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<311むすび塾>震災伝承担う決意新た/第85回ワークショップ@宮城・七ヶ浜

高校生、被災地で語り合う

震災を伝えていく意義などについて語り合う参加者=2018年12月16日、宮城県七ケ浜町の笹山地区避難所
カフェ併設の宿泊施設「シチノリゾート」屋上の避難デッキで津波被害について話し合う参加者=2018年12月16日、宮城県七ケ浜町の花渕浜
視察後、津波犠牲者を追悼する慰霊碑に手を合わせる参加者=2018年12月16日、宮城県七ケ浜町の花渕浜
住民と交流するFプロジェクトの生徒たち=2018年10月21日、宮城県七ケ浜町の松ケ浜地区避難所

 河北新報社は2018年12月16日、通算85回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を宮城県七ケ浜町で開いた。東日本大震災の語り部活動や復興支援に取り組む県内の高校生6人が参加し、自分たちの取り組みを紹介するとともに震災伝承の今後に向けて課題を話し合い、震災を未来へ語り継いでいく決意を新たにした。

 6人は語り合いに先立ち、10メートル以上の津波が襲来した同町の菖蒲田浜と花渕浜を訪問。同町在住で地元の向洋中在学中に震災をテーマに活動する「Fプロジェクト」に参加した紀野国七海(ななみ)さん(16)=多賀城高1年=、小野寺美羽さん(16)=仙台育英高1年=が被災当時の状況を説明した。

 参加者は視察後、震災後に建てられた笹山地区避難所で語り合いに臨んだ。

 震災犠牲者を追悼するキャンドルナイトの実行委員を務める、仙台市の仙台青陵中等教育学校5年鈴木渉悟さん(17)は「沿岸被災地を訪れたのは今回が初めて。同じ宮城県内でも自分が住んでいる仙台市内陸部の被災は大きな違いがある。まだまだ震災を知らないと痛感した」と打ち明けた。

 同じく沿岸被災地を初めて訪れた栗原市の築館高3年二階堂和奏(わかな)さん(17)は災害支援に取り組む同校の「人のためプロジェクト委員会」の活動を紹介しながら「内陸で震災が話題になることはほぼない。(2008年の)岩手・宮城内陸地震の被災地でもあるのに内陸地震が語られることもない。被災者の話を聞く機会を増やしていく必要がある」と危機感を募らせた。

 震災の風化を懸念する声は他参加者からも続いた。

 教員を目指しているという紀野国さんは「教員になって子どもたちに震災を伝えていきたいが、それまでの時間の風化が怖い。南海トラフ巨大地震が心配されており、宮城県以外にも伝えていきたい」と強調。

 津波浸水域に桜を植樹する活動を続けている宮城農高(仙台市)の2年山口誉人(たかと)さん(16)は「震災を風化させず未来へ伝えていくために家族や友人に働き掛けるなど、自分でもできることがある。震災は自分の可能性を気付かせてくれた面がある」と力を込めた。

 震災を次世代に伝えていくために震災を深く学ぶ必要性を訴える声もあった。

 七ケ浜町を案内した小野寺さんは母と祖母が津波の犠牲になった点に触れながら、「自分にとって震災は怖く、悲しい出来事。でも、こんな思いをする人を減らしていくために他の被災体験も学び、怖さを伝えていきたい」と語った。

 多賀城市の多賀城高災害科学科で、震災を学び防災啓発に取り組む2年宇佐美直輝さん(17)は「震災伝承の仲間がいるのは心強い。高校生は大人だけでなく小中学生にも語りかけやすい立場にある。幅広く活動したい」と意欲をみせた。

 助言者として参加した向洋中教諭瀬成田実(まこと)さん(60)は「震災は悲しい出来事であるが、同時に命を学ぶ教材でもある。若い人がつながり、できることから伝承に取り組んでほしい」と助言。宮城教育大の防災教育未来づくり総合研究センター准教授小田隆史さん(40)は「被災地にどんな暮らしがあったか。被災者はどんな人だったか。話を聞き想像力を使って、自分の言葉で震災を未来へ語り継いで」とエールを送った。

Fプロジェクト/向洋中生が結成 学習契機に復興支援

 宮城県七ケ浜町の向洋中生有志でつくる地域活動団体「Fプロジェクト」は、同中の震災学習を機に2016年に結成され、東日本大震災の伝承と地域復興に意欲的に取り組む。高校に進学した卒業生が別団体を新たに結成するなど、活発な活動を続けている。

 Fプロジェクトは15年、地元七ケ浜町の震災に向き合うことを目的とした「震災学習」を設けたのが結成のきっかけとなった。生徒は震災時の行動を振り返り、作文にまとめ、自身の被災体験を改めて捉え直したほか、町内外の被災者にも話を聞き、結果を発表し合う学習にも取り組んだ。

 一連の学習を経て生徒たちの間に「町の復興のために何かしたい」との声が高まり、有志が16年3月にFプロを結成した。Fは古里、復興、フューチャー(未来)の頭文字を取った。

 プロジェクトでは、災害公営住宅の住民交流会企画や震災体験の語り部活動、地域の海浜清掃などを行う。本年度は生徒約30人が参加し、菖蒲田浜地区で9月に住民交流会を企画、合唱や吹奏楽演奏を披露した。

 プロジェクトに参加したメンバーは進学後も活動を続けようと、昨年3月に「きずなFプロジェクト」を結成。仙台市や多賀城市などの高校に通う十数人が参加した初年度は町の津波避難路を歩き、住民に震災体験を聞く現地調査を実施した。震災を伝える幼児向け紙芝居作りや若者イベントでの発信にも力を入れる。

 昨年10月には、両プロジェクトが合同で企画した災害公営住宅の住民交流会「きずな食堂」が松ケ浜地区であり、中高生40人が花壇の植え替えや除草作業を行った後、ダンスやクイズを通じ住民と親睦を深めた。

 Fプロジェクト結成当初から指導している向洋中教諭の瀬成田さんは「震災を学び実践を重ねることで、仲間や地域への思いが響き合い、活動の幅が広がっている。他校生とも連携し、若い世代がつながることで地域の復興に力を発揮してほしい」と期待する。

<助言者から>

■命考える大きな「教材」/七ケ浜町向洋中教諭 瀬成田実さん(60)

 震災後に七ケ浜町向洋中に赴任し、生徒が震災と向き合う学習活動を指導した。最初の学年が現在の高校1年生。卒業後も自分なりに考えて地域のために活動する姿に成長を感じる。

 今回のむすび塾で高校生は自分たちの活動と思いを語った。津波で家族を亡くし、伝承に関わる生徒は「震災と一生向き合っていく」と覚悟を述べた。被災地で植樹などを続ける生徒は「震災が自分にできることを気付かせてくれた」と打ち明けた。「目標が見つかった」という生徒は教師になって減災と命の尊さを子どもに伝えたいと訴えた。

 震災は多くの不幸をもたらしたが、命、家族、友、地域を考える大きな「教材」でもある。被災体験は違っても、高校生が学んだことを伝えることが重要。若者の力で震災に向き合い、語り継ぐために行動を。生徒同士で交流し、できることから始めてほしい。

■想像し言葉のリレーを/宮城教育大准教授 小田隆史さん(40)

 東日本大震災と向き合う高校生同士で語り合うことで、大人たちから話を聞くのとは違う学びがあっただろう。自身で受け止めた経験を今後、どのようにリレーしていくかが重要になる。

 米国では第2次世界大戦中の強制収容について、収容された日系米国人の子孫たちが強制収容の歴史を語り継いでいるという事例もある。戦争と震災を同列に扱うことはできないが、当事者でなくても、若い世代が犠牲を繰り返さないという思いを自分たちの言葉でリレーしているといえる。

 震災から7年以上が過ぎ、これから先、震災を伝えていくには想像力が鍵を握る。被災地を訪れ、被災者に聞き、そこにはどのような街並みがあって、どのような暮らしがあったのか想像して思いを寄せて伝えていってほしい。気負う必要はないが、若い力が結び付きリレーされていくことが伝承の力になっていく。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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