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<311むすび塾>6分で津波 避難迅速に/第75回神奈川新聞と共催@神奈川・平塚(上)

相模トラフ想定し訓練

職員に引率され、避難先の高台に向かうグループホームの高齢者ら
自宅を出発する兼子さん。背後の松林の裏にはすぐ海が迫る
グループホームを出る前、自力で歩けない高齢者はマットに乗せられて階段を下りた

 河北新報社は2018年2月4日、神奈川新聞社(横浜市)と共催し、通算75回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を神奈川県平塚市で開いた。関東大震災の震源ともなった相模トラフで起きる大地震を想定し、津波避難訓練を実施。「地震から6分で最大9.6メートルの津波が襲来する」とする神奈川県の予測を踏まえ、迅速な避難に向けた課題を東日本大震災の津波経験者らと考えた。

 避難訓練は相模湾に面した平塚市のなでしこ地区であり、撫子原(なでしこはら)自治会の住民ら約30人が参加。高齢者が暮らすグループホームなど3地点からそれぞれ最寄りの高台に逃げる手順を確認した。

 高台や高台までの避難経路は、市が昨年11月作成した「逃げ地図」で提示。今回の訓練は逃げ地図を初めて実地で確かめる機会となり、各避難先まで6分以内にたどり着けるかどうかを検証した。

 参加したのは、グループホーム「へいあんなでしこ」関係者のほか、建て替えのため海沿いに一時移転した花水台保育園近くに住む家族、自宅でネイルサロンを営む家族の計3組。

 グループホームでは、88~100歳の入居者3人がスタッフに介助され車いすなどで避難。自力で歩けない100歳の女性をマットに寝かせて2階から降ろすなどして施設を出発し、約200メートル先の高台に向かった。避難には6分43秒かかった。

 管理者の川島航(わたる)さん(29)は「建物を出るまでの時間をいかに短くできるかが課題だ」と語った。施設は相模湾から約1キロ北、花水川からは約100メートル東にある。宮城県亘理町の菊池敏夫さん(68)は「震災時は川から来る津波の方が早い所もあった」と注意を促した。

 花水台保育園近くの消防士兼子直人さん(43)と妻静佳さん(42)は0歳、9歳、12歳の娘を連れて避難。4分18秒で着いたが、道を間違えそうになったり家族で離れ離れになったりした。静佳さんは「災害時は火災や渋滞でどこを歩いているか分からなくなるかも。何度も歩いて確認したい」と気を引き締めた。

 車いすの高齢者が避難に不安を訴えたり、ベビーカーが未舗装の所を通るのに時間がかかる場面もみられ、東洋英和女学院大の桜井愛子准教授は「リアルな状況で課題を確かめられた。課題を踏まえ、迅速に避難できるよう対策を進めてほしい」と助言した。

浸水深5mエリアも/地区の半分冠水

 平塚市は神奈川県のほぼ中央に位置し、人口約25万。相模湾に面し、海岸線が東西に約4.8キロ続く。市東部を相模川、市西部を花水川が流れる。

 なでしこ地区は花水川河口の東部に広がる住宅街で約3000世帯、7500人が暮らす。

 神奈川県が2015年3月に発表した津波の浸水想定によると、浸水深が5メートル近くになるエリアがあるほか、花水川沿いは内陸約1キロのJR東海道線まで津波が入り込み、地区の半分近くが冠水する。

<専門家から>

■「地図」活用へ住民努力を/東洋英和女学院大准教授(防災教育) 桜井愛子さん(47)

 平塚市は「逃げ地図」をはじめ、行政の防災の取り組みが進んでいる。住民は行政が提供しているツールに一手間を加え、より有用にしていく努力が必要だ。

 重要なのは、全ての住民に「6分で9.6メートルの津波が来る」可能性があることを知ってもらうこと。逃げ地図を活用し、例えば自分の生活範囲を拡大コピーして街を歩き、垂直避難できそうなビルを書き込む。避難の具体的なイメージが膨らむだろう。

 防災への関心は人によって差がある。複数のチャンネルから情報発信して自然に「防災情報に囲まれる」状況をつくり、地域全体の意識向上につなげたい。備えの意識を浸透させるには、祭りなどイベントを活用して啓発するのも有効だ。

■親子で話し合いを重ねて/宮城教育大大学院准教授(防災教育・地理学) 小田隆史さん(39)

 訓練に参加した親子が「ここまで来れば大丈夫なの?」「いや、予想を超えて津波が来るかもしれない」などとやりとりしていたのが印象的だった。

 なでしこ地区には児童数約1000人の学校があり、防災教育に力を入れている。子どもたちが授業の内容を家で話す時、保護者の皆さんはぜひ真剣に聞いてもらいたい。子どもは大人の反応を見ている。

 不安をかき立てたくないかもしれないが、災害への想像力を喚起させるのは親の役目。「9.6メートルの津波の高さは160センチの身長の友達6人分だよ」などと、発達段階に応じて子どもの学びを工夫して行ってほしい。親子で話し合いを積み重ね、今後も防災意識の浸透に努めてほしい。

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