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<311むすび塾>地域の備え 歩いて学ぶ/第82回ワークショップ/@富谷・東向陽台小

震災避難所訪れマップ作り

町内を巡って学んだことをまとめ、防災マップづくりに挑戦する児童ら=2018年9月27日、東向陽台小
東向陽台サニーハイツ町内会館で防災倉庫を見学する児童ら=2018年9月27日、東向陽台小

 河北新報社は2018年9月27日、82回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を宮城県富谷市の東向陽台小(及川芳彦校長、児童574人)で開いた。4年生29人が東日本大震災で避難所となった町内会施設を訪れ、住民の震災体験に耳を傾けた。学校に戻ると、見聞きした要点や安全上の注意点を大型の防災マップに書き込み、改めて防災意識を高めた。

 日本損害保険協会(東京)の安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を活用して実施した。

 内陸部の富谷市は津波の危険性はないが活断層「長町-利府線断層帯」を震源とする断層型地震への警戒は必要とされる。富谷市防災安全課はこうした地域特性も踏まえ探検隊出発に先立ち、教室で防災講話をし、備えの大切さを強調した。講話後、児童はA~Dの4班に分かれ、学区内の3町内会に向かった。

 A班の7人は東向陽台1丁目の第一町内会を訪れた。町内会長の鈴木忠雄さん(80)は町内会館を案内しながら「震災時にはここに最大で約160人以上の住民が避難してきた」と説明。物置に備蓄してある水や食料なども紹介しながら「第一町内会では災害時に玄関先に掲げて安否を知らせる黄色い小袋や、居場所を知らせるための笛などを配布して備えている」と話した。

 B班の7人とC班の8人は約180世帯が入居する大型マンション「向陽台サニーハイツ」を訪れた。同ハイツは入居者で町内会を構成しており、町内会長で同ハイツ管理組合法人理事長の須藤弘さん(74)、同法人副理事で民生児童委員の中村美代子さん(71)の2人が説明役を務めた。

 須藤さんは当時、避難所となった町内会館で撮影した写真を見せ、会館併設の防災倉庫も案内。「避難生活では子どもたちも助け合いの戦力だった。物資の運搬やラジオ体操、あいさつ運動など、みなさんも災害時には活躍してほしい」と強調。「生きているのが一番だ。地震が起きたらまずは安全な高台に逃げてほしい」と訴えた。

 中村さんも「子どもたちは、自分より小さな子に折り紙を教えるなどして面倒を見ていた」と振り返り、「災害はいつ起こるか分からないからこそ心構えが大切。小学生でもできることがある。自分に何ができるのか考えてほしい」と話した。

 D班の7人は東向陽台3丁目町内会長の山田悟さん(75)と地区内を歩いて危険箇所を点検した。東向陽台地区は丘陵地帯を開発した住宅地のため、高低差がある区域があり、一部には急斜面を覆う高さ約10メートルのブロック擁壁もある。山田さんは「大きな地震が来たら壁のブロックが崩れるかもしれない。近づかないように」と注意を促した。

 点検後、3丁目にある東向陽台第二会館に着くと、山田さんは震災時に住民約100人が避難した状況を紹介。防災の心構えとして「怠りなく備えることが重要。断層で地震が起きれば大きな被害が出る。備蓄の重要性など家族にも伝えてほしい」と力を込めた。

 学校に戻った児童は班ごとにマップ作りに挑戦した。カラーペンや付せんなどを使い「地震が起きたらがけや高い建物に近寄らない」「震災時、避難所でみんなが助け合った」「防災倉庫には水やライト、食料などがあった」などとまとめた。

 アドバイザーを務めた東北大災害科学国際研究所の保田真理講師(防災教育)は「実際に町を歩き、地域の人から体験を聞くことができた。学んだことを忘れずに次の災害で生かすことができるよう行動していくことが大切だ」と語った。

日本損害保険協会の「ぼうさい探検隊」

 「ぼうさい探検隊」は、損害保険会社の事業者団体「日本損害保険協会」(東京)が2004年に始めた安全教育プログラム。子どもたちが地域にある防災や防犯などに関する施設や設備などを見て回り、身の回りの安全・安心を考えながらマップにまとめる。

 年1回、マップの全国コンクールを実施して優秀作品を表彰する。探検隊の活動マニュアルも用意し、マップ作製に必要な文具キットを無償で提供している。

 河北新報社は協会の協力を得て、むすび塾に探検隊のノウハウを取り入れて開いている。連絡先は同協会「ぼうさい探検隊マップコンクール」事務局03(6822)9355。

急傾斜地 警戒区域に

 富谷市東向陽台地区は市南にあり、隣接する仙台市泉区向陽台地区と一体造成された住宅地。1970年代に宅地分譲が始まり東向陽台1~3丁目には8月末現在で計約3200人が住む。

 地区の東側を通る県道仙台三本木線沿いに急傾斜地があり、宮城県が今年3月、土砂災害警戒区域などに指定した。

 内陸直下型地震への警戒も必要とされ、仙台市から利府町にかけて延びる活断層「長町-利府線断層帯」(長さ約40キロ)を震源とする地震が起きた場合、市内で最大の震度6強の揺れが想定される。

 東日本大震災で当時の富谷町では震度6弱を観測。町の記録によると、町内での死者はいなかったが、町外で5人が死亡した。

 震災当日から各地区の公民館や小中学校などに延べ1万3211人が避難し、東向陽台第一会館に515人(11年3月11~15日)、第二会館に156人(12~13日)、サニーハイツ町内会館には2690人(11~22日)が身を寄せた。

<助言者から>

■子どもも周囲の力に/東北大災害科学国際研究所講師 保田真理さん(62)

 東日本大震災発生時の富谷市東向陽台地区の状況と、住民がどう避難し行動したかを小学生が地域の人に教わった。実際に町を歩き、体験と教訓を直接聞くことで児童が多くのことに気付き、自分に何ができるか考えたことは意義深い。

 子どもたちは住民が町内会館に身を寄せて助け合ったことを聞き、災害時は自分も地域の人に守られると身をもって感じた。防災の視点で地域を見直すことで、地震で崩落の可能性のある急斜面に注意する、食料や水を備蓄する必要がある、避難所で物資を配るなど子どもも周囲の力になれることを学んだ。

 同地区は内陸部で津波の心配はないが、長町-利府断層で地震が起きれば多大な被害が予想される。大事なのは次に災害が起きた時、子どもたちが自分の安全を守れるようになること。そのために学んだことを実行することだ。あいさつ運動や非常食の備蓄など、できることから臆せず行動してほしい。家族にも話して学びを共有し、備えを進めてもらいたい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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