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<311むすび塾>訓練の繰り返し重要/第81回ワークショップ@石巻・中央(下)

客に役割設定 従業員の対応確認

<迅速>従業員の誘導に従って店外へ避難する参加者。店の外へ出ると従業員は大きな声で「石巻中央公民館までご案内します」と告げた
<機転>緊急地震速報が鳴り響くと訓練参加者はテーブルに潜った。車いす利用者役の頭部には従業員が座布団を乗せる機転を利かせた
<協力>段差に気を付けながら車いす利用者役の参加者を誘導する従業員ら。要支援者の避難には従業員だけでなく周囲の協力も不可欠だ
<介助>石巻中央公民館までの移動中、負傷者を演じる訓練参加者に付き添って避難を急ぐ従業員。訓練では随所に丁寧な対応が見られた

 河北新報社が2018年8月22日に石巻市中央の日本料理店「滝川」で開いた通算81回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」で「石巻芽生会」などが実施した夜の避難訓練は、飲食店で客がいる状態での地震発生を想定して行った。同会による夜の避難訓練は2014年2月に続いて2回目で、従業員による客の避難誘導の在り方や客や従業員自身の命を守る行動などについて検証した。

 訓練会場となった日本料理店「滝川」は、2011年3月の東日本大震災で約4メートルの津波に襲われ全壊。約2年後に同じ場所での完全営業再開を果たした。再開後の店舗は被災前と同様の2階建てで、訓練では2階大広間と1階の2部屋にそれぞれ10人前後の客が入っている状態で実施した。

 訓練では午後7時10分ごろ、東日本大震災と同じマグニチュード(M)9クラスの地震が発生し、大津波警報も発令されたと想定。携帯端末を各部屋に配置し地震速報などを再現した。「滝川」の全従業員14人は揺れが収まるのを待って、3カ所合わせ23人いる客の誘導を開始した。

 より実践的な避難訓練になるように、客役にはあらかじめ「車を立体駐車場に移動したい」「酔っ払って騒ぐ」「会計はどうしたらいいか尋ねる」などの役割が店側に伏せる形で与えられ、それぞれ迫真の演技で従業員に対応を迫った。

 2階大広間では、宴会の設定で10人が大テーブルを囲んだ。ビールなど飲み物を片手にだんらんする中、突如、地震速報が鳴り、停電状態に。参加者は一斉にテーブル下に潜り込んだ。

 津波警報が発令されると、参加者は役割に従って「早く逃げっぺ」とわめき立てるなどしたが、従業員は「当店はこのまま閉店致します。避難はお客さまのご協力が大事です」と呼び掛けて、誘導を開始した。

 1階個室は客7人の設定で女性1人が車いす利用者役を務めた。地震速報が鳴り、店内が暗くなると、すぐに従業員がクッションを持ってきて机の下に入れなかった車椅子役の女性の頭に乗せた。従業員は車椅子役の女性に「大丈夫ですよ」と何度も声を掛けた。

 避難の際、客役の1人が「車の鍵をなくした」と訴えると、従業員は「車では逃げられません。そのまま待機願います」と応じた。

 1階奥の間の個室では、外国人2人を含む6人が客役になった。地震速報がやむと、客役の1人は「熱い! やけどした」と、負傷を熱演。従業員は駆け寄って、おしぼりを手渡した後、厨房に戻って袋に入った氷を持ってきた。従業員は「やけどの人が出ましたー!」と大きな声を上げ、店内で情報共有を図った。

 店の出入り口から店の外に客役が逃げ始めると、従業員は、店から約500メートル離れた石巻中央公民館を避難先に選択。「これから公民館まで誘導します」と大きな声で冷静に対応した。滝川社長の阿部司さん(45)は全員が退避を完了したことを確認した上で店を施錠し、公民館へ向かった。

 地震発生から公民館までの避難完了は18分。石巻芽生会が2014年2月に日本料理店「八幡家」で行った同様の訓練より7分早かった。石巻市中心市街地の復興を考える官民組織「コンパクトシティいしのまき・街なか創生協議会」幹事長の尾形和昭さん(58)は「今回の訓練で滝川側は公民館まで客を誘導したが、どこに、どこまで案内するかは議論の余地がある。訓練と振り返りを繰り返すことが大事だ」と指摘した。

アンケート/店側の指示9割「的確」/「従う」は5割どまり

 石巻芽生会などは、夜の避難訓練実施に合わせ、訓練に参加した地域住民ら30人を対象にアンケートを実施した。訓練会場の日本料理店「滝川」従業員による指示が「分かりやすかった」「どちらかといえば分かりやすかった」と回答した住民は9割だった。一方、実際の災害時に「店員の指示により行動する」と答えたのは半数にとどまり、あらためて利用客の誘導の難しさが浮き彫りとなった。

 主な質問への回答結果はグラフの通り。従業員の指示が「分かりやすかった」と答えたのは22人、「どちらといえば分かりやすかった」の6人を含めると、93%が従業員による避難指示の的確さを評価した。

 実際の避難時の行動については、「店の指示により行動する」は15人にとどまり、「自宅へ向かう」「自分・家族で決めた避難場所へ行く」「勤務先に行く」といった回答が続いた。

 自由記述欄では、訓練が停電を想定した暗闇の中で行われたことなどから「階段や段差」を危ぶむ声が多く「落下物」や「ガラス戸」を心配する声もあった。

 従業員の対応では、大きな声で丁寧に避難誘導したことを良い点に挙げた回答が多かった一方で、「丁寧な対応はいいが時間がかかり不安だ」「従業員で地震や津波の情報共有を図るべきだ」などの改善を求める声もあった。

 アンケートは訓練参加者と運営スタッフ合わせ30人に実施。全員が回答した。

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