閉じる

<311むすび塾>情報共有、つながり強化/第79回ワークショップ@岩沼・里の杜3丁目

自主防災組織 在り方探る

災害への備えとして地域コミュニティーのつながりの大切さを確認した語り合い=2018年6月24日、宮城県岩沼市里の杜の里の杜地区集会所
語り合い前に町内を回って浸水被害の発生箇所や水位を確認する参加者
2014年10月13、14日の台風19号接近に伴う大雨で冠水した地区内道路=14年10月14日、岩沼市里の杜(岩沼市提供)

 河北新報社は2018年6月24日、通算79回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」を岩沼市里の杜3丁目地区で開いた。地区住民ら10人が参加。地域でできる防災の取り組みをテーマに、東日本大震災の教訓や自主防災組織の在り方について意見を交わしながら、日ごろの備えの大切さを確認した。

 岩沼市東部にある里の杜3丁目地区は標高が低い平野部のため、豪雨の浸水被害に見舞われてきており、自主防災組織づくりに向けた議論が始まっている。

 参加者は大雨の際の危険な場所を確認するため、地区内を全員で巡視した。

 昨年10月の台風21号の影響で30~40センチほどの高さまで冠水した場所を歩いた後、同地区町内会長の明石良一さん(70)は「浸水被害は地域の重大な問題。防災マップを作り、危険な場所を周知したい」と強調した。

 地区内巡視の後、参加者は地区内の集会所で語り合いに臨んだ。

 町内会副会長の雨貝信治さん(60)は「津波被害はなかったとはいえ、近くを流れる阿武隈川による浸水を不安視する声がある」と述べた。地区内の大雨被害の写真を目にした住民の飲食業宍戸孝次さん(58)は「危険な場所を知らない人もいる」と語り、防災マップの必要性を強調した。

 東日本大震災の被災体験を振り返る場面もあり、災害時の備えについて、地域の情報共有の大切さを訴える意見が目立った。

 住民の会社員日下力(つよし)さん(45)は「震災の日に職場から帰宅したら、家族がどこに避難しているか分からず心配だった」と語り、「地区単位で安否情報や避難情報を共有できる仕組みがあればいい」と提案した。雨貝さんは「高齢者だけの世帯に情報をどう伝えるか、事前に決めておくだけでも安全面が全然違うのではないか」と述べた。

 自主防災活動の先例を紹介する助言者として参加した同市のたけくま町内会会長の深沢十九一(とくいち)さん(74)は「災害時も連絡をしっかり取り合うため、28台の無線機を用意している」と日ごろの備えを紹介。里の杜住民から驚きの声が上がった。

 同地区の自主防災組織づくりの議論に関しては、土台となる住民間のコミュニケーションの活性化を求める意見が相次いだ。里の杜3丁目子ども会委員長今野幸絵さん(44)は「やはりコミュニティーのつながりが大事。子供会活動で避難所の場所を教えるなど、小さなことから取り組みたい」と話した。

 「女性同士の近所づきあいはあるのに、男性はなかなか集まろうとしない」といった指摘も複数の参加者から寄せられた。町内会長の明石さんは「日々のコミュニケーションが避難時の支え合いにもつながるはずだ。もっと集まりが活発になってほしい」と語った。

 助言者として参加した東北大災害科学国際研究所のマリ・リズ助教(40)は自主防災組織について「最初から大がかりでまじめな取り組みではなく、小さくても楽しいイベント、お祭りなどから始めるのが大事では。楽しく、少しずつ進めてほしい」と呼び掛けた。

阿武隈川の洪水懸念

 岩沼市里の杜地区は、岩沼市が1997年4月から分譲を開始した「東部公共ゾーン」に位置する。同ゾーンには市民会館、市総合体育館、地域災害拠点病院の総合南東北病院がある。

 むすび塾を開いた「里の杜3丁目町内会」は約250世帯約750人が暮らす。東日本大震災では仙台東部道路で津波の威力が減衰され、大規模な被災を免れた。一方、大雨による浸水被害に度々見舞われており、近隣を流れる阿武隈川の洪水を警戒する声もある。

 町内会では、分譲当初からの住民の高齢化が進んでいることから、地域の将来を見据え、自主防災組織づくりや阿武隈川の洪水もにらんだ防災マップづくりなどの機運が高まっている。

組織設置済み 町内会の7割/岩沼

 里の杜3丁目町内会が設置準備を進める「自主防災組織」は、地域防災の共助を支える組織として大規模災害発生時に担う救助や消火といった役割に期待が寄せられている。岩沼市では2017年6月現在、市内76町内会中の74%で既に設置されており、市は一層の設置数向上に努めている。

 自主防災組織は災害対策基本法に基づき、公的な防災関係機関の各種活動が届きにくくなる大規模災害発生の初動段階で、コミニュティーで住民がお互いに助け合うことを目的とする。

 平常時活動として、地域行事での防災知識の普及啓発活動展開や、消火、避難など訓練の実施に加えて、「防災マップ」作製により危険物集積地域、延焼拡大危険地域、土砂災害危険区域、ブロック塀の安全度の実態把握、防災資機材の備蓄や点検などに取り組む。

 災害が起こったときは、初期消火活動を始め、住民の安否確認や避難誘導、負傷者の救出や救護、被災情報の収集や伝達、給食や給水活動などの役割も担う。

 宮城県内では、総世帯数に占める加入世帯数を示す組織率は多賀城、東松島両市などが100%を達成している一方、他の被災沿岸自治体では、住民の高齢化や高台移転、コミュニティーの弱体化などで震災前水準を割り込む状態が続く。

 県のまとめによると、県内35市町村の組織率は82.7%(17年4月現在)。県危機対策課の担当者は「自主防災組織は地域防災のかなめ。自主防災組織の活動主体となる防災リーダーの育成など、今後も市町村が行う組織率向上や自主防災組織の強化に向けた取り組みを支援したい」と話す。

<助言者から>

行政任せの発想脱却を/たけくま町内会会長 深沢十九一(とくいち)さん(74)

 たけくま町内会は、01年の町内会設立と同時期に自主防災組織が発足しました。当初は全世帯が新住民でしたが、震災時は組織があったおかげで「何かあったら集まろう」という態勢ができていました。

 震災3日後に、リヤカーにゆで卵2000個を積み、全世帯に配りました。住民に喜ばれ、安否確認の見回りと顔を合わせることの大事さを実感しました。震災後は無線機28台を確保し、備えを拡充しました。

 防災は行政任せの考えを変えないと進みません。班会で意見を出し合って総会に持ち寄る、避難訓練のテーマを設ける-などが有効でした。花見など機会をつくって顔見知りになることも大切です。できることから始めてもらいたい。

■顔合わせの場 増やそう/東北大災害科学国際研究所助教 マリ・リズさん(40)

 里の杜で自主防災組織づくりの動きがあることは意義深い。日本は町内会があることで住民が共に活動できる上、防災意識が高い。住民が顔見知りで協力して行動できることが、災害直後の対応から後の復興まで役立ちます。自信を持って進めてほしいと思います。

 手始めに洪水時の地図を住民で作製してはどうか。地図に危険箇所を皆で書き入れ、集まりを2、3回重ねればまとめられる。写真を加えてチラシにすれば地域で配って活用できます。

 震災から7年、新住民を交えて情報を共有し、避難方法を普段から確認して流れを決めておくのもいいでしょう。イベントなど顔を合わせる機会を設け、楽しみを取り入れながら小さなことを積み上げてほしい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

関連タグ

最新写真特集

いのちと地域を守る
わがこと 防災・減災 Wagakoto disaster prevention and reduction

指さし会話シート
ダウンロード

 第97回むすび塾での聴覚障害者や支援者の意見を基にリニューアルしました。自由にダウンロードしてお使いください。

指さし会話シート
みやぎ防災・減災円卓会議