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<311むすび塾>客も従業員も安全確保/第81回ワークショップ@石巻・中央(上)

飲食店の避難誘導

飲食客の避難誘導を巡って活発な議論が交わされた語り合い=2018年8月22日夜、宮城県石巻市の日本料理店「滝川」
津波で浸水した石巻市のJR石巻駅前=2011年3月14日午前10時ごろ(読者提供)
立町地区は被災から約1カ月後もがれきで埋め尽くされたままだった=2011年4月

 河北新報社は2018年8月22日、通算81回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」を石巻市中央の日本料理店「滝川」で開いた。市内の飲食店でつくる「石巻芽生(めばえ)会」などとともに同店を会場に飲食客を想定した夜の避難訓練を実施。続く語り合いでは市内の料理店経営者ら8人が参加し、訓練を踏まえて従業員の対応などを検証。東日本大震災の教訓や危機意識を共有し合う必要性などを話し合った。

 訓練は飲食店や街づくり団体、石巻市、石巻小の関係者や外国人留学生らが客役を担い、運営スタッフも合わせ50人が参加した。客を誘導する立場で訓練に臨んだ滝川従業員の柴田静恵さん(60)は「考えるのと行動するのは違う。言葉に詰まり目が行き届いていたか、もどかしさがあった」と感想を述べ、「安全に誘導する責任と難しさが身に染みた」と振り返った。

 滝川社長で芽生会会長の阿部司さん(45)は「災害時には互いが助かる方法を探ることが重要。訓練前に従業員全体でアイデアを出し合い、危機に対する意識のレベルを高められたのは収穫だった」と強調した。

 2014年に初めて夜の避難訓練を実施した日本料理店「八幡家」おかみの阿部紀代子さん(56)は「客にも協力を求める明確な姿勢が良かった」と指摘し、「参考になった部分を従業員に伝えたい」と話した。

 訓練後の語り合いでは、来店客だけでなく、従業員の安全確保や家族の安否を案じた場合のケアなどについても問題提起があった。

 石巻料理業組合組合長で、市内で食堂大もりやを営む大森信治郎さん(64)は「震災があった日に崩れた壁など店舗の始末をスタッフとしたが、あの時、何かあったら取り返しがつかなかった」と振り返り、「スタッフも家族などの心配事を抱えている。どこまで客を誘導すべきかは難しい」と課題を挙げた。

 出席者からは「震災では避難途中で親や子どもの元に向かい、犠牲になった人が多い」「『津波てんでんこ』を日頃から家庭で話し合っておくべきだ」「戻りたいという人をつなぎ留めるキーワードが必要」などとの声が相次いだ。

 大森さんは「薄れつつある震災当時の記憶を思い出して整理し、想定して準備することが大切だ。危機感をどれだけ持てるかにかかっている」と呼び掛けた。

 仙台市内の料理店でつくる「仙台芽生会」会長で、ウナギ料理店「大観楼」社長の遠藤慎一さん(51)は「成果を『石巻ルール』として発信してほしい。仙台でも商店街の訓練はあるが、お客さんを想定した訓練はやっていない。今後は取り組んでみたい」との考えを示した。

 公益社団法人みらいサポート石巻の専務理事中川政治さん(42)は「復興祈念公園などが完成すれば今後、石巻にはさらにたくさんの人が震災を学びに訪れる。店レベルで防災の取り組みが広がる街として、これからの道筋が見えた感じがした」と受け止めた。

 訓練と語り合いには、神奈川県内の飲食店経営者11人らでつくる復興支援チーム「かながわイレブン」もオブザーバーとして参加。メンバーの水口憲治さん(50)は「実際に参加して学ぶべき点が多いことが分かった。スタッフと共有を図る」と振り返った。同じく島田直樹さん(40)は「災害への意識がまだまだ甘かったことを痛感した。いろいろな想定をシミュレーションしたい」と危機感を強めていた。

 助言者を務めた東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は「滝川側には伏せて、客役の参加者におのおの役割を与えて訓練を実施するなど、効果を高める工夫が随所にあった」と評価。「訓練をやりたいという店をサポートすることは社会的に大きな意味を持っている」と期待を寄せた。

2mの津波 市街地襲う/商店など大半被災

 旧北上川の右岸に広がる石巻市中心部の市街地は震災当時、高さ2メートルを超える津波に襲われた。「滝川」など商店や飲食店が集中する中央、立町両地区は大半の店舗が被災。逃げ遅れて犠牲になった住民もいた。

 津波は旧北上川を逆流し、中心部の観光スポット「石ノ森萬画館」がある中瀬をのみ込んだ。中瀬の対岸にある両地区は瞬く間に浸水。濁流とともに係留中の船舶や被災した住宅のがれき、ヘドロが押し寄せた。

 「黒い水が土手を乗り越え、足元に来たと思ったらすぐに胸の高さになった」「店の品物を2階に上げていたらガラス戸が突き破られ、水が天井近くまで上がった」。両地区で被災した住民の当時の証言は、想定外の事態への恐怖に満ちている。

 中瀬と中心部をつなぐ内海橋は午後2時46分の地震発生後、避難などで移動する車で渋滞した。津波は約1時間後に到達し、車もろとも橋を乗り越えた。橋は持ちこたえたが、大量のがれきに覆われた状況から一時「崩壊」との情報が流れた。

 震災前、中心商店街は約200店舗が軒を連ね、立町地区の飲食店は約300店舗を数えた。一帯を覆ったがれきと店舗に流れ込んだヘドロの処理は難航を極めた。損壊した船舶や大破した自動車から流れ出た油で粉じん被害も発生した。

 震災による石巻市の死者・行方不明者は計3976人(7月現在、関連死を含む)。全半壊した建物は約3万3100棟に上った。

<助言者から>

■時短で避難 成果実感/東北大災害科学国際研究所准教授 佐藤翔輔さん(36)

 石巻市の八幡家で2014年に行った初回の夜間訓練に比べて、2回目の今回は地震発生から避難完了までの時間が25分から18分に短縮され、店が備えを徹底した成果を感じた。

 訓練が始まると、従業員は「当店は閉店します。これからは皆さんの協力が大切です」と呼び掛けた。避難に不満を訴える客役を「スタッフの命も大切なので協力を」と説得したのと併せて評価できる。

 採点は95点。揺れの最中、従業員が客役をテーブルの下に潜るように誘導したのは良かったが、自分はテーブルの下に入らず身を守る行動を取っていなかったので減点した。

 今後、被災地での訓練への参加を全国に募るだけでも社会的意義がある。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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