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<311むすび塾>2ヵ月に1度 避難確認/第72回高知新聞社と共催/@高知・安芸(上)

南海トラフに備え夜間訓練

高さ20メートル超の津波避難タワーに向かう親子連れ=2017年10月28日午後8時40分ごろ、高知県安芸市伊尾木
保育所への夜間避難訓練で、避難する際の留意点を説明する安岡さん(右)=2017年10月28日午後7時15分ごろ、高知県安芸市伊尾木

 河北新報社は2017年10月28、29の両日、高知新聞社と共催し、通算72回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を高知県安芸市で開いた。南海トラフ巨大地震を想定。夜間の津波避難訓練を実施した後、住民らが東日本大震災や熊本地震の経験者と共に訓練の成果や課題を語り合い、地域連携を強めて備えの意識を高める大切さを確かめた。

 避難訓練は安芸市東部の伊尾木地区で28日午後7時にスタートした。台風22号の接近で大粒の雨が降る中、住民ら約50人が参加。15メートルの大津波を想定し、海岸から約300メートルにある伊尾木公民館から海抜約20メートルの伊尾木保育所を目指した。

 震災後に整備された避難路は街灯が少なく、ほぼ真っ暗。参加者は懐中電灯の明かりを頼りに、段差や側溝、水たまりに注意しながら15分ほど歩いて指定避難所の保育所に着いた。

 夜間訓練は、住民が震災を機に津波への危機意識を強め、2011年7月に始めた。隔月開催で38回目となった今回は、むすび塾に合わせて市内他地区の自主防災組織役員らがオブザーバーとして初めて加わった。

 訓練を運営する伊尾木小PTA会長の安岡豊さん(54)=市自主防災組織連絡協議会会長=は「訓練しないといざという時に逃げられない。2カ月に1回実施することで、懐中電灯の電池切れや避難路の草刈りの必要性なども把握できる」と語った。

 参加者は、公民館近くに完成したばかりの津波避難タワーへの避難も体験。階段とスロープを上り、数分で海抜約22メートルの最上階に到着した。

 西ノ島地区自主防災会副会長の山口隆朗さん(64)は「見通しの悪い夜、降雨でも訓練を続ける姿勢は素晴らしい。見習いたい」と評価。震災体験者からも「感心した。地元でも実施してみたい」との声が出た。

 一方で改善を求める意見も。車いす生活の家族がいる伊尾木地区の家事手伝い陰山直子さん(49)は「避難路は道幅が狭い上に足元も見にくく、障害者の自力避難は難しい。地区外の人など避難路をよく知らない人を誘導する看板も必要」と指摘した。

 河北新報社は14年から全国の地方紙と連携してむすび塾を開き、今回が10回目。高知新聞社との共催は16年2月以来2回目となる。前回のむすび塾後に同社は同様のワークショップ「いのぐ(「生き延びる」の方言)塾」を始め、今回は5回目のいのぐ塾として開いた。

市役所に津波6.5m想定

 高知県安芸市は土佐湾に面し、人口約1万7700。県が発表した南海トラフ巨大地震の被害想定によると、海から約700メートルの安芸市役所付近には地震の約1時間後に高さ30センチの津波が到達し、1時間40分後には最大6.5メートルに達する。海岸線での津波高は最大16メートルに及ぶとされる。

 対策として、高台に通じる津波避難路を28路線設け、津波避難タワーも幹線道路沿いなどに10基建設。ハード整備が進む一方、1946年の昭和南海地震以来、地震や津波の経験がほとんどなく「住民の危機意識が弱い」(市危機管理課)現状にあるという。

 住宅地や学校などが海沿いに立地するが、津波避難訓練を続ける伊尾木地区を除けば目立った取り組みはなく、ソフト面の対策強化が課題となっている。

<専門家から>

■状況に応じた避難体得/東北大災害科学国際研究所准教授(災害情報学) 佐藤翔輔さん(35)

 伊尾木地区の夜間避難訓練は、東日本大震災を経験した私たちにも多くの学びを提供してくれた。隔月で年6回も訓練すると体だけでなく心の面でも防災意識が根付く。「夜の避難路をもう子どもが怖がっていない」という住民の言葉がそれを裏付けている。

 年間を通して実施することで状況の変化にも敏感になる。夏と冬では避難時の服装が違う。季節によっては避難路にマムシも出るという。状況に応じて避難の仕方に工夫が必要なことが、自然に理解できる。

 震災では、過去の津波犠牲者を弔っている地域で、犠牲者が少なかった。そうした経験や習慣がない地域で防災意識を醸成するのは難しいかもしれないが、挑戦を続けてほしい。

■周辺地域に成果波及を/NPO高知市民会議理事 山﨑水紀夫さん(53)

 安芸市は1000年に1度の津波でも鉄筋3階以上の建物に避難すれば助かる可能性が高く、高知県内でも恵まれた地域だが、備えと訓練は欠かせない。

 夜間の避難訓練を始めようとすると「けがをしたらどうする」と反対意見が出る。しかし、危ない状況だからこそ繰り返し訓練する意味がある。

 伊尾木地区では、大人が先導しなくても、子どもが1人で逃げられるまでになっている。同様の取り組みが周りの地域にも波及していけばいい。

 災害時には逃げようとしないで犠牲になる住民も出てくる。災害が起きてからの説得は危険が伴う。普段から「あなたが逃げないと他の人が犠牲になる」と伝え続けることが大切だ。

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