閉じる

<311むすび塾>顔見えるつながり必要/第80回巡回ワークショップ@仙台・蒲生

企業集積地の防災連携

センター屋上の避難施設へ上る模擬訓練に臨む参加者=2018年7月31日、仙台市宮城野区蒲生のサイコー仙台港資源化センター
被災した中小企業の防災対策について語り合う参加者=2018年7月31日、仙台市宮城野区蒲生のサイコー仙台港資源化センター

 河北新報社は2018年7月31日、通算80回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」を仙台市宮城野区蒲生の総合リサイクル業「サイコー」仙台港資源化センターで開いた。東日本大震災で被災した同社と近隣2業者から計7人が参加した。中小企業の防災対策をテーマに、事業継続計画(BCP)や事業所間の連携強化について語り合った。

 参加者は資源化センターの屋上に震災後に設けられた避難施設を見学した。高さ約11メートル、広さ約25平方メートルで、救命胴衣や飲料水などを備蓄している。2011年3月の震災で同センターは4メートル以上の津波に襲われ、車両7台が被災した。機械を補修し、同年8月、全面復旧にこぎ着けた。

 会議室に移って行われた語り合いでは、当時、同センター統括課長で現在はサイコーグループ会社参与の柴崎宏樹さん(47)が震災の状況を説明。「地震直後、従業員十数人をトラックに乗せ、内陸部に避難した。海に近いので、日ごろから津波が来たら大変だと思っていた」と振り返った。

 蒲生地区は沿岸部に位置し、仙台港に接する北部は工業地帯と住宅地が併存していた。同地区に自宅があり、地震直後に帰宅して、あわや難を逃れたサイコーのパート従業員小野信子さん(49)は「備えは十分ではなかった。今は非常用品をリュックにまとめている」と教訓を語った。

 河北新報社はむすび塾に先立ち、地区の事業所11社に防災アンケートを実施(回答9社)。定期的な避難訓練やBCP策定はいずれも低調なことが分かった。

 運送業「共同輸送」役員高橋弥生さん(47)は「事業所の従業員とドライバーは働く時間帯が異なり、一斉の避難訓練は難しいが、必要性は感じる」と今後の検討を考えた。震災後、町内会が解散し、情報を得る場がなくなった点を挙げ、「ほかの事業所の対応を聞きたかった」と明かした。

 サイコーは避難訓練を定期的に行い、BCPも策定した。社員の遠藤僚さん(27)は「会社が防災に取り組んでおり、安心感がある。震災時に、もし指示がなければ、自分は新車を取りに行って逃げ遅れていただろう」と述べた。サイコーグループ社員の小山内勝也さん(48)は「自分の中で風化が進んでいる。震災後に会社に入った社員にも経験を伝いたい」と語った。

 参加者は中小企業単独での防災対策には限界があると認識。情報や避難場所の共有を探るため、事業所同士の連携を強化できないかどうかで議論が進んだ。

 運送業「仙台中央運送」社長の樋口義弘さん(60)は震災数年後、地元の事業所の社長7人と3カ月に1度程度、会合を開く。「実際はほとんど飲み会だが、顔見知りになれば、災害時に互いに助けを求めやすい」とメリットを強調する。

 経営者だけでなく、防災担当者同士のつながりがあれば、より効果的になるとの助言もあった。

 サイコー社長の斎藤孝志さん(43)は震災後、全国の同業他社と防災ネットワークを築いた。一方、近隣事業所との連携不足も実感した。「近くて遠い関係だったが、自社だけで何かをできる世の中ではない。この機会を生かし、顔の見える関係づくりから始めたい」と決意を述べた。

避難訓練 2社のみ/11社アンケート 

 河北新報社は、仙台市宮城野区蒲生でのむすび塾開催に合わせ、同地区で被災した企業11社に防災に関するアンケートを行った。全社が備蓄や避難設備などの防災対策を拡充していた一方、半数以上が「避難訓練はしていない」と回答。次の備えとして「近隣企業間での連携」を望む声が多数を占め、地域での横のつながり強化が課題であることが浮き彫りとなった。

 アンケートは、むすび塾会場となった「サイコー」と同社近隣の10社に協力を依頼。同社を含め、製造業2、卸売業1、運送業4、廃棄物処理業1、自動車修理業1の計9社が回答した。全社とも津波に襲われ、社屋浸水、車両流失の被害があり、一部では従業員が犠牲になったケースもあった。

 震災後、「避難訓練を定期的に実施」と回答したのは2社のみ。未実施の7社は「忙しく時間が取れない」「従業員が集まりにくい」といった理由を挙げた。

 防災対策では「水や食料などの備蓄」が多数を占めた。社屋に階段、はしごを取り付け避難用に施設を拡充した企業も6社あった。

 事業継続計画(BCP)が策定済みは3社。未策定でも「BCPは必要」と答えた社も4社あった。従業員の安否確認や安全確保、避難経路の確保などに不安を訴える声も多かった。

 近隣企業連携については、7社が「防災の枠組みがあった方がいい」と回答。「平時から連携することで、避難で協力も可能になる」「情報共有して態勢を強化したい」と期待を寄せた。ただ、枠組み実現に向けては「きっかけがない」「誰が指揮を執るか腰が重い」との意見が出された。

仙台港の南 津波4m超

 むすび塾会場となった「サイコー」仙台港資源化センターがある仙台市宮城野区蒲生地区は仙台港の南隣接地。東日本大震災前の国勢調査(2010年)によると、震災前は約3500人、1100世帯が暮らしていた。

 地区内を東西に七北田川が流れ、北部と南部に分かれる。七北田川の河口部には多種多様な動植物の生息が確認されている「蒲生干潟」があるほか、日本一低い山として知られる「日和山」(標高3メートル)もある。

 サイコーの同センターは工業地域と住宅地が併存していた北部側にあった。海岸から約1.5キロ離れているが、2011年3月の震災では4メートル以上の津波が襲来、事務所内に多量のがれきが押し寄せ、車両も7台が被災した。同社は8月までに機器を修理し、全面復旧。センターの屋上に避難施設を設置し、水や食料、救命胴衣を備蓄している。

<助言者から>

■情報交換し知恵共有を/東北大災害科学国際研究所教授 丸谷浩明さん(59)

 事業所が連携して地域防災を進めていくには、まず企業の防災担当者らが定期的に集まりを持つことが必要です。話し合いを通じて悩みを共有し、情報交換する活動を継続することが次につながります。協力体制ができれば、災害時も日常の延長で助け合えます。

 東日本大震災で蒲生地区と同様に交通渋滞が起きた岩沼市の工業団地は震災後、地域で話し合い、避難時の渋滞防止に向け内陸の事業所が車利用を控えるなどの対応を決めました。ぜひ、蒲生地区でも被災経験を持つ事業所が協力し、知恵を共有していってほしい。私たち研究者もお手伝いします。

 事業継続計画(BCP)づくりでは完璧な文書を目指すよりも、継続できる防災の枠組みを実践を重ねてつくることが大切です。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

関連タグ

最新写真特集

いのちと地域を守る
わがこと 防災・減災 Wagakoto disaster prevention and reduction

指さし会話シート
ダウンロード

 第97回むすび塾での聴覚障害者や支援者の意見を基にリニューアルしました。自由にダウンロードしてお使いください。

指さし会話シート
みやぎ防災・減災円卓会議