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<311むすび塾>都市型津波 備えを確認/第78回静岡新聞社と共催/@静岡・駿河区(上)

南海トラフ想定し訓練

避難訓練で、広野海岸公園から静岡広野病院へ急ぐ参加親子=2018年6月3日、静岡市駿河区
防災アプリを使い、避難先を調べる参加者
防災アプリの画面

 河北新報社は2018年6月2、3の両日、静岡新聞社(静岡市)と共催し、通算78回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を静岡市駿河区広野地区で開いた。南海トラフ巨大地震への懸念が高まる中、住民は避難先までの経路や時間を確かめる訓練に臨み、続く語り合いでは、東日本大震災の津波経験者らと都市型津波への備えの大切さを共有した。

 訓練は3日午前8時半、マグニチュード(M)9級の地震が起き大津波警報が発令されたと設定。地元の親子3組、語り部3人、専門家ら約40人が参加した。

 静岡県が2013年にまとめた想定では、駿河区は50センチ以上の津波が最短約3分で襲来。最大12メートルの津波が約16分で到達するとされ、いかに早く安全な高台に避難できるかが焦点。

 訓練は2パターン行い、避難完了までの時間も計測し、課題を洗い出した。

 まず用宗(もちむね)漁港で携帯端末向けの防災アプリを使った訓練を実施。アプリには災害発生時に備え、現在地から避難先までの距離や時間を示す模擬避難訓練機能が備わっており、親子1組ら計4人が挑んだ。4人はアプリを起動し、漁港から約350メートル離れた市長田南小を避難先に選択。画面には津波到達時間や同小までの所要時間が示され、駆け足で移動した。

 地区内は路地が入り組み、地元住民ですら避難完了まで約4分30秒~5分20秒とばらつきが生じた。広野町内会長の杉山貴勇(たかお)さん(64)は「アプリは避難場所への所要時間が分かって便利だ」と評価した一方、「街灯がない道もあり、夜間の検証も必要だと感じた」との課題も指摘した。

 続く広野海岸公園では親子2組計6人が津波避難マップを用いた訓練を行った。6人はマップや公園内に設置された案内板で約400メートル離れた指定避難先の静岡広野病院の位置を確認し、急いで病院へ向かった。

 公園の裏側は防災林が茂り、足場が悪い場所は、母親が子どもを抱きかかえた。狭い路地に避難経路を示す案内板がなく、分岐で迷う場面もあった。車両が行き交い、足止めした事態も重なり、到着まで約9分30秒を要した。会社員の永島朋佳さん(33)は小学2年の長女杏奈さん(7)と参加。「畑を通る道は狭くて危険と思い、回避したが遠回りだった。避難経路を見直したい」と振り返った。

 助言者らからは避難先を示す案内板を巡って「表示が分かりづらい」「逃げる方向の明示がない」「設置されていない場所がある」といった意見が出され、「まず住民が地域を把握することが大切だ」として、案内板の改善を確認した。

最大12mの津波 16分で襲来/被害予測/全壊2万4000世帯も

 人口約70万の静岡市のうち、駿河湾に面する駿河区は約21万人が居住する。静岡県の想定によると、南海トラフ巨大地震で最大12メートルの津波が約16分程度で襲来。50センチ以上の津波が最短3分で到達するとされる。

 市が2013年にまとめた被害想定では、同区の犠牲者は約2200人に達し、区内約9万3000世帯中、最大で2万4000世帯が全壊する恐れがある。

 「むすび塾」が開催された広野地区は2100世帯、約5200人が暮らす沿岸地域。町内の半分以上が津波浸水区域のため、町内会は毎年、語り合いの会場となった「静岡広野病院」との合同津波避難訓練を実施している。地区内にはシラスの水揚げで有名な「用宗(もちむね)漁港」、難破船を模した大型遊具などで人気の「広野海岸公園」などがあり、休日は行楽客でにぎわう。特産として桃も有名で地区南部では桃畑が広がる。

防災情報 瞬時に/アプリ開発進む

 模擬避難訓練では、静岡新聞社・静岡放送の防災プロジェクト組織「TeamBuddy(チームバディー)」が開発したスマートフォン、タブレット端末向け防災アプリの訓練シミュレーター機能を使用した。

 このアプリは、自治体などが提供している防災情報を基に衛星利用測位システム(GPS)を使い、その場で想定される最大震度や津波高、近隣の避難先の位置や距離などの情報を提供する。災害に備え自宅や訪問先のリスクをあらかじめ把握しておくのが目的だ。

 防災アプリはこのほかにも大手IT企業を始め、通信事業者や自治体など多数の企業団体が開発に取り組んでおり、多様なタイプが存在する。チームバディーのようなアプリ以外にも、政府や自治体が発する災害情報や警報をいち早く通知してくれるものもある。

 こうしたアプリは危険が差し迫った住民に対し、リアルタイムで一斉に防災情報を提供できるという大きな利点がある一方、東日本大震災のような大規模災害時には停電や通信規制、アクセス集中によるサーバーダウンなどの影響を受けやすいという欠点もある。

 内閣府などと協力して、2014年度から「災害時に役立つ防災アプリ」の公募を実施している国土地理院の地理情報処理課担当者は「防災情報を簡単に届けられるというメリットは大きいが、同時にデータ改ざんを防ぐセキュリティー対策も必要だ。大手企業などとの連携を探り、取り組みを強化したい」と話す。

<助言者から>

■避難先・ルート 複数必要/静岡大防災総合センター長 岩田孝仁(たかよし)さん
 都市型津波の避難は、避難場所を固定的にとらえず、複数のルートと場所を用意した方がいい。実際に行って確認もする。複数の避難先を準備しておくことで、いざというときに判断する際の迷いが減る。

 車避難は制限を徹底する必要がある。道が狭い地域で路上に放置すると歩行者避難を妨げ、火災の原因にもなる。港周辺は外から車で来る人もいる。避難に車を使わない選択もある。

 防災は、小さな課題を見つけて実行することが大切だ。こども園が地域と連携する、子どもだけの訓練をするなど多様な案が出た。小さな実践が広がって大きな動きになる。語り部の話を自分のことに置き換えて考え、ヒントを生かして取り組みを進めてほしい。

■想像力用い計画立てて/東北大大学院工学研究科津波工学研究室研究員 牧野嶋文泰さん
 広野地区は住宅が密集していて視界が悪く、初めてだとどこに避難すればいいのか分からない。一斉に車を使えば渋滞が発生するリスクも大きい。東日本大震災でも、多くの人が車で逃げ遅れて亡くなった。

 津波の避難行動には入る情報や心理的要因が複雑に関係する。分析すると、車でなくてもよかった理由で車を選んだ人も多い。ただ近くの人に付いて行ってしまうこともありうる。

 津波避難の原則は徒歩。そのために地域の実情を知り、時に実際に歩き、「夜だったら」「柵が崩れたら」と想像力を働かせることが大事だ。自分で地図に書けない道はいざというとき使えない。最新の情報を地域で共有し、しなやかな計画を立ててほしい。

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