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<311むすび塾>言葉や体験の共有大切/第76回ワークショップ@気仙沼

外国人の災害対策/「津波」分からず混乱

屋外に出て津波避難場所の標識を確かめた参加者
震災時の困難を思い起こし、今後の対策を話し合う参加者=2018年3月18日、気仙沼市役所
語り合いの後、屋外に出て津波避難場所の標識を確かめた参加者。「今まで気付かなかった」「分かりにくい」と注文が相次いだ=2018年3月18日、気仙沼市港町2丁目

 河北新報社は2018年3月18日、通算76回目の防災巡回ワークショップ「むすび塾」を気仙沼市で開いた。外国人の災害対策がテーマで、市内に住む中国、韓国、台湾、フィリピンの4カ国・地域の出身者や支援者ら7人が参加。異郷で遭遇した東日本大震災を振り返り、津波や言葉の壁に戸惑った経験を共有、今後の備えに教訓として生かそうと誓った。

 韓国ソウル出身の熊谷優美さん(55)は経営する料理店が津波で流されたといい「津波という言葉を知らなかったし、どんな災害なのかも分からなかった」と話した。余震発生時、避難場所がどこにあるか分からず、苦労したとも語った。

 フィリピンから来て20年の伊藤チャリトさん(48)は、震災時に避難を呼び掛けた防災行政無線に言及。「来日して間もない仲間には理解できない言葉だと思った。避難できるかどうか心配だった」と振り返った。

 多文化社会に詳しい仙台観光国際協会(仙台市)の菊池哲佳(あきよし)さん(44)は、「避難」や「高台」といった日本語が外国人にはあまり一般的ではないと指摘。「『高い場所へ逃げて』と易しい日本語に置き換えてはどうか」と提案した。

 「避難場所を分かりやすく示す大型の地図や案内板が必要」との意見も相次いだ。

 防災環境の改善を求めつつ、外国人が積極的に地域に溶け込むことが大切との声も上がった。台湾出身の菅原綉花(しゅうか)さん(49)は自身の経験を基に「地域の人に顔を覚えてもらえば言葉も覚え、災害に関する知識も自然と身に付くようになる」と話した。

 東北大災害科学国際研究所の保田真理講師(62)も「外国人の声を防災に生かすため地域の避難訓練に参加してほしい」と呼び掛けた。

 震災後、気仙沼市の外国人居住者は一時減ったが、今年3月現在で約450人と震災前の水準に戻っている。中国出身の風間芳さん(49)は「来たばかりの外国人に災害への備えを教える必要がある」と提言。熊谷さんは「これから来る外国人に自分たち先輩が経験を伝えていきたい」と伝承への意欲を語った。

 「震災はまだ終わっていない。私たちも意識を高くしていきたい」と応えたのは、外国人を対象に日本語教室を運営するボランティア団体「はまろう会」の渡部千鶴子さん(71)。新たに、外国人同士をつなぐ場づくりや防災学習会に取り組む考えを示した。

震災犠牲者23人超/多言語対応 啓発に力/ユーチューブ公開も

 東日本大震災で犠牲になった外国人は、外務省外国人課の統計(2011年4月12日現在)によると23人で、国籍別では韓国・朝鮮10人、中国8人、米国2人、フィリピン、パキスタン、カナダ各1人。公式確認されていない例もあり、実際は数人多いとみられる。

 阪神・淡路大震災の外国人犠牲者数は174人に上った(兵庫県警)。住民に占める外国人の割合が神戸市中心に高い上、「東日本大震災は平日の日中に発生し、企業や学校管理下で避難誘導された例が多かったためではないか」(宮城県国際化協会)との見方がある。

 宮城県によると、県内在住の外国人数は15年12月現在で1万7708人。国別では中国が最多で3割以上を占め、韓国・朝鮮、ベトナム、フィリピン、ネパールの順に多い。

 県内の外国人数は10年に比べ10%増えており、仙台観光国際協会は震災後、10以上の言語に対応した多言語防災パンフレットや防災ビデオを制作。ビデオは動画投稿サイト「ユーチューブ」でも公開し、啓発に力を入れている。

<助言者から>

■交流の延長で勉強会を/東北大災害科学国際研究所講師 保田真理さん(62)

 外国人と言っても、地震がほとんどない国から来た人もいれば、海がなく津波とは無縁の地域の人もいる。災害や防災の知識は日本人と必ずしも同じでないと心しておきたい。

 対応例として、住民登録などの際、役所で地域防災に関する講座を必ず受けてもらうようにしてはどうか。任意参加ではない勉強の場を用意できたらいい。

 震災のような大災害がもう起こらない保証はない。新しく移り住む外国人に、震災で何が起きたのかを伝えていくことが欠かせない。防災の勉強会というと「堅い」と敬遠されがち。異文化交流や高台への避難訓練を兼ねたピクニックを企画するなどして、日常のコミュニケーションの延長で防災意識を高めたい。

■難しい用語 言い換えて/多文化社会コーディネーター 菊池哲佳さん(44)

 10年以上、宮城県内の外国人向けに防災教育や防災訓練を行ってきた。防災や災害の知識を外国人に持ってもらうためだが、私たちも変わる必要がある。外国人に難しい災害用語を易しい日本語に置き換えるなどして、言葉のバリアフリーを進めることが重要だ。

 外国人が災害に遭った時、「とにかく逃げよう」と手を引いてくれる人が地域にいるかどうかも鍵になる。同じ地域に生きる住民として外国人も含めて震災経験を語り継ぎ、新しい地域文化をつくっていきたい。

 日本に来る外国人が増える中、特に西日本で大きな地震が心配されている。気仙沼で震災に遭った外国人の経験が注目されており、全国にも伝えてほしい。(仙台観光国際協会係長)

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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