＜３１１むすび塾＞客の安全へ　避難対策を／第６９回ワークショップ＠宮城・亘理荒浜・鳥の海

被災観光地の津波防災

　河北新報社は２０１７年７月２７日、被災した観光地の防災をテーマに、通算６９回目の防災ワークショップ「むすび塾」を宮城県亘理町荒浜の町営温泉施設「わたり温泉鳥の海」で開いた。地元の観光、商業関係者ら７人が意見交換。東日本大震災の教訓を基に、町外から訪れる人にも分かりやすい避難対策の必要性を確かめ合った。

　わたり温泉鳥の海は、海のすぐそばにある鉄筋５階の建物。震災の津波で１階が損壊し、営業を休止。２０１４年１０月に日帰り入浴を再開し、それ以降は１日１０００人前後に利用され、観光復興のけん引役として期待されている。

　震災当時、館内に残っていた利用客ら４４人は従業員の誘導で４階や屋上に避難し、全員無事だった。支配人だった丸子輝子さん（７４）は「帰宅を望む客が多かったが、説得して上階へ誘導できた」と振り返った。

　一方、語り合いでは「車で避難中に亡くなった客がいたと聞いた。土地勘がなく、渋滞に巻き込まれたようだ」との証言もあった。

　荒浜地区は海沿いにあるが、津波への意識は高くなかった。地元出身の参加者は異口同音に「昔から荒浜に津波は来ないといわれていた」「仮に来ても大したことはないと思い込んでいた」と語った。

　震災語り部の会「ワッタリ」会長の菊池敏夫さん（６７）は「間違った言い伝えを信じてしまった」。元・町荒浜支所長の渡辺恵子さん（６５）も、住民が避難した支所について「食料や毛布などの備えが十分ではなかった」と反省を述べた。

　当時の教訓を基に参加者は津波防災の大切さを確認。産直施設を運営する鳥の海ふれあい市場協同組合理事長の中嶋一昭さん（５８）は「観光客を守るのが観光地の立場。津波を想定した避難訓練をして対策を考えたい」と提案した。

　ほかにも「道に迷わないよう避難道路をカラー塗装したらどうか」「訪日外国人旅行者（インバウンド）にも理解しやすい案内が必要だ」とのアイデアが出た。町荒浜にぎわい回廊商店街代表理事の残間祥夫さん（５７）は観光客も参加する避難訓練を提唱した。

　東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔助教も訓練の意義を強調。「できる範囲で構わない。実践的な対策が重要だ」と呼び掛けた。

商店街など再建進む

　宮城県亘理町は、東日本大震災で最大約７メートルの津波に襲われ、関連死を含め町民３０６人が犠牲になった。高台がないため広範囲にわたり津波が到達し、浸水面積は町全体の約４８％を占めた。

　海に面した町東部にある荒浜地区は特に被害が大きく、犠牲者は１５１人に上った。

　今回のむすび塾に参加した佐藤さやかさん（３０）は温泉施設「わたり温泉鳥の海」１階で勤務中、津波に遭遇。垂直避難した施設の屋上などから被災直後の様子をカメラに収めた（写真（１）、（２））。当時の写真をアルバムにまとめ、産直施設「鳥の海ふれあい市場」で公開している。

　荒浜地区は町の水産・観光拠点。商店街と産直施設が再建され、わたり温泉鳥の海は来春以降、宿泊、宴会部門の再開計画がある。海水浴場の再開も検討されている。震災語り部の会「ワッタリ」は被災体験を視察者らに伝え、震災の風化防止に取り組んでいる。

＜専門家から＞

■リスク確認で安心感／東北大災害科学国際研究所助教（災害情報学）　佐藤翔輔さん（３５）

　にぎわいを取り戻しつつある東日本大震災の被災観光地が今後何をすべきか。観光客を迎える上で、石巻市の料理店組合の取り組みは参考になる。

　組合は震災後、話し合いを重ねて地震・津波対応の「心得」を作り、それを各店の壁やメニューなど客の目に入るところに明示した。心得は、自分たちの地域には津波のリスクがあること、非常時には各自が身の安全を確保する必要があることなどをうたっている。こうした姿勢は客への注意喚起だけでなく、安心感にもつながると強調したい。

　震災後、沿岸部で津波避難の実態を調べた結果、素早い避難ができた人には特徴があった。一つは、三陸で大きな被害が出た明治や昭和の大津波の史実を知っていたこと。もう一つは、災害時の対応を事前に家族で話し合っていたことだ。

　これは荒浜地区にも当てはまる。災害の記憶を共有し、訓練で課題を見つけて改善する。まずは小規模でも津波避難の訓練を実施して、観光客に安心して訪れてもらえる環境を整えたい。