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<311むすび塾>浸水地訪ね対策考える/第71回ワークショップ@宮城・大和吉岡

水害教訓にマップ作り

浸水現場で学んだことや水害への備えを防災マップに書き込む子どもたち=宮城県大和町の吉岡小
宮城豪雨で浸水した学校近くの水田を見学する児童ら。水位が自分たちの身長の倍以上に達したことを本田さん(右)から聞き、意識を高めた=宮城県大衡村

 河北新報社は2017年9月28日、通算71回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を宮城県大和町の吉岡小(角田研校長、児童741人)学区で開いた。同校の3年生34人が、2015年9月の宮城豪雨で浸水した農地などを訪れ、当時の被災状況を確かめた。現場で見聞きした水害への注意点を大型の防災マップに書き込み、備えの意識を高めた。

 日本損害保険協会(東京)の安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を活用して実施。児童は4班に分かれ、現場4カ所に向かった。

 善川沿いに広がる水田で、地元の農業本田昭彦さん(52)は「川の堤防の高さぎりぎりまで水位が上がった」と危うい状況だったことを説明。「周囲から集まった雨水がたまり、田んぼが湖のように冠水した」と振り返った。この日は朝から雨が降り続き、子どもたちは、坂道になっている道路脇の排水路を雨水が勢いよく流れる様子を観察した。

 吉田川沿いにある黒川地域行政事務組合事務所(2日に移転)と農産物販売店「JAグリーンあさひな」も訪問した。

 組合事務所では、助役の佐野英俊さん(66)が建物に残る浸水跡を紹介。「床上1メートル15センチまで水が来て、コンピューター機器類が水没した。予測を上回る被害だった」と語った。「あさひな」店長の蜂谷勝美さん(52)は「泥を含んだ雨水を店外へ出すのは大変だった」と話した。

 町危機対策室長の蜂谷祐士さん(53)は、周囲が水没して役場が孤立した状況を説明。川底の掘削や遊水池の新設といった水害対策も紹介した。

 児童たちは各訪問先で「こんな高さまで水が来たんだ」と驚いた様子。「天気予報をチェックして、早めに高い所へ避難することが大切」と指導を受けた。

 学校に戻ると、班ごとに防災マップ作りに挑戦。被災状況と共に、「大雨の時は低い場所に行ってはいけない」「避難場所を家族と話し合っておく」などの対策も記入して仕上げた。

 アドバイザーを務めた東北大災害科学国際研究所の保田真理講師(防災教育)は「大雨は今後も起きる可能性がある。今回学んだことを家族とも話し合い、安全な地域づくりにつなげてほしい」と呼び掛けた。

豪雨で吉田川など越水

 大和町吉岡地区は町中心部に位置し、江戸時代初期に奥州街道の宿場町「吉岡宿」として栄えた。2016年公開の映画「殿、利息でござる!」は吉岡宿であった史実に基づく。

 地区内では北に善川、南に吉田川があり、度々水害に見舞われてきたため、町は築堤や調整池整備などによる対策を講じていたが、24時間雨量が300ミリを超えた15年9月10~11日の豪雨では吉田川などが複数箇所で越水した。

 町中心部に濁流が押し寄せて交通網が寸断され、国道4号や県道、町道など10路線以上が通行止めとなった。消防、警察機能も一時的にまひ状態に陥った。

 町内で人的被害はなかったものの、吉岡地区を中心に約2000ヘクタールが浸水し、収穫間近の水田などが打撃を受けた。床上、床下浸水合わせて268棟の被害があり、3カ所の避難所には約520人が避難した。

<専門家から>

■親子で情報を共有して/東北大災害科学国際研究所講師 保田真理さん(61)

 2年前の水害時、どこまで水があふれ、どんな大変なことがあったのか。当時小学1年生だった子どもたちが、体験談を聞きながら実際に街を歩いた意義は大きい。自然災害の怖さを知るだけでなく、次にまた大雨が降った時、どうしたら被害を小さくできるかを考えることにつながるからだ。

 体験談を聞く中で、洪水は単に水位が上がるだけではなく、水の流れが大きな破壊力を持つことも知った。いざという時、高い所、丈夫な所に逃げる大切さを学んだ。

 今後は、各家庭でいかに情報を共有できるかが課題となる。街歩きを通じ、親も知らないような気付きを得た子もいる。親子で話し合うことで家庭の防災力を底上げしたい。水害に限らず、地震や津波への備えにもつながるだろう。

 親の務めは、有事に備えたいち早い情報収集。大雨なら早めに気象情報を確かめ、子どもに伝える。それは親の責任になる。

日本損害保険協会の「ぼうさい探検隊」

 「ぼうさい探検隊」は日本損害保険協会が2004年に始めた事業。小学生らのグループで地域を歩き、防災や交通安全などに役立つ施設や危険箇所を調べ、マップにまとめる。

 マップコンクールを年1回実施し、全国から作品を募り優秀作を表彰。探検隊の活動マニュアルも用意し、必要な文具キットを無償提供している。

 河北新報社は協会の協力を得て年1、2回、むすび塾に探検隊のノウハウを取り入れて開いている。探検隊の詳細は協会のウェブサイトに掲載。連絡先は日本損害保険協会啓発・教育グループ03(3255)1215。

<メモ>東日本大震災の体験を振り返り、専門家と共に防災の教訓や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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