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<311むすび塾>「訓練実施」22%どまり/第70回ワークショップ@岩沼・臨空工業団地(下)

災害時の迅速な避難/「新たに対策開始」71%

震災から約1カ月後の岩沼臨空工業団地(手前)。津波で全域が浸水し、大きな被害を受けた
震災後、岩沼臨空工業団地で進められたがれき撤去作業。企業連携で早期復旧・復興を果たした

 河北新報社は2017年8月28日に岩沼市の岩沼臨空工業団地で開いた通算70回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」に合わせ、立地企業を対象とした防災意識調査を実施した。東日本大震災後、災害時の迅速な避難に向け「新たな取り組みを始めた」との回答は71%に上ったものの、避難訓練を行っている企業は22%にとどまり、実効性に課題があることが分かった。

 調査は全5問で主な結果はグラフの通り。震災後の新たな取り組みについては、避難場所や経路の見直しを挙げる回答が17件(複数回答)と最も多く、「新道路完成に合わせて避難ルートを変更した」「工場内の通路の確保を徹底し、月2回点検している」などの記述があった。

 他には「備蓄品の準備」「避難ルールの周知」「車に乗り合いで避難するためのマニュアル策定」など。

 工業団地が震災後に策定した防災マニュアルに沿った避難訓練を実施しているかに関しては、「いいえ」と答えた企業が半数超の53%に上った。「マニュアルの存在を知らなかった」「マニュアルを紛失した」との声もあり、十分に浸透していない現状が明らかになった。

 仙台東部道路の東側に位置する団地は、震災の津波で全域が浸水した。「液状化で運転が大変だった」と車避難の困難さを挙げる声や「停電で津波などの情報が入らなかった」との指摘があった。

 災害から従業員の命を守る方策を尋ねた質問では「人命最優先の意識」「震災の体験や教訓の伝承」「車などの私財を失うという覚悟」といった意見が寄せられた。

 調査は7月中旬~8月中旬、岩沼市商工会の協力を得て実施。対象企業140社のうち45社から回答を得た。回答した企業の従業員数は「50人以下」が35社(77.7%)、「51人~100人」が4社(8.9%)、「101人以上」が3社(6.7%)、無回答は3社(6.7%)。

BCP策定13% 取り組み進まず

 被災後、早期に事業を再開するための方策を盛り込む「事業継続計画」(BCP)については、策定済みが13%、未策定は80%と、取り組みが進んでいない状況が明らかになった。

 策定していたのは製造業、建設業などの6社。このうち1社が2008年、ほかの5社は震災後に作ったと回答した。「発電機、燃料、製造に関する材料の手配」「ダメージ報告、回復措置など」といった内容が挙げられた。

 大手運送企業は非常時を想定した業務体制や連絡先一覧、外部連絡先などを掲げた上、3年ごとに見直すとの方針も示した。

 今回のむすび塾では、参加した8社全てが作っていなかった。語り合いでは「企業が大前提とする事業継続をあえて文書にする必要性が分からない」と疑問の声が出た。

 NPO法人事業継続推進機構(東京)副理事長を務める丸谷浩明東北大災害科学国際研究所教授は、実践的なBCPとして緊急時の連絡先一覧を用意しておくことを提案。「被災した企業の情報が途絶えると取引相手は『復旧できないかも』と不安を抱き、契約の切り替えにつながりかねない。現況を取引先に知らせることで信頼が保たれ、取引続行にもつながる」と述べた。

■従業員の生命保護一番重要/東京海上日動リスクコンサルティング主幹研究員 指田朝久さん

 今回の企業防災意識調査の結果からどんなことがいえるのか。企業のBCP対策に詳しい東京海上日動リスクコンサルティング主幹研究員の指田朝久さんに聞いた。

 企業は災害に対して命と経営を守ることが求められている。経営資源の中でも一番重要な従業員の命を守ってこその事業継続はその通りであり、工業団地全体の防災マニュアルを作るなど先進的な取り組みがされている。

 しかしながら53%が避難訓練を実施していない。人事異動などで震災当時を知る人も減少しているなど、マニュアルがあっても行動できなければ意味がなく、実効性に懸念がある。実際に行動するとマニュアルの変更点も発見できる。

 経営を守る事業継続は、収入の確保や雇用の確保のためのものであるが、策定率は13%にとどまり一層の取り組みが必要である。

 被害に遭遇しないようにする防災と異なり、事業継続の目的は被災を前提に被災時の製品やサービスの供給責任を果たすことである。同業他社との「お互いさま提携」などにより、代替戦略を軸に検討を進めることが有効である。

 防災も事業継続も人材の育成が成功の鍵であることを経営者はよく認識してほしい。

■企業防災調査 主な回答から

【震災時の避難で困ったこと】
・全員車通勤なので、車で逃げる時の渋滞(水産加工製造業)
・放送などがなく、避難した方が良いのか判断がつかなかった(自動車関連)
・停電で津波などの情報が入ってこなかった(卸売業)
・社員間の連絡が取りづらかった(廃棄物処理業)
・安全な場所が分からなかった(物流業)
・避難経路に対する知識不足。道路の渋滞(機械器具設置業)
【防災マニュアルに沿った避難訓練】
・年1回、社員全員参加。過去3回実施(鋼材卸売業)
・マニュアルを参考に避難の方法を話している(卸売業)
・マニュアルが引き継がれず、紛失(リース業)
【迅速な避難のための新たな取り組み】
・津波に関する注意報・警報が出た際はレベルに関係なく避難。避難先も決めた(リース業)
・拠点にトランシーバー型MCA携帯機を設置(廃棄物処理業)
・緊急連絡網の整備。非常用備蓄品の準備(文房具卸売業)
・避難場所を特定し、周知している(物流業)
・会社独自の集合場所を決め、全員の安否確認をできるようにした(コンクリート関連)
【災害から従業員の命を守るための課題】
・素早い判断、普段の災害への準備(卸売業)
・日頃の避難訓練と従業員の意識(機械関連)
・災害時の迅速な判断と情報収集(コンクリート関連)
・震災だけでなく水害も合わせた避難計画(廃棄物処理業)
・団地内に避難タワーがあるといい(鋼材卸売業)

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