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<311むすび塾>女性視点でニーズ対応/第73回ワークショップ@東松島・赤井地区

避難所運営 課題探る

震災時の避難生活を振り返り、地域防災に女性の力を生かす重要性を確かめた「むすび塾」=東松島市の赤井市民センター

 河北新報社は2017年11月21日、通算73回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を東松島市赤井で開いた。「女性と防災」をテーマにNPO法人イコールネット仙台(仙台市)と共催。東日本大震災直後の混乱期、女性たちの切実なニーズにきめ細かく対応した避難所があった事例を共有し、女性視点の大切さを確認。地域の命と生活を守る防災に向け、女性の参画を進める方策を語り合った。

 地区内の赤井市民センターに自治会長、児童委員の女性や自主防災組織代表の男性ら住民8人が集まり、専門家を交えて話し合った。

 センター事務次長の渡辺和恵さん(51)は、震災当時、避難所となったセンターで避難者に応対した経験を紹介。「男性スタッフには言いにくい」という相談を女性被災者たちから受け、女性トイレに生理用品を常備し、下着の配布を男女別にした。女性更衣室や幼い子が遊ぶプレールームも設けた。

 背景には、震災1年前に市内で上演された寸劇があった。地元の演劇サークル「コロッケ」が、女性の意見を生かした避難所運営の在り方を提言。脚本を担当した渡辺さんが、避難所で女性が抱える不安を事前に学んでいた経験を生かし「劇を思い出して対応した」。

 震災直後、赤井市民センターのような取り組みはまれだった。

 海に近い同市大曲小で避難所運営に関わった大曲地域自主防災組織連絡協議会長の阿部邦男さん(72)は「当時は、物資の確保や殺到する安否確認に応じるので精いっぱい。女性の悩みに配慮する余裕がなかった」と振り返った。

 参加した男性からは「周囲とよくコミュニケーションをとれるのは女性」、女性からも「女性の方が意見を言いやすい」と期待の声が上がった。主任児童委員の佐藤まき子さん(68)は「地域で活動する女性は多いが、意思決定の場に少ないのが課題」と指摘した。

 男女で協力する大切さを訴える声も多く、心と体の性が異なるトランスジェンダーの優(ゆう)さん(57)=「奥松島公社」勤務=は「男は女のことが分からないし、女も男のことが分からない。互いに思いやることが大事だ」と強調した。

 女性と防災をテーマにした「むすび塾」は、仙台市宮城野区岩切で今年3月に初めて開いて以来2回目。今後も定期的に開催する。

「仙台枠組」基に男女参画加速

 女性と防災のテーマは、仙台市で2015年に開かれた国連防災世界会議でも議論となった。会議で採択された国際指針「仙台防災枠組」(15~30年)は、東日本大震災を教訓に、防災・減災の指導原則の一つに「女性と若者のリーダーシップ促進」を盛り込んだ。

 「守られる側」とされてきた位置付けの転換を図った形。多様な視点による実践的な備えが進むよう、女性が地域防災に主体的に参加し、その力を生かす環境づくりが課題となっている。

 仙台市は、16年に策定した男女共同参画せんだいプランで「国連防災世界会議の開催都市として先駆けた取り組みを進める」と宣言。基本目標6項目の一つに「復興・未来へつなぐまちづくりにおける男女共同参画」を掲げ、防災や復興を担う女性の人材育成とネットワーク構築をうたった。表に挙げた施策を計画期間の20年までに進める。

 13年に全面改定された市地域防災計画も、基本方針に「男女共同参画の視点を取り入れた災害対策」を明記。避難所運営委員会への女性の参画や女性に配慮した物資の備蓄などを推進する。災害時、避難所運営に関わる担当職員向けの研修も実施し、男女別の更衣室やトイレ、洗濯物の干し場、授乳室の確保などに留意するよう求めている。

南部中心に浸水被害

 東松島市赤井地区は市東部の住宅地と農地が混在する地域にあり、石巻市と接する。地区人口は約7600(2014年4月現在)で、市内8地区(矢本東、矢本西、大曲、赤井、大塩、小野、野蒜、宮戸)の中では市中心部の矢本西に次いで多い。

 東日本大震災では、津波で地区を流れる定川から水があふれ、南部を中心に浸水被害を受けた。

 赤井小や赤井市民センター、赤井地区体育館などに避難所が開設され、大勢の住民が身を寄せた。各避難所では、海沿いの大曲地区の被災住民も受け入れた。

<専門家から>

■生活者の視点生かして/イコールネット仙台代表理事 宗片恵美子さん(68)

 東日本大震災を機に、男性だけの発想で災害を乗り切るのは難しいとの理解が広まった。東松島市でも、地域防災を担う女性リーダーの養成に関心が高まっている。

 女性は、介護や育児などで高齢者や子どもら災害弱者と接する機会が多く、災害時、多様な立場に配慮して課題の解決策を考えられる。生活者としての視点もあり、地域を守る力を持っている。

 リーダーシップを発揮する立場の女性は少ない。男性と比べて公的な場で目立つことを敬遠しがちだが、防災に限らず、地域づくりにも女性の力は欠かせない。自信と自覚を持ってもらえるよう、地域の中でやる気のある女性リーダーをもっと育てていきたい。

■地域の会合 平日昼でも/岩手大地域防災研究センター教授 福留邦洋さん(47)

 「男性だけ」でも「女性だけ」でもなく、コミュニティーを密にしておく大切さは、震災の経験もあって多くの人が気付いている。では、どうすればいいか。

 新潟県中越地震のある被災地では、地域の話し合いを開く時間を平日の昼にした。昔からの男性中心社会で夜や休日に設定していたのを改めた結果、女性も集まれるようになった。コミュニティーづくりの工夫として参考にしたい。

 東松島市に限らず、復興過程で住民の顔触れは大きく変わってきている。地域をよく知る元々の住民と、知らない新住民が一緒に暮らし始めているのだ。地域の輪からこぼれ落ちる人を出さない関係づくりが復興のまちづくりには重要で、当然防災にもつながる。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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