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<311むすび塾>マニュアル周知 命守る/第70回ワークショップ/@岩沼・臨空工業団地(上)

津波被災の教訓共有

工業団地の津波避難マップを確認しながら、今後の防災対策を語り合う参加者=岩沼市下野郷の佐藤建設
震災時の津波到達水位を示す看板の下、当時の状況を振り返った=岩沼市下野郷の丸藤シートパイル仙台工場

 河北新報社は2017年8月28日、通算70回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を岩沼市の岩沼臨空工業団地で開いた。東日本大震災で被災した立地企業の経営者ら9人が参加し、災害に対する備えについて意見交換。「人命最優先」の企業防災に向け、震災を教訓に2014年に策定した団地の防災マニュアルを再確認する必要性を確かめ合った。

 岩沼臨空工業団地は震災で最大約4メートルの津波が押し寄せ、生産設備が浸水するなどの被害を受けたが、計約4000人いた従業員は全員無事だった。

 当時の状況について、参加者からは「車で避難したが大渋滞に巻き込まれ、気が気でなかった」「津波が約20メートルまで迫った」などと危険に直面した状況が紹介された。

 丸藤シートパイル仙台工場嘱託社員の渡辺達雄さん(65)は「津波は来ないと思い、工場から車で自宅に避難する際、いつも通り海沿いの道を走ってしまった。認識が甘かった」と語った。

 従業員への避難指示に関しては、大半の社がすぐに帰宅させたと証言。岩沼精工専務の千葉洋子さん(67)は「帰宅のタイミング次第では津波に遭う可能性もあった。当時の判断が妥当だったかどうかは自信がない」と明かした。「早期避難の大切さが浸透した半面、渋滞の恐れも高まった」と懸念の声も上がり、内陸側にある企業は「建物にとどまり高層階への避難を考えたい」との方針を示した。

 震災時の経験を共有した参加者は、工業団地としていち早く策定した防災マニュアルの活用策を議論。エコスチール常務の大槻せい子さん(59)は、津波警報が出た昨年11月の福島県沖地震を機に、マニュアルに沿った避難訓練を実施したと報告した。

 一方でマニュアルは浸透不足の傾向もみられ、震災の風化も進んでいることから、周知徹底する必要性を確認した。岩沼臨空工業団地協議会会長(佐藤建設会長)の粟野昭治さん(65)は「今後年1回はマニュアルの内容を各従業員にも配布し、意識を高める必要がある」と述べた。

 東北大災害科学国際研究所の丸谷浩明教授(防災社会システム)は「工業団地として津波避難マップまで作成している例は貴重だ。マニュアルの共有を進め、企業防災の取り組みを継続してほしい」と求めた。

200社が立地/三つの避難経路で車分散

 岩沼市の岩沼臨空工業団地は仙台空港の南にあり、市によると、1970年ごろから段階的に整備されてきた。鉄鋼、金属、物流、食品などさまざまな分野の企業約200社が立地し、このうち約140社が同工業団地協議会に加盟する。

 協議会は2014年、震災の教訓を従業員の安全確保に生かそうと、津波などを想定した団地全体の防災マニュアルを策定した。

 徒歩での避難を原則とした上で、車避難の際に生じる渋滞の緩和策を打ち出したのが特徴。地図の通り、各社の立地ブロック別に3方向の避難ルートを設定し、分散を図った。1、2ブロックの企業は西進して内陸へ、3、4ブロックは南下してから内陸へ誘導。5、6ブロックは北側の仙台空港ターミナルビルを避難先とした。

 マニュアルは従業員らの人命保護を最優先に掲げ、事前の備えを各社に要請。早期復旧などに役立つよう団地内の連絡網も整備し、企業連携を促している。

<専門家から>

■職場で定期的に確認を/東北大災害科学国際研究所教授 丸谷浩明さん(58)

 臨空工業団地として独自の避難経路や避難場所を定めているのは大変貴重な例だ。東日本大震災の教訓に基づき、被災後すぐに防災マニュアルの策定に取り掛かり、普及に取り組んでいるのは素晴らしい。ただ、避難道路の整備が進むなど状況の変化もあるので、避難先の一つである仙台空港など周辺との連携を含めた見直しを随時行ってほしい。

 災害時、経営者は従業員にすぐ避難を指示し、避難の方向を示せるよう日頃から努める必要がある。その一方、どの程度の津波がいつ来るかによって、会社外への避難か建物の上にとどまらせるかなど、判断に迷う場面もあることを従業員とあらかじめ認識し合っておきたい。そのためには、職場で避難計画や防災マニュアルを定期的に確認することが大切で、そうした積み重ねが有事の際に一人一人が自ら安全な選択ができる素地になる。

 企業が災害を生き抜く上では事業継続計画(BCP)も重要だ。災害後いち早く会社の実情を伝えるため、まずは重要な取引先などの連絡先リストを用意したい。BCPをまとまった計画文書を作るものだなどと過度に難しく考える必要はない。

<メモ>東日本大震災の体験や教訓を振り返り、専門家と共に防災や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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