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<311むすび塾>若き経験者 伝承の力に/第74回ワークショップ@東松島、宮城・女川

高校生ら被災地視察・語り合い

「女川いのちの石碑」の前で建立に込めた思いを伝える渡辺さん(左端)=宮城県女川町宮ケ崎
震災の伝承に向け、若い経験者世代の役割を話し合った=女川町まちなか交流館
津波被災した自宅跡地で当時の状況を語る高橋さん(左から3人目)=東松島市大曲浜地区

 河北新報社は2017年12月17日、通算74回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を東松島市と宮城県女川町で開いた。東日本大震災を小学3~6年生の時に経験した同県内の高校生ら10代の若者6人が参加。津波に襲われた海辺を訪ねて当時の教訓を胸に刻み、未来への伝承に向け経験者世代の自覚を新たにした。

 語り部グループ「TSUNAGU Teenager Tourguide(TTT)」のメンバー、宮城水産高(石巻市)2年高橋さつきさん(17)は、津波で流された東松島市大曲浜地区の自宅跡地に生徒らを案内し、両親と祖父を亡くした状況を語った。

 高橋さんは当時大曲小4年。同校に迎えに来た両親と会えたが、母親が出産間近で両親が荷物を取りに帰宅してしまい、犠牲になったという。「どうして助けられなかったのかと自責の念に駆られる」と高橋さん。「津波が起きそうな時、大切な人が自宅に戻ろうとしたら無理にでも引き留めてほしい」と訴えた。

 一行は女川町にも向かい、震災時の津波到達点より高い位置に建てて後世への教訓としている石碑を見学した。

 女川中卒業生のグループ「女川1000年後のいのちを守る会」の一員として建立に関わった東北学院大1年渡辺滉大(あきと)さん(19)が、同町宮ケ崎の石碑前で経緯を説明。津波犠牲を繰り返さないようにとの思いを込めたといい、「若い世代の発案を大人たちが受け止め、支えてくれた。同様の取り組みが他地域にも広がってほしい」と願った。

 視察後、参加者は女川町まちなか交流館で語り合いに臨み、被災体験を伝え継ぐための方策を考えた。

 TTTメンバーの石巻市桜坂高2年武山ひかるさん(17)は「被災した友人の間でも震災の記憶の風化が進んでいると感じる」と危機感を示した。一方で「つらい経験を話したがらない友人も多い」(高橋さん)との声もあった。

 参加した生徒らは、被災経験を自ら話せる最後の世代と言われる。経験者の伝承が語り継ぎの起点になると確認した上で「広島原爆でも未体験者が伝承に尽力している」と幅広く担う必要性にも議論が及んだ。

 被災は免れたという名取北高3年砂口優美子さん(18)は、部活動で「ストレンジスノウ」と題した震災劇に取り組んだことを報告。「震災の教訓を後世に伝えるのは、体験の有無によらず、どの世代も担っている。伝えたいという意識が重要だ」と述べた。

 教訓の伝承に関する意見も出され、築館高(栗原市)の生徒有志による被災地応援合唱曲「明日の君へ」の制作に参加した同校3年松井若奈さん(18)は「県全体で震災を考える日を設けたらどうか」と提案。神戸市の人と防災未来センターを例に「1カ所で震災を学び、考えられる施設が欲しい」との声もあった。

 元石巻西高校長の斎藤幸男東北大特任教授は生徒らの活動を評価。「若い世代の前に進む力が本当の復興の始まりになる」と期待した。

TTT 全国で講演/いのち守る会 石碑建立

 TTTは、東松島市で震災を経験した女子高校生が2015年5月に結成した語り部グループ。現在、震災時小学6年だった女子大学生4人と、小学4年だった女子高生2人が活動している。

 主な取り組みはかつてメンバーの自宅があった同市野蒜、大曲浜両地区の現地ガイド。ボランティアや学生団体を案内して津波被災や避難の体験を語り、命の大切さを訴える。講演依頼も多く、17年は北海道から熊本県まで全国20カ所以上で体験を伝えた。

 女川1000年後のいのちを守る会は、宮城県女川町の女川中卒業生のメンバーで活動する。震災時の津波到達点より高い地点に「女川いのちの石碑」(高さ約2メートル、幅約1メートル)を建て、「逃げない人がいても、ここまで無理やりにでも連れ出してください」と刻んで教訓を次代につなぐ。

 町内に21ある全ての浜に建てる計画で、13年秋の女川中を皮切りにこれまで16基設置。総額1000万円と見込む建設資金は、各地で募金活動を展開して工面している。

 震災の教訓などを盛り込んだオリジナルの「女川いのちの教科書」作りにも力を入れ、教育現場での普及・活用を目指す。進学や就職で地元を離れるメンバーもいる中、定期的に会合を重ね、古里を拠点に伝承活動を続けている。

<助言者から>

■「継ぐ」聴いた人の務め/東北大特任教授 斎藤幸男さん(63)

 震災から6年以上たち、若い人が演劇や合唱、語りで表現する力をつけて前に進もうとしている。

 震災時の中高校生は、目の前のことを乗り越えようと懸命だった。先輩の姿を見て、記憶をたどって語れるのが当時の小学4~6年生。その下になると、記録を読み、学校で習わないと伝わらない。その世代にどう伝えていくかが課題だ。

 語り継ぎには、自分の気持ちを整理する面と社会的な意味を伝える面の二つがある。「継ぐ」のは聴いた人の務め。「語る」人は、焦らずにゆっくり語ってほしい。

■語れることを語る 大事/東北大災害科学国際研究所助教 定池祐季さん(38)

 中学2年生の時、北海道奥尻島で北海道南西沖地震に遭った。自宅は無事だったが、198人が犠牲になった。いま島では「災害は終わったこと」とされ、行政の追悼行事もなくなった。自身の体験を語る語り部はごくわずかになった。

 多様な世代の人が経験を伝えることで多くの人に届き、防災が広がる。若い皆さんの活動に感謝したい。

 自分に語る資格があるかと悩んだり、生き残った自分を責めたり、そんな気持ちの時は無理しないこと。大事なのは「語れることを語る」。長い人生で、悩みが昇華されることも願う。

■被災の有無は関係ない/東松島市矢本二中教頭 阿部一彦さん(51)

 震災時は女川中(女川町)の教員だったが、教え子を亡くしている。若い世代が震災のことを伝えたいと思ってくれていることに心から感謝したい。

 中には「被災者でないから」と語ることをちゅうちょしている人もいる。でも自分が被災したかどうか、直接震災を経験したかどうかは全く関係ない。

 この震災は1000年先まで語り継がないといけない。体験者しか語れないのであれば、広島の原爆体験も今は誰も知らない話になる。知らなかったら聞けばいい。若い立場から話したいことを話してほしい。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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