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<311むすび塾>女性の視点 必要性実感/第83回巡回ワークショップ@仙台・市名坂

避難所運営の在り方議論/イコールネット仙台と共催

女性の視点を生かした避難所運営の在り方を議論する参加者
小学校内の防災倉庫で備蓄用品を点検する参加者
市名坂東町内会が開催した防災訓練。消防署員から消火器の使い方などを学んだ=2018年9月

 河北新報社は2018年10月25日、通算83回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を仙台市泉区の市名坂小で開いた。NPO法人イコールネット仙台(仙台市)と共催。全役員が女性で、災害対策に積極的に取り組む市名坂東町内会のメンバーら9人が参加した。「女性と防災」をテーマに、震災で直面した問題や今後の取り組みなどを話し合った。

 東日本大震災の経験を踏まえ、2013年10月、同小学校区避難所運営委員会が発足した。特徴は、女性避難者の課題に対応する「女性コーディネーター」を配置した点。むすび塾の参加者らは指定避難所でもある同小体育館に掲示された委員会の分担表や、災害用物資の備蓄状況などを確認した。

 語り合いでは、震災時、市名坂東町内会の集会所が地域の母親や子どもたちのよりどころになった事例が紹介された。対面キッチンなど子連れの利用者に配慮した設計で、一時、100人近い親子が身を寄せた。地震発生翌日から毎日午前と午後の2回、お茶の時間を設けてコミュニケーションを図るなど工夫を重ねたという。

 町内会長の草貴子さん(58)は「元々、転勤族が半数近いエリアで昼間は男性が少ない。地域にいる女性が町内会を担おうと考え、主婦経験を生かして活動してきた」と説明した。

 震災時、集会所のリーダーを務めた高橋敏江さん(52)は「夜泣きする赤ちゃんもいた。小学校高学年の子が小さい子と遊んであげたり、互いにできることに取り組んだりした」と話した。子どもたちが次々に吐いた際は「どこの病院に行けばいいのか情報がなく苦労した」と振り返った。

 小学校などの避難所運営の課題も示された。泉区中央市民センター館長で、震災当時、通町小(青葉区)の教頭だった狩野一男さん(63)は「地震発生当初は教職員だけで避難所を運営し、地区の方々と役割分担するまで1週間程度かかった。体調を崩した女性への対応など、避難所運営に女性の参画は不可欠だと感じた」と振り返った。

 教訓を生かした活動の報告もあった。市名坂地区では、震災で女性らが直面した問題を同小学校区避難所運営委員会の事務局がリスト化した。「授乳ができない」「赤ちゃんの夜泣きがうるさいと言われた」など具体例を挙げ、毎年の避難訓練の際に女性コーディネーターがイメージトレーニングを重ねている。

 女性コーディネーター代表の鷲尾ミツ子さん(75)は「正解はないかもしれないが、どう解決し仲裁するか。相手によって伝え方も変わり、臨機応変に対処できるようにしたい」と話した。

 東町内会は11年11月、子育て支援活動「ずんだっこ」をスタートした。集会所を週2回開放し、防災の学習会なども開く。世話役の永澤美保子さん(45)は「震災当時は息子が8カ月。近所の方に石油ストーブでミルクのお湯を沸かしてもらい、とても助かった。人の輪を大事にしたい」と話した。

 助言者として参加したイコールネット仙台の宗片恵美子代表理事は「震災で困難を抱えた女性たちが、二度と繰り返さないと願い、行動する意義は大きい。積極的に発信してほしい」と呼び掛けた。

市名坂小学区/洪水浸水想定区域も

 むすび塾会場となった市名坂小学区は仙台市北部の泉区にあり、泉中央地区に隣接する住宅街エリア。今年5月現在で人口約1万、約4800世帯が暮らす。

 学区の東側を国道4号が南北に縦断、宮城県道35号泉塩釜線が東西に走り、車両の交通量が多いのも特徴だ。学区の南側には七北田川が東西に流れており、川沿いの一部エリアは市の防災マップで洪水浸水想定区域に指定されている。

 市名坂小は、人口増に伴って七北田小から分離した小学校の一つで2004年に開校した。児童数は5月現在で554人。市の指定避難所として3300人の収容を想定しているが、洪水浸水想定区域のため、大雨の際は2階より上に避難するよう推奨されている。

全役員が女性 市名坂東町内会/地域防災に力

 むすび塾に参加した市名坂東町内会(約170世帯)は市名坂小学校区内にある5町内会の一つで、2008年4月の発足以来、全役員を女性が務めているのが特徴だ。女性の視点を積極的にくみ取り、地域の防災力強化や子育て世代支援などに取り組んでいる。

 国道4号により地域が東西に分断されていたことから、国道東側が市名坂野蔵町内会から独立した。独立に際しては「仕事を持つ男性は災害時に地域にいない恐れもある」と判断し、役員は主婦中心とした。

 10年7月には住民がお金を出し合い集会所を建設。当時発生が懸念されていた宮城県沖地震に備え、炊き出しや避難訓練、子どもの泣き声対応、生理用品調達など、女性のニーズを踏まえた対応を検討してきた。

 集会所は、11年3月の東日本大震災では約100人の住民が避難してきた。震災8カ月後には避難住民に地元の事情に疎い転勤族の子育て世代が多かったことを教訓に、子育て支援事業「ずんだっこ」も始めた。

 避難訓練や大声出し訓練などの防災事業に定期的に取り組んでいるほか、近隣の曹洞宗宮城県宗務所とも防災協定を締結し、季節イベントも連携して行う。

 発足当初から町内会長を務める草貴子さん(58)は「私自身、宮城県女川町出身なので防災に力を注いできた。今後も男女の別なく、その人ができる役割を探し、実践していく町内会にしていきたい」と話す。

<助言者から>

■地域で顔見える関係に/曹洞宗宮城県宗務所代表役員 小野崎秀通さん(71)

 転勤族や子育て世代の多い市名坂地区で女性がまとまり、防災対策を進めてきていることに感心した。地域の特性を把握し、住民同士が日ごろから連携する必要があると感じた。

 石巻市渡波地区にある私の寺は比較的高台にあり、地震発生後から多くの地域住民が避難してきた。最大で約400人の老若男女を収容した。食事や医療などの責任者を決めてミーティングをしたり、共同生活8か条を定めたりして、秩序ある避難生活を送れるよう心掛けた。

 避難者自身が主体的に動くためには、顔の見える関係を地域内で築いていることが重要だろう。普段から防災を意識し、女性を中心として地域のネットワークを広げていってほしい。

■市名坂方式 広く発信を/イコールネット仙台代表理事 宗片恵美子さん(69)

 市名坂地区の取り組みは地域防災に女性の声が届いた成功例といえる。避難所運営に女性コーディネーターを配置し、備蓄倉庫の内容にも意見を反映した。転勤族や子育て世代が多い地域事情に即し、生活者の視点で対応していることが素晴らしい。

 防災に女性の視点は不可欠だ。市名坂東町内会は役員が全員女性で、東日本大震災発生時は母子ら約100人が集会所に身を寄せ、女性リーダーが活躍した。

 その後も防災と育児支援の活動を進め、地域に安心感を与えている。女性による柔軟で的を射た取り組みは、男性も巻き込んで地域活性化の原動力にもなる。市名坂方式は他地域でも役立つ。女性の力を生かした実践を広く発信してほしい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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