動に手応え/矢本二中安全主幹教諭=現宮城県大郷中教頭= 鈴木国也さん(51)

 矢本二中で防災教育を担当して4年、予告なしの避難訓練など独自の実践を続け、生徒が主体的に行動する姿に手応えを感じている。

 月命日の毎月11日は朝の会で震災や防災をテーマに学習や意見発表を行った。年3回のショート避難訓練は生徒が設定や点検を担当。当事者になることで課題が明確化し解決に向け自ら行動した。防災教育は生徒が能動的に関わることが成果に結びつく。

 学区沿岸部や学校は視察者が訪れ、命の大切さを伝える場になっている。一方、震災前は見過ごされてきた津波の碑もあり、教訓を伝承する重要性を感じる。

 防災教育は命や生き方を考え、いじめなど学校現場の課題を乗り越える力にも地域学習のきっかけにもなる。生徒には震災伝承や他地域との交流に関わることを期待したい。まずはやってきたことを後輩に伝え、次世代につないでほしい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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